島崎
七月某日―――。
かんかん照りの猛暑が人々を襲う中、私は直射日光の他にある人物のうざったらしい視線も受けていた。
「〜っ慎吾さん!さっきからこっちを凝視しないで下さい!私何かついてますか!?」
「いや?いつもの可愛い響の目と鼻と口がついてる」
「そういう事じゃなくて…!」
我慢の限界に達してマネージャーの仕事の手を止め、ベンチに座って茶化す慎吾さんを睨み付ける。
赤くなっちゃう自分が恥ずかしいから嘘でも可愛いとか言うのやめて欲しい…。(部活に戻れと言いたいけれど悲しいかな、現在部員はロングティー中だ)
無言で怒りを訴えていると、そんな事は鼻にもかけない慎吾さんは頬ずえをつきながらによによと笑う。
「そういや響、お前今日寝坊で学校遅刻したんだって?」
――――バキッ
今音を立てて壊れたのは決してジャグの取っ手だけではない。
「…っだ、誰からそれを……!?」
「んー?由利亜と同じクラスの」
「準太お前隠れドSも大概にしろぉぉぉぉ!!」
皆まで言わずとも分かりきっていた犯人に向かって叫べばそこはもうもぬけの殻だった。
(あんの野郎!!)
行き場を無くした沸き上がる感情が収まる前に、悪魔の様な笑みを張り付けた彼が私の肩に手を乗せて、
“まぁいずれは俺が響の全てを知ることになるんだからいいじゃん”
とかほざくものだから必然的に怒りは慎吾さんにぶつけられる。
「えーえーそうですよ目覚ましセットし忘れて思いっきり遅刻しましたよクラスの爆笑をかっ拐いましたよ!?そりゃぁ寝坊だってするさ人間ですもん!
笑いたきゃどうぞ御勝手に笑って下さいっ」
「あらら…想像以上にむくれてるな」
「ふーんだ、今さら気付いたって遅いんですからね!」
私の傷心が深いと悟ったのか慎吾さんは態度を変えたけど、そう簡単に許す訳にはいかない。
固く決意して反対に振った首は僅か十秒足らずで無理やり戻されてしまった。
その行動の人物は勿論一人しかいない。
「ちょ、慎吾さん痛!ぐきって言いましたいま――っっ」
情けなくも抗議の声は中途半端に遮られた。
「おいし?ミルクチョコ」
「…おいひいれふ」
口の中に広がるたった一個のチョコレートと慎吾さんの優しい微笑みによって。
良かった、と間近で呟き頭を撫でる彼に何か上手く丸め込まれた気がしないでもないが、それを追求する余裕も今はない。
さりげなく後ろから抱きしめられた私は、抵抗なんて出来るはずもなく。
真っ赤になって意識が飛びそうになるのを耐えながら耳元で囁かれた彼の言葉の意味を理解するまで後少し―――――
「じゃあこれからは響が遅刻しないように毎朝一緒に登校しようか。
あ、これもう決定事項だから」
受け取ってラブ・アタック!
「お前の遅刻話?それ、俺が報告する前から慎吾さん知ってたみたいだぞ。
移動教室の時見えたんだって。部活始まる時に“響今日どうしたんだ”って真っ先に心配してたの、慎吾さんだからな」
この準太の証言を聞いた数日後、私は慎吾さんと付き合うことになるのだけれどそれはまた別のお話。
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