栄口ハピバ
おめでとう おめでとう
世界で一番大切な君へ
「う〜ん…」
「響、まだ決まらないの?」
「ま、待ってもうちょっと」
「それ言い続けて三時間なんですけど…」
苦言を漏らす友達に半泣きで留めようと懇願する。
ここは県内で有名な大型ショッピングモールにある雑貨店。
そこで先程から何を唸っているかというと、実はもうすぐ誕生日である彼氏のためプレゼントを贈るべく、中身について必死に考えていた所なのだ。
しかし男の子、しかも男子高校生に喜ばれる物なんて見当がつく訳でもなく、優柔不断の性格も重なって三時間も動けずにいた。
無理矢理付き合わせた友人も流石に我慢の限界がきたようで、厳しい視線が突き刺さる。
「お願い、見捨てないでぇぇ…」
「てか雑貨店に男子の欲しい物があるはずないでしょ」
私が彼女の意見を理解するまでコンマ数秒。
「…もっと早くに言って欲しかったな!私と君の三時間を無駄にしないためにも!」
しれっと返された冷たい事実に心が荒む。
よくよく考えればそうなんだけれども!
人に冷たい一瞥くれる前に言ってくれても良いはずだよね…!
「別にそんな悩まなくても、栄口君ならなんだって喜んでくれるよ」
「だから下手な物あげられないの!」
“何でもいい”が主婦の敵であるように、選択肢が多ければ多いほど選び辛くなってしまうのが人の性。
ましてや付き合って初めての一大イベントなのだからびっくりさせたいじゃないか。
「そんなのであんたどうすんのよ…明日なんでしょ、誕生日」
呆れた目が見事に胸の真ん中を射抜き、止めを刺す。
効果は抜群で、私を更に沈降させた。
その通り、愛しの勇人の誕生日はもう翌日に控えていたりする。
「ううぅ…私の大馬鹿者〜」
結局手ぶらで店を出ることに。
茜色が空を侵食し、一日の終わりを告げようとしている。
友人は呆れながらも手作りお菓子を提案してくれたけど、要領の悪い私は一日がかりでなければそんなものは作れない。
(もう女としてダメなんじゃ…ごめんね、勇人―――)
憂鬱な気分と共に身体も重くなり、此処にだけ雨が降りだしそうな空気を引き摺っていたとき。
「……そうだ」
パッと顔を上げて浮かんだアイディアに、もうコレしかないと腹をくくって自宅へと駆け出した。
−−−−−−−−−−−−−−−
「た、誕生日おめでとう勇人!プレゼント的な物を受け取って下さい!」
放課後の静かな時間帯を狙って呼び出した彼にお辞儀の姿勢でお祝いを述べる。
今日野球部がお休みで良かった…。
しかし相手は、悲しくも予想通り、照れよりも困惑の表情を見せた。
「あー、ありがと…。
で、響さぁ…これって」
勇人の手に渡った短冊形の折り紙の束。
そこに描いてある文字は、みんな一度はやったことのある懐かしいもの。
「"なんでも願いを叶えます券"です!」
幼稚園や小学校で親、或いは祖父母に似たような券をあげた覚えはないだろうか。
私の幼稚なおつむではこんな事しか思いつかず、用意はしたものの今更ながら恥ずかしくなってきた。
「…えと、響」
拒否の言葉を聞きたくなくて、とにかく喋り捲る。
「ごっごめんなさいごめんなさい!初めての誕生日だから良いものプレゼントしたかったんだけど、気合い入り過ぎて逆に選べなくて、なら勇人のやりたいこと叶えるのがいいかなって思って!」
「ちょ、」
「私不器用だから料理も人一倍時間かかるし本当に使えなくてごめんね反省してますすみません」
「…えいっ」
「っひ!?ゆ、ゆ、勇人!?」
「落ーちー着け。俺の話聞いて?」
一人勝手に混乱状態の私を抱き締め、耳元で優しい声をくれるものだから、焦る暇なく自身は風船みたいにしぼんでいく。
「あのな、俺すっごい嬉しかった。響が俺のことそこまで一生懸命考えてくれてたのが」
言い聞かせるために規則的に撫でられる髪が熱を持つ。
「まさか券とは思わなかったけど、俺にはこれがありがたいや」
熱の余韻が残る体を離して、彼は早速券を一枚切り離した。
「先ずは…今度の休みに俺とデートに行きませんか?」
慈愛に満ちた瞳が私に向けられ、すぐさま心に花が咲く。
そして半泣きの笑みで答えを紡いだ。
「聞くまでもないでしょ…だって」
君の願いは私の願い
(頷いた貴方の真っ赤な顔に、出逢えた奇跡を感謝した)
〜帰り道〜
「んー」
「勇人どうしたの?」
「うん、この券の使い道を考えてた。しかし結構あるねぇ」
「や、まぁとにかく必死だったんで…。何でもいいよ?ジュース買って来いとか焼きそばパン買って来いとか!」
「いわゆるパシりだよね!?そんな事させる訳ないだろ!」
「勇人…!」
「じゃあねー、"響から手を繋ぐ""響から好きって言う""響からキスす…"」
「パシりの方がまだマシだぁぁぁぁあ!!」
「あ、でも最後の一枚は決めてるんだ」
「無理!絶対無理!」
「"これからもずっと響と一緒に居たい"…は無理?」
「……無理じゃ、ない。むしろ喜んで…!」
○
世界ハピバ!
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