阿部



「ふぅ…やっと寒くなってきたねー隆也」


「あー、そうだな」


うんざりしていた猛暑もようやく退き、季節に適した気温になり始めた秋中頃。


私と隆也は夜の路地をぽてぽて歩く。


「にしても嬉しかったなぁ、今日の誕生会!」


私が上機嫌の理由は、部活の皆が誕生日を祝ってくれたこと。


いつもより早めに練習が終わったと思ったら、部室でプチパーティーが開かれた。

何かそれまで『おめでとう』の『お』の字もなしに一日が過ぎていったから本気でへこんでいた私にとって強烈なサプライズになり、ちょっぴり涙してしまったのは隆也しか知らない。

(いやだって忘れられてると思ったもん)




「響、気持ちわりぃ位ニヤけてんぞ」

「へっへーん何とでも言うがいいさ!今の私は無敵状態なんだから」

「マリオか」


呆れて冷たいツッコミを入れる隆也を笑顔で流せるなんて今の私は相当ハイテンションである。


先ほどまでの賑やかで楽しい時間を思い出すと気持ちが浮き足立ち、感慨のあまり千代から貰ったプレゼントの袋をぎゅっと抱きしめた。



「あーもー人生でベスト5の思い出に入るねコレ。ケーキ美味しかったしこんなにプレゼント貰えたし。
みんな今時珍しい良い人だよ」

「…現金なヤツ。まぁ良かったな」



私の少し後ろを歩く彼は、何故か刺々しい返事。
不思議に思いながらも振り返ると、むすくれた様な表情を形作る幼なじみが。



「あ、でもね。隆也の深夜0時におめでとうメールと、今朝一番にプレゼントくれたのには敵わないかな。
めちゃくちゃ嬉しかったし」


制服の下からチェーンを引き上げ、四つ葉のクローバーが可愛らしい装飾のネックレスを見せる。


毎年必ず祝っているお互いの誕生日。
ぶっきらぼうだけど律儀な隆也の気持ちが一層伝わるこの日は、一年でもより特別な日になる。


「みんなのお祝いはモチロン嬉しいけどさ。

私は、一番最初に、隆也に、祝ってほしかったんだもん」



一言ずつ強調して告げれば、彼は面を喰らった様にポカーンとし、照れくさそうに頭を掻いた。


「…お前、これだから天然は…」


「?どうしたの、独り言なんか言って…更年期?」

「ちっげぇよ空気読め馬鹿。
〜〜っあー、もう!」

「う、わっ!?」



怒鳴った割には優しく引き寄せられ、私はそのまま隆也の懐にこんにちは。

この状況を理解した私の頭は火山の如く噴火した。


「一気に熱くなったな」

「うっせー誰のせいだコラ…!」



そうは言っても一向に離れる気配がないのは、二人して同じで。


「ねぇ、隆也?」

「…何だよ」



「来年も再来年もずーっと先も。
隆也が一番にお祝いしてね」


埋めていた顔を上げて満開の笑顔を向けると、私と同じ体温の彼は優しく微笑み、その大人っぽい仕草に私はしてやられた気分になった。



「当たり前のこと聞くんじゃねーよ。代わりに、俺の誕生日はお前が一番最初に祝えよ、響?」

「合点!楽しみにしててよね!」



ひとしきり笑い合った後、再び歩き出した私達の手は固く結ばれていた。




(あなたがくれるから、特別)



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