傑生誕文
今日は俺の誕生日。
朝から家族がお祝いの言葉をくれたりして本人以上に盛り上がっていた。
顔には出辛くても嬉しい気持ちはあり、上機嫌で登校した十月一日。
「逢沢くんっ誕生日おめでとう!これプレゼントだから!」
「傑くん、良かったら貰って下さい…!」
「……どうも…」
次から次へとやって来る女子や贈り物の数々に、珍しく上昇していた俺のテンションは見事に降下中だ。
祝ってくれるのはありがたいが、正直あまり親しくない人から物を貰っても申し訳ない気持ちになる。
ラッピングって金かかるんだろ、何か勿体ない気がするんだよな…
そう友人達に呟いたら凄い形相でリンチされかけたので余計な発言は控えようと決心した。
「おやおや、本日は一段と人気なようですな王様や」
「石崎…冗談はやめてくれ」
憂鬱な体を一層重くしたのが、今しがた話し掛けてきた少女のからかい。
少女―――石崎は俺が自然体でいられる数少ない女子であり、友達止まりの想い人でもある。
彼女はわざとらしく口元に手をやりながら俺の周囲を見渡す。
「だってそんなの見せつけられちゃったらさ、言うしかないじゃん。どこのバーゲン?」
そう指を差すのは机の上を牛耳っている大量のプレゼントだった。
既に紙袋二つに及んでいる。
「みんな中間テスト前だってのに気を使いすぎだよな…。当の俺が今朝家族に言われるまで忘れてたんだぞ」
「恋する乙女のパワーだよ。誕生日って一大イベントらしいし。かくいう私も逢沢が言うこの瞬間まで忘れてたクチだけどね!」
そっかー、今日誕生日だったんだ?
と無邪気な笑顔の彼女はきっと試験前の勉強に没頭していたんだろう、いつもは無いクマが出来ている。
俺と同じようなボケをかます石崎に安心しつつも、特別な感情を抱く彼女にこそ祝って欲しい…なんて矛盾が生じた。
しかし彼女は普段と変わらない様子で興味深そうに紙袋の中を覗いている。
「わぁ!ちょい逢沢見てごらん」
「お前人のもの勝手に漁るなよ…つかスゲぇ」
「ね、サッカーボール模様のクッキーとか器用過ぎ!気合い入ってるねこりゃ。逢沢甘いの好きだし良かったじゃん」
その時俺は返答に詰まった。
気合いとか中身とかそんなのが問題なんじゃなくて。
俺はお前から貰えれば十分なのに、な。
「ん?どした逢沢。まさかまだ貢ぎ物が足りないと…!?そんなに全校の男子生徒を敵にまわしたいの?勇者だね」
「さっきまでの俺を見といてその言いぐさか。話を肥大させるな」
何を勘違いしたか俺の思考を捏造した彼女に恨みがましい視線を向ける。
しかしそれをあっさり避けた石崎は何やらショルダーバッグを探り始めた。
黙って成り行きを見届けていると、目的の物を発見したのかにこやかな面が近づいてきて俺の心音を大きく鳴らす。
「な、何だよ…」
「テスト前でも大事な友達の誕生日を祝わないのは失礼だし。お手を拝借」
いきなり手を取られて乗っけられたのは、綺麗に編み込まれたミサンガだった。
「石崎、これ」
「もうすぐ大会でしょ?無事に勝ち進んで優勝出来ますようにって思って。ま、気が向いたらつけてよ」
やけに早口な彼女の手首を掴むと、ブラウスの下から俺に渡された物と同じミサンガが現れる。
「石崎、実は俺の誕生日覚えてただろ」
「…さぁ」
「その目のクマもこのミサンガを作ってたからだよな」
「…黙秘権を行使します」
「黙秘は肯定とみなします」
それでも黙り続ける彼女に、下がった気分は上へと伸び上がっていく。
「…応援してるから。勝ってよね」
「任せとけ。今なら絶対誰にも負ける気がしねーから」
やがて小さく溢したその言葉に、今日一番の笑みと共に早速つけたミサンガを示して答える。
うっすら赤みが増した顔で照れた微笑みを浮かべた彼女は同じように自身の手首を飾るそれを見せた。
約束、繋いだ。
(決してほどけないように)
−−−−−
傑さんハピバ!!
本文でヒロインが一度も言ってなかったので今言いました。
しかも完全に日付変わってました…。
つ、次こそは!
10/10/02/00:57
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