「今日の練習はここまで!お疲れさま、しっかり休むんだよ!」


『っしたぁ!!』


夜もあっという間に更け、西浦高校野球部の一日が終わった。

選手達の練習は終了しても、細かい後片付けはマネージャーが担当しているため千代と二人でバットやボールを整理していく。


「今日もみんな頑張ってたね!」

「もうすぐ夏体だし、こっちも気合い入れてサポートしよう、千代!」

「うんっ勿論!」


懸命に努力する選手達に触発された元気のおかげか、すんなりと整頓も完了し和気あいあいと帰りの支度をする。


「じゃあまた明日ね響、お疲れさま!」

「お疲れー、気をつけてね。また明日!」


「遅え。いつまで待たせんだ」

「うぎゃぁぁああ!?…って何だ孝介か…。もーやめてよびっくりするでしょ」

「俺も人の顔見た途端そんな悲鳴上げて文句言うお前の神経にびっくりしたぜオイ」

「し、辛辣…」


電車組の千代を見送ってから校門を出ると、腕組みをして壁に寄り掛かり携帯をいじっている孝介からのお叱りをうけた。
視線を向けてくれないのが逆に恐ろしい。


「んな生意気なこと言ってると置いてくぞ」

「やっだぁ泉君冗談に決まってるじゃん!本当かっこよくて紳士的で頼りになる!よっツンデレ少年!」

「……………」

「ちょ、待って無言で帰んないで!」


小走りで追いつくと、孝介は止まってくれた場所から振り返り、一言。

「次言ったら振り落とす」

「り、了解ッス」

有無を言わさぬオーラに気圧されて素直に返事をしたところ、お許しが出たので孝介の自転車の荷台に腰掛けた。

彼のシャツを軽く掴んで合図すると、数秒もしない内に自転車は稼働を始め、夏の夜の涼しい風が私達の間をすり抜けていく。


「やっぱ夜は涼しくて気持ちいいね、孝介」

「そうだな」


二言三言交わしたらそれきり黙ってしまう。
けれどこの沈黙は嫌いじゃない。

孝介の暖かい体温とか筋肉のついてきた腕、汗や土のにおいをより身近に感じられるからこの瞬間はむしろ好き。


けれど今日に限って私は自ら口を開いた。


「もしかして何かあった?どうしたの、急に"送る"だなんて…」


少し前に更衣室で着替えていた私にきたメールは、
"帰り送るから校門で待ってる"
というあまりに単純明快な一文だった。

普段はみんなでまとまって帰るから、二人きりと言うことはない。
珍しい行動に困惑しつつ、孝介の言葉を耳にする。


「…田島が、俺達は距離が遠すぎて恋人に見えないって…」

「――――んん?」

「言われたんだよ、さっき。
考えてみたら確かにそうだし、愛想尽かされても可笑しくねぇし…」


私からはブツブツ呟く孝介の後ろ姿しか見えないけれど、明らかに機嫌が良くないのは分かる。
ツンデレで不器用な彼の性格を考慮して一つ一つパズルのピースを見つけては繋げていくと、ある答えが導き出された。


全てしっくりきた時、あまりにも可愛い自分の恋人にだらしない笑みがこぼれてしまう。


「孝介さ、すごい勘違いしてない?別に私は距離が遠いなんて思ったことないし、現状に不満はないよ」

「…俺、はっきり言って部活中は野球の事しか考えてないんだぞ」

「集中してる証拠だよ。勝ちに行こうとしてる練習で余計な考え事してる方が私は嫌だもん」


「…わりぃ、寂しい思いさせて」


その言葉を聞いた瞬間、堪らなくなって手の位置を変えて彼の腰に勢い良く抱きついた。


「ッおわっ危ねぇって!」

「もー孝介気にしすぎ!」


反動で車体がぐらついたが、あまり怒られないところに彼の優しさを感じて胸が暖かくなる。


「ホントに駄目な人は彼女の帰りを待ってくれないよ!それに孝介は部活を言い訳にしない。
私は一生懸命白球を追い掛けてる孝介も、こんな風に私の為に悩んでくれる孝介も好きだよ」

「恋人の基準なんて他人が決めるもの?
付き合い方なんて人それぞれ。私達はこれでいいじゃない」


孝介の中にある不安の種が少しでも無くなるようにと回した腕に力を入れる。


「愛想尽きる暇ないくらい私は泉孝介が大好きだから安心なさい、っ……!」


言い終わるや否や、急ブレーキを掛けられた自転車は停止し、体が引っ張られたかと思ったら唇にかさついた感触。


スタンドを掛けられなかった車体はバランスを取れず私の後方でガシャンと音をたてて倒れた。


「こ、すけ…自転車」

「うるせー…」


暫く重ねられていたそれは、離れた今でも熱を保って熱い。

体はまだ抱き締められたままで、涼風さえも温く感じてしまう。
互いの鼓動が同じ速さで脈打っていて、額を合わせて笑いあった。


「…頼むからあんまり煽るなよ。我慢してんだから」

少し低い真剣味を帯びた声が囁く。

「笑うなよ?お前が…響が大切すぎてどう扱えばいいか分かんねーんだ。
俺が素っ気ない態度とってもお前は許すから堂々巡りになっちまうし…」


だから、と続けた孝介は見るまでもなく真っ赤だった。

「これ以上甘やかさないでくれ…どんどんお前にハマるだろーが」


また一つ降ってきたキスに酔いしれながら、そのお願いは聞けそうにもないなぁと苦笑するのだった。





Sweetest my daring!!

(一分一秒この瞬間も君に惹かれていく)










書き終わってからマネジの仕事違うのに気付きました…。
捏造ですみません。


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