田島


「ずっと前から田島君が好きです!私と付き合って下さい!」

「おうっこれからヨロシクな!響っ」



この時ほど幸せな事はないだろう…なんて世迷い言を思って浮かれていた自分が心底恨めしい。


「たーじまー。英語のノート持ってきたぞ」

「花井サンキュー!超助かった!大好きだっ」



「ほら、お前の分のパン買ってきたぜ」

「泉神様!オレ泉がいないと生きていけねー!」


九組の教室に轟く高いテノールに私の嫉妬は積もっていくばかり。

その原因というのも、つい最近恋人になった田島悠一郎にある。


「(…君はどこのホストだ!?わ、私にはそんなセリフ言った事ないくせに!!)」


入学してから一目惚れだった。
ずっと追い掛けて、玉砕覚悟で告白したらすんなり了承。

しかし恋人になったからといって何が変わる訳でもなく、強いてお昼を共にする様になった程度。


"好き"とは幾度となく言われたけど、彼はそれを誰にだって贈る。
それに気付いてしまってから、あまり良い気分ではない毎日を過ごしているのだ。


楽しそうに野球部とはしゃいでいる渦中の人物を尻目に深い溜め息を溢した。

(…って男子に嫉妬してどうすんの…)



――花井君達にあって私にないものって何だろう?


――それが分かれば、彼等みたいな関係に近付けるかな…



「……何が違うんだ一体…」

「知らねぇよ。俺が飯食ってる顔はそんな面白いか?食い辛いからヤメロ」

「っ、い、今の声に出てた!?」

「結構前から唸ってたけど」

「うわーごめんなさい!
どうか忘れて下さい!」


悩んでいる内に昼食になり、他所のクラスへおこぼれを貰いに行った悠君と巻き添えの三橋君を放置して先にお弁当を頂く。

彼と恋人になってから仲良くなった泉君達とお昼を囲んでいると、どうやら無意識に見つめてしまっていたらしい泉君からツッコミを受けた。


我に返って謝り倒すが、それだけでは納得してもらえず追及されてしまう。

「どうしたんだよ、野球部に何か恨みでもあんのか?この間は花井にガン飛ばしてただろ」

「飛ばしてないよ!?ごめんね目付き悪くて!そうじゃなくて、その…

い、泉君はどうやって悠君に好かれてるのかなって…思っ、て」

「…………は?」


つり上がった眉を思い切り八の字に寄せて、不可解な顔を見せる泉君に少し怯みながらも悩みの種を相談した。


「…と言う感じで。悠君にとって私は別にどうでもいい奴なのかな…」

口にすればだんだん実感してくる寂寥が瞼の裏を熱くさせる。

黙って話を聞いてくれた泉君を見やると、


「ど、どうして笑ってるのさ泉君!?」

「…ッもう限界!っはははは!つ、ツボ入っ…」

「ひどい!人がこんなにも悩んでるのに…!」

ついに声を上げて笑い出した彼を睨み付けたら、まだ笑い足りない様子で口元は緩みっぱなしだった。

「いや、だってお前の鈍感さがおかしくて…。
水無月は田島が、水無月に興味ないって思ってるんだ?」

やけに挑発的な態度の泉君に色々疑問が湧いた。
そんなのまるで私が間違ってるみたいじゃないか。

「…泉君は悠君の気持ちが分かるの?」

苛立ちを隠さずぶつけても、余裕の態度を崩さず何故か身を乗り出して来た。

「少なくともお前よりはな。今から証明してやるよ」

そのまま彼の手が頬に触れそうになり―――

急に上体が後ろへ引かれた。
肩に回った腕の暖かさに包まれ、驚いて正体を見上げると。

「…いくら泉でも駄目だ」

「やっと来たか。登場がおっせーよ田島」

「…悠、くん」

通常より数倍低いトーンの声で淡々と語る悠君と、満足気な泉君が対峙していた。

「響に触んな。絶対駄目だ」

肩を掴む手がブラウスに皺を作る。
てか、悠君は何を仰っているのかしら。

「別に取る気はねーよ。
お前の愛情表現が分かりにくくてコイツが不安になってたから誤解を解いてやろうとしてただけだ」


呆れかえった泉君の発言を受けた彼は、数秒間固まって驚愕の表情を私に向けた。

「えっ!?マジで!?何で、どの辺が分かんなかった!?」

嘘は認めないと言わんばかりに純粋な瞳がじっと見つめてくれば、たどたどしくも素直な気持ちが顔を出す。

「っ悠君、皆に好きって愛想振り撒くから!私が彼女じゃなくても良かったんじゃないの!?」

半ばいい加減な口調で胸の内を晒した。
すると、一瞬にして彼から笑みが消えた。
どこか、寂しそうな顔。

「響、マジでそう思ってん…の?」

そんな捨てられた子犬の目をされたらさっきまでの威勢は萎れてしまう。
確か泉君も似たような事を言ってなかったっけ…?


必死に脳内で真実を探っているたものだから、眼前に悠君が迫って来ているのには全く気が付かず。

事態が呑み込めたのは唇に自分以外のものが当てられた後だった。

チュッと軽い音を立てて離れたそれは、私達の視線を繋ぐ。


「俺の響に対する好きはこーゆー気持ち!」


みるみる赤く茹で上がるのを感じつつ、眩しい笑顔を咲かせる彼の言葉を享受した。



「言葉にするならそーだな…愛してるっ!ゲンミツに離さないからな!」


ヤバい、やっぱり私って幸せ過ぎる。






(…イチャつくなら教室から出ていけ馬鹿ップル)







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