駆生誕文



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」

「ちょ、待ってってば!」


只今廊下を走り回っている迷惑極まりない一組の男女。

明らかに異様な光景の異様さを増しているのは一つ、逃げているのは男で追っているのは女と言う点。


「何で逃げるの駆くんーーーっ」

「それは石崎さんが追いかけてくるからです!」


もう一つの理由は温厚な性格の逢沢駆をここまで混乱させている石崎にある。


「何で!


猫耳つけることの何が嫌なのよ!?」



「キャーーー!!それ、それですぅぅぅぅ!!」




全てはこの猫耳から始まったのだった。

















「おーす」

「おはよう駆くん」

「高瀬くん、薫くん!おはよう」


寒さが身を引き締める早朝、登校途中の駆は笑んで友人二人に挨拶を返した。


他愛もない話をしながら歩くと、綺麗に揃った声が通り抜ける。


「「おはよう!」」

「おはよーセブン、石崎さん」


クラスメイトの彼女たちは何やら嬉しそうな表情をしていて、駆は疑問に首を傾げた。


「どうしたの?二人ともご機嫌だね」


駆が尋ねると、彼女たちは笑顔を見合わせて彼に言った。


「「ハッピーバースデー!駆(くん)っ」」

「え―――あ、ありがとうっ」


愛らしい少女からの満開の笑みと不意打ちの祝いを貰った本人は一瞬戸惑いを見せたが、順応すると負けない位の笑みを返す。

満足げな彼女たちは、しかし不思議なオーラを纏いながら駆に近付いた。



「…な、なに?」

「ふふふ…」

「え、セブン何その含み笑い怖い」

「あのね、実はあたし達からプレゼントがあるのです。貰ってくれる?駆くん」


嫌な予感しかしないが、ここで受け取らなければ男が廃ると無下にすることも出来ず、了承しようとした矢先。


駆は見てしまった。


石崎の背中から覗く、動物の…具体的に言うなら猫の耳の先を―――




ダッ





「あっ駆!?」

「チッバレたか…!」

「追うわよ柚子!」

「合点承知っ」


笑顔を固まらせたまま、脱兎の如く駆け出した彼を追いかけた彼女たちはまるで捕食者のようだった……と駆の友人は語ったとか。




***


「こら駆くん!待て、お座りっ伏せ!」

「みょうじさんオレ人間なんだけど!」

「知ってるよ!でも属性は犬でしょ?」

「ダメだもうオレの理解の範疇を越えている!!」


石崎は至極楽しそうだが駆にとっては死活問題だ。
あんなもの着けられた日には人生一番の汚点になりかねない。
これからの平穏な学校生活が己の両足に懸かっていると言っても過言ではないと思う。

現役サッカー部に着いていっている石崎も大層なものであるが、彼女は急に足を止めた。
不審に思った駆もそれに倣う。



「…石崎さん?」

「…あ、あたしはただ、駆くんに似合うと思って…!
でもやっぱり迷惑、だったよね、ごめんねっ…」

「えぇっ!?そ、そんなつもりじゃ…」


震える声音からもしや泣いているのかと仰天した駆は慌てて彼女の方へ歩みを進める。

しかしその一瞬の好機を見逃さない石崎ではなかった。


「隙ありっ」

「わっ?」


涙なんて流れてすらいない顔をあげた石崎は、すかさず猫耳カチューシャを駆にはめようとした。

がしかし、持ち前の反射神経で見事防いでみせた駆は石崎の手から猫耳を奪うと、仕返しにと彼女に装着する。



「あーーーっ何してんの!?」

「嫌だからに決まってるでしょ!ていうか、こういうのは石崎さんのが似合ってるし、か…可愛いから…」

「いやお世辞とかほんと要らないんで…」

「お世辞じゃないよ!オレにとってその恰好が、き、今日一番のプレゼントだからっ!」

「駆くん…」


駆にしては告白にも近い好意を示した筈だった。
これで彼女に伝わったと思ったのだ。


「分かった、奈々にコレ着けて写メればいいんだね!?」

「―――はは、泣いていい?」

「え、鳴いてくれるの?」

「何で嬉しそうなの…」


だが悲しいかな、相手は一枚も十枚も上手だった。
(スルー的な意味で)


「鳴き声はぜひぜひ“にゃーん”でお願いします」

「…誕生日ってこんなに疲れたっけ」


苦悩者苦悩的聖誕祭
(“ごろなーん”も捨てがたいな)
(ていうかそもそも漢字違うから!)





−−−−−


駆くんハピバ!
ギャグに…逃げましたすみません。

甘く書けるように精進します。

11/10/23:56

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