鷹匠生誕文2011


何かがおかしい日の続編です。





皆さんこんにちは。佐伯柚子です。
突然ですがあたしのモットーとは

いちに弟を愛で、
いちに弟に尽くし、
いちに弟の安全と健康を守ることであります。

もちろん友人や後輩も大切ですが、あたしにとっての最大優先事項は可愛い弟で、彼と過ごす時間が何よりも大切なのです。


「おい柚子。早くメシ食おうぜ」

「ちっ…人がせっかく可愛いゆーたんの事考えてたのに邪魔してんなよ鷹匠」

「あ?何か言ったか」

「くたばれバカ匠って言った」

「てめぇ…」


ええ、とても平和で幸せな日々でした。
…ヤツが現れるまでは。






長く苦痛に感じる4限目もやっと終わりを迎え。
お昼を告げるチャイムが鳴ると、生徒達は意気揚々とお弁当やらパンやらを手に机を囲み始める。

空腹から解放される至福の時間に、皆の表情もより緩やかになり嫌にならないざわめきが室内を包んだ。

今までの生活通りならば友人達とお弁当を食べ、そして普通に午後の授業を受け、部活後には弟と帰宅する―――それが日常だった。

しかし。しかしである。


『好きだ』

この一言により、あたしの日常はいとも簡単に崩れ去ったのだ。




「ほら、このあたしが毎朝早起きして作ってやってるお弁当を感謝して食べなさい」

「すげぇ上からだな」

「あんたに言われたくないっつの。いいから食え」


屋上で繰り広げられるのは、恋人らしい甘ったるい雰囲気ではなく殺伐としたやり取り。
お互いに挑発しかしないからいつ喧嘩に発展してもおかしくはない。

もうこれはあたし達の性分というかルーティンワーク。今さらどうしようもないのだ。

周りからは『え、だって付き合ってるんですよね?』
と尋ねられるが、あえてハッキリ断言しよう。


付き合ってねーよ!!
むしろ恋人以下友達以下だよ!!

そんな噂がされるようになったのも、全ては隣であたしの弁当をかっくらう馬鹿が告白してきたから。
しかも白昼堂々ファーストキスまで奪いやがった暴君っぷり。

それなのにただ告白してきただけで、彼女になれとは言ってこない。
意味が分からないとはこの事だ。

強引なのか謙虚なのか、はたまたおちょくってるだけなのか。

ムカつく。
ハッキリしない鷹匠も、そんな奴を気にしてるあたしも。


「…何見てんだ?食い辛い」

「以外に箸の持ち方が綺麗で腹立つ」

「そりゃどーも。てかよ、この肉じゃが…」

「な、なに。文句ある?」


不意に真剣な顔つきになった鷹匠がとある話題に触れてくる。
不覚にも動揺を露にしたあたしを見て、ヤツは珍しく素直に笑った。


「いや、ちゃんと俺好みの味付けになったと思って」

美味いな、なんて刺のない口調を聞いてしまえば沸き上がってくるのはむず痒い仄かな喜び。
べ、別に褒められて嬉しいのはみんな同じだから!
こいつに褒められたから嬉しいとかじゃない、断じてない!


「ていうかそっちがさんざん文句言ってきたんでしょうが!?そりゃあんた好みにもなるわっ」

「良い事じゃねぇか」

「ちっとも良くねーよ!あんたの好み知るのがあたしにどうメリットがあるって言うの!」


焦りを隠せなくなり、つい声を荒げるあたしに、ヤツは至って真面目に答えてみせた。
真面目に、というよりはヤツの中で既に決定事項のように。
さらりと。呆気なく。


「今から俺の好み覚えておけば将来の生活が楽だろーが」

「……………………は」


今、この男は何を考えているんだろうか。
何を考えて発言したんだろうか。

見つめ返す相手の目は驚くほど真っ直ぐで、曇りすらない。
つまり嘘偽りではなく、それは、


「…あんたの将来設計図に、あたしもいる、と」

「当たり前だろ。いねぇと俺が困る」

「ちなみにポジションは」

「嫁に決まってんだろ」

「よくまぁ自信満々に…。あたしが了承すると思ってるの?」

「断言する。100%そうなるぜ?」


この弁当の味が証拠だ、と今度はムカつく不敵な笑みを浮かべた鷹匠に、あたしは口を次ぐんでしまう。

どうして反対出来なかったのか、分かりきっている答えでも口にするのは悔しくて。



「だけどよ…卵焼きだけは甘いままだよな。俺の家は塩派なんだって」

「…何であたしだけがあんたの家の味付け覚えなきゃなんないの。あたしは甘いのが好きなの。あたしと将来も居たいなら佐伯家の味も覚えろってんだバカ匠」


ズルいでしょ、そんなの。
あたしだけがあんたに染まるなんて。

だったらあんたもあたしに染めてやる。


そう思いを込めてガンを飛ばす、あたしなりの答え。
ヤツは面食らったような間抜け顔を晒してから思いきり爆笑した。


「ははは!これだから柚子は…っ」

「うっせー黙れ弁当返せ」

「やだね。望む所だ。柚子の味、覚えてやるよ」

「上から目線…」

「さっきのお返しだ。というか、もう覚えてるしな」

「は?何を―――」


まだ笑いを引きずるヤツは、あたしの顎を捕らえるといつぞやの時みたいに唇をかっさらっていった。
ニヤリと挑発的に笑うのも、あの時のままだ。



「柚子の味なら、もうとっくに覚えてる」



あたしの可愛い可愛いゆーたん、


お姉ちゃんはもしかしなくても、とんでもないヤツに捕まってしまいました。

人生設計台無しです。

でも、まぁそんな生活も悪くないと思っているあたしも、十分とんでもないヤツなのでしょうか。


とりあえず、あたしの味は甘い卵焼きらしいです。



Tell me your taste !
(次からの卵焼きは、甘いのとしょっぱいの、両方入れようか)


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