鷹匠生誕文


おかしい


なんで いつから


どうしてこうなった!!










朝っぱらから日差しが照りつけ蝉の元気な声が鼓膜を攻撃する夏の中旬。

蝉さん少し黙ってて下さい、一週間の命でしょ。
行き急ぐ気持ちもあるだろうけどそんなに大音量で鳴かなければちょっとは延命出来ると思うよ毎年!


ていうか気が散るから今だけは止めてまじで。

伝わる筈もない昆虫に心の奥で文句を言いながら木の陰から覗くは、自身が通う高校のサッカー部朝の練習風景。

別に誰かの追っかけって訳じゃない。(確かに顔がいいやつ揃ってるけどね)
普段なら近づきたくもないこの場所にいるのは、とある重大な使命を背負っているから。


けどアイツには…アイツだけは絶対にバレないようにしなきゃ……っ






「あの、柚子センパ」

「っくたばれ悪鬼が…って何だ国松か。びっくりさせないでよ」

「ものスゴい形相で塩まかれそうになった俺がびっくりしたんですけど…」

「ああごめん…」

「いえ、後その唐草模様のほっかむりについては」

「触れるな危険」

「すんません(真剣だ…)」


驚いたー、背後から声をかけないでよ全く。ヤツかと思った。
冷や汗を流す彼は無視の方向であたしは向きを戻して目的の人物を探す。(指摘されたからほっかむりは外した)

うああ男ばっかでムサイ。
早く、早くあの子の癒しを…!




「柚子姉?どうしてここに…」

「…っマイエンジェル祐たんんんん!!会いたかったよぉぉぉぉぉ!!」

「うわっ!?ちょ、苦しいって」

「我が癒しよ…!」


やっとこさ出会えた最愛の弟、祐介にほぼタックルに近い形で抱きついたけど、注意するだけで決して嫌がりはしない。
反抗期のはの字も見せない自慢の弟にしばらく引っ付いて荒んだ心を癒してもらうと、惜しい気持ちを抑えて離れた。


「…満足した?」

「うん!」

「苦労してるな、祐介…」

国松が遠い目の祐介の肩にそっと手を置いて何かを言っていたけどそんなのは気にしない。


「いつもの事ですから…。
それで柚子姉、何の用?
ここに来るなんてよっぽどじゃ…」


「あ!そうそう!
はいっ祐介今朝お弁当忘れていったでしょ。お母さんに頼まれたの」

「えっ…ごめん、ありがとう」


お弁当箱の入った袋を渡すと少し照れながらも受け取ってくれたのが可愛くて、さらさらな髪を撫でくりまわした。

しかしその時あたしの頭からすっかり抜け落ちていた問題があったのだ。


一体何故あたしが隠れながら来たのか、ということを―――






「おいそこのブラコン二号」


低く唸るような声と獲物を認めた鋭い視線があたしに降りかかってきた。
瞬時に鳥肌が立ち、寒気が襲う。


「…あっは、もううっかりしちゃダメだからね祐たん!じゃ、お姉ちゃんは教室に」

「シカトしてんじゃねーよ柚子このやろう」

「ぎゃぁぁあテメー離せよ鷹匠ばか野郎!ブラコン上等っつーかそれあたしを馬鹿にする代名詞なら一号の逢沢君に謝れよな!」

「悪ぃ傑」

「わぁ素直☆ていうかこの手を離せぇぇぇぇぇ!!」

見つかってしまった…(まぁあれだけ騒いでたら当たり前か)

何を隠そう、あたしはこの俺様野郎な鷹匠瑛が死ぬほど大嫌いなのである。

例えるならば油と水、犬と猿…と言うような絶対に相容れない存在なのがヤツだ。
向こうもあたしが嫌いなはずなのにどうしてこう絡んでくるかな…!
新手の嫌がらせか?
Mか、鷹匠はMなのか。


「うるせぇ叫ぶな。朝練中にいちゃつかれると迷惑なんだよ」

「だから休憩時間に来たんだろうが見て分からない?そんな睨まなくても今帰る所だったんですー。
あ、お馬鹿な鷹匠君には分からなかったんですねすみませーん」

「ほぉ…いい度胸じゃねぇか」


どんどん口も態度も悪くなるあたしに痺れを切らした鷹匠は、額に青筋を浮かべて低く低く呟いた。


「思えばお前は出会った頃からそんな風につんけんしてたよなぁ」

「去年部活中のテメーがあたしの頭へシュートを決めたからな手を離せ」

「謝っただろ」

「たかがチロル一個で許されると思うな手を離せ」

「俺だけにいつもそんな眉間に皺寄せて疲れないか」

「ざけんな疲れるに決まってるわ。
お前があたしに関わらなければ万事上手くいくんだよ手を離せっつってんだろ」

「俺も不思議に思ってな、何でこんなにお前が気になるのか」

「会話してる様で微妙に噛み合ってないんですが聞けよ鷹匠」

「好きだ」



あたしがどれだけ悪態を吐いても余裕の笑みを崩さないヤツを不審に思っていると、ヤツには到底月とスッポンな言葉が耳に届いた。
怪訝な顔を示せばまた腹立つ笑みでのたまいやがる。


「だから、俺の言動の原因は柚子。お前が好きだからだ」

「…国松、救急車を呼んでくれる?あ、やっぱり霊柩車でいいや」

「柚子先輩落ち着いて、勝手に死亡フラグを立たせないで下さい」

「嘘だあり得ないまじあり得ないエイプリルフールはとうの昔に終わったぞ」

「なぁ柚子、俺今日誕生日なんだ」

「鷹匠さんもお願いですから話を脱線させないで下さい姉貴が死にます!」

「何か祝いのプレゼントくれよ」

「…テメーの腐れ切った脳内叩き直す拳ならくれてやる」

「それはいらねぇから勝手にもらう」



その言葉と掴まれたままだった腕が引かれたのは同時だった。

さっと顎を捕われ上を向かされると、温度を持った何かが口に重なる。
それがヤツの唇だと理解した時さらに、離れる瞬間ペロッと一舐めされて、こいつ鷹じゃなくて獣じゃねーのと思う。


その獣は極上の笑顔、あたしにとっては最も気に食わない顔でこう言った。



「ハッピーバースデー、俺」



何かがおかしい日
(先ずは一発殴られろ、理性が残ってたら話し合ってやる)



「あたしはお前が大嫌いだ」

「嫌よ嫌よもなんとやらだろ?」

「まじでうぜぇコイツ!」



「…苦労が絶えないと思うが俺は絶対にお前の味方だからな、祐介」

「その一言だけで救われます…」








○分かりにくいですがヒロインも鷹匠さん好きですよ、…うんきっと!
鷹匠さんハピバ!


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