栄口2


「―――俺のこと、好き…?」

「好き……栄口が、すっごい好きだよっ……」



今でも夢のように思う

両想いなんて奇跡のまた奇跡だと思ってたから


だから今隣にある存在がとても愛しいの







「響ー、飯食おうぜー」
「うん、ゆ…栄口」


私は今深刻な問題を抱えている。

それは付き合い始めてから一ヶ月経つのに私は未だ彼の名前を呼ぶことが出来ないでいること。

「焦らなくていいから。自然に呼んでくれるまで待つよ」

「ご、ごめんなさい…」

そのたび栄口はゆっくりで良いと言ってくれるけど、苦笑いな顔を見ると胸が痛む。


私だって栄口のこと名前で呼びたい…けど、

(は、恥ずかしい…!)

この思いがずっと私を頑なにさせている。
どうして栄口は普通に呼べるのかな…


屋上へ行くために並んで歩く彼を横目で盗み見ると、何故だかバッチリ視線が合ってしまって一気に血が昇る。

「響?」

「なっ何でもない!」

ビックリして視線を背けて、また自己嫌悪。

何でこんな態度ばっかりとっちゃうんだろう
こんなんじゃ片想いの時と全然変わらないよ…



暗くなっていた私に気づいたらしい栄口は、ふわりと微笑んで、


「そんな悩まなくても大丈夫だって。
響が頑張ってるのはちゃんと分かってるから」

暖かい手で撫でてくるから、嬉しいけど申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


離れていく温もりを目で追いながら、初めて彼と手を繋いだ時の事を思い出した。

最初に手を引いてくれたのは栄口だった

次も、その次も…


じゃあ私が自分から動いたのっていつ?
今まで一度だって無かった

私が名前を呼べなかった瞬間の彼の悲しそうな笑みが浮かぶ


(自分が、変わらなきゃ…!)

―――勇人――心の中でなら簡単に言えるそれを唱えて、少し前方にいる人を追いかけた。


「…っゆ」

言え、私だって

「勇人…ッッ!」

彼が大好きなんだから


先程まで頭にあった暖かい手を掴むと、相手は目をぱちくりさせ振り返り、静止した。

途端、彼の顔は一瞬で染め上がった。
可愛い、なんて思う暇なく勢いよく抱き締められ、私まで一緒に赤くなる。


「ゆ、と」

「…っそんな、不意打ちって…反則だろぉ?」


穏やかな彼とは考えられないくらいきつく回された腕が私の心臓も締め付ける。

勇人が額を押し付けてる肩口が熱い。


「…もう一回呼んで」

「ゆー…と」

「もう一回」

「勇人」

「えへへ、すっげ嬉しい…」


ああなんだ

踏み出しちゃえば何てことなかったんだ


「勇人大好きっ」

「俺も響を愛してる」

「!!」





幸せΩ
(残暑厳しく、されど青春真っ盛り!)



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