飛鳥


※飛鳥さんが先生になっているパロディです。
苦手な方はブラウザバックでお願いします。






私には意中の先生がいます。


「あーすかセンセっ!」

「…」

「ちょっと無視しないでよー。せっかく遠路遥々愛しの教え子が来たってのに」

「生徒指導の呼び出しを受けて“やって来た”とは随分上から目線だな」

「えぇー?飛鳥先生の呼び出しだから素直に来たのに」

「ついでに指導の原因である服装も素直に直してくれるとオレの胃が助かるんだが」


なんで?可愛いでしょ?


疑問に首を傾げると、先生がこれ見よがしに肩を落とす。
顔を覆った私好みの骨張った手に触れられたいなぁ、なんて場違いな事を考えるのは私が変人と称される所以だ。


女子高生に付き物の服装頭髪検査。
私は教員お墨付きのブラックリスト対象者だ。

幾度となく呼び出された私だけど、注意に一度として従った事はない。

だってその指導者は、私の大好きな飛鳥享先生だから。
入学したときから一目惚れだった。
先輩や同級生、後輩から告白を受けてもちっともときめかない。

私の目はいつだって彼を追っていた。
若いのに実力も人柄も最高で男女関係なく人気の、飛鳥先生を。


「全く…今月に入って何回目だ?お前に割く反省文用の原稿用紙が勿体無いぞ」

「正論だけどもうちょいオブラートに包んで先生!」


しょうがないじゃん。
私がイイコになったら、先生は私に構ってくれなくなる。目もくれなくなる。

先生の黒真珠みたいに綺麗な瞳が他の子に向くなんて絶対イヤ、耐えられない。

私の身勝手なワガママを、頭ごなしに怒らない先生の優しさにつけ込んでてごめんね。

好きなの、好きなの。
好き好き好き。
両手では表せない位先生が大好き。



「ほら、今日もお前のために尊い犠牲となる原稿用紙に感謝して反省文を書け」

「ねぇセンセー…」

「その折ったスカートを二回分下ろせば質問に答えてやろう」

「(扱い上手い…)…教師と生徒の恋愛ってアリだと思う?」


ナシだろうと予測しなくても分かる。
誠実が服を着たような先生だ、そんな不純な関係認めはしない。

聞いた私の声は震えていた。
でも限界だったのだ。



「ナシだな。そんな危うい関係、お互いを苦しめる枷にしかならない」


あっさりばっさり切り捨てた先生の表情は冷静。
ズシリ、と岩石がのし掛かったような重みだった。
ああこんな感情を絶望と言うのかな。


「そ…うだよねー。ごめんごめん、最近読んだ携帯小説に影響受けちゃって。聞いてみただけ!」

よっし反省文頑張りますか!


先生から原稿用紙を引ったくって、今までの事を忘れるように文章へ打ち込んだ。

(…明日から、制服直そ)


ああもはっきりフラれてしまっては流石の私だって落ち込む。
先生がこっちを向いてくれないのなら、せめて彼の手を煩わせる行為は止めよう。

震えて歪になっている文字を上の空で眺めながら、滲む視界に目を瞑った。



「…一年」

「?なに…」

「あと一年、待つことは出来るか」



指導室に響いた先生の声はいつもと変わらない落ち着いたトーン。
目的語の抜けた意味の分からない言葉に涙も引っ込み目を開いた。

真剣な顔の先生と視線が合えば、自分で考えろと言わんばかりに沈黙が続く。


一年後に何を待てばいい?
私は現在華の高校二年生だ。
季節は春、最近卒業式を終えたばかりで校内の生徒数はぽっかり空いている。
必然的にもう受験生な訳で、その一年後と言えば私も卒業してこの学校を去っているだろう。

そこで先生のセリフが思い出された。



『あと一年、待つことは出来るか』

――――何を?


『教師と生徒の恋愛ってアリだと思う?』

『ナシだな。そんな危うい関係、お互いを苦しめる枷にしかならない』

――――もしかして、?



心に灯った僅かな希望を確かめるために先生を見ると、正解した生徒を褒めるような、それ以上の感情を含めた微笑みを浮かべていた。


「卒業すれば、俺とお前は教師と生徒ではないからな」

「せん、せ」

「一年間、我慢してられるか?」


溢れる涙をそのままに無我夢中で頷くと、先生の笑い声が聞こえて柔らかく目元を拭ってくれた。


「わ、私頑張る!一年我慢する!見ててよ、超いい女になってやるんだから!たかが一年!たかが365日…あれ結構長い…」

「自分の発言に落ち込むな」


意外と長い期間にショックを受ける私を笑いながら、先生は私の頭に手を置く。


「一年後、楽しみにしてるぞ?……柚子」


約束、と囁いて額に当てられた唇の熱と感触に、これからの学校生活でいくつ心臓があっても足りないと思った。


来年の桜吹雪が舞う中で
(正々堂々君を抱き締めよう)


翌年のこの日、彼から渡されたのは満開の桜よりも美しいエンゲージリングであり、泣き笑いで左手の薬指にはめてもらうのは。

まだ未来の話―――。


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