水谷


今日の私はとことんついてなかった


朝、目覚ましが壊れてて寝坊

当然朝ごはんは抜き

髪をブローする暇すらなく、化粧だってろくにしていないからきっと顔はボロボロ

着飾る時間を惜しんで急いだのに自転車はパンク

滅多に使わない筋肉を駆使して走ったけれど無情にも校門は閉ざされていた

あげく遅刻してクラスの奴等に笑われるわ、朝食食べてないせいでお腹は鳴るわ

終いには大嫌いな数学で難しい問題に当てられ…(全く解らなかったけど)


何から何まで不幸続きだった私の苛立ちは最高点に達していた。


だからこんな不機嫌な時に陽気なテンションは私にとっては猛毒にしかなかった。



『もううざい!文貴なんて大っ嫌い!』


そんな言葉を吐いたのはつい数十分前。

お昼になったけれど朝の騒動でお弁当を忘れた私は購買に行く気にもなれず机に突っ伏していた。

クラスの人々は私のオーラを察してそっとしてくれたのに、世界で一番空気が読めてないと思う私の彼氏――水谷文貴は唯一魔のゾーンに踏み込んできた。


「ねーねー響ー何ぷりぷりしてんの?
遅刻くらい気にすんなよ〜」


いつもならこの馬鹿っぽい口調も許せるのに、軽く流せるハズなのに、今日はどうしてか苛立ちを抑えることが出来ない。

必死に理性を保とうと無視を決め込むと、空気を読めない彼は余計にしつこく食い付いてくる。


「ちょ、シカトひどい…!あ、そうだ響ご飯は?」

「…いらない…めんどい」

「ダメだってちゃんと食べなきゃ〜。だからイライラしてるんじゃないの?」


何気ない一言だったつもりなんだろうけど、それはどでかいハサミの如く今にも切れそうな理性の糸をチョッキンと真っ二つにした。


押さえ付けていた鬱憤は止まる術を知らなくて一気に爆発し、向かった先は…


「もううざい!文貴なんて大っ嫌い!」




そして呆けた文貴を残して教室を飛び出したどり着いたのは屋上。

始業のチャイムは鳴ったから生徒は誰もいなくて清々しい。

(しばらく頭冷やそ…)

とにかく一人になりたかった。
体育座りで雲一つない晴天を眺めても、全然気分は晴れない。

「はぁ…文貴、怒ってるよね」

それでも前より大分冷静になった頭で真っ先に考えたのは彼の驚いた表情。


どうしよう-----うざい奴って思われた

嫌われたかも…


一度どつぼに嵌まるとどんどんネガティブな思考に落ちていく。

丸めた膝に額を押し付けて涙を耐えていると、後ろから扉が開く音がした。

(先生かな…まぁ説教でもいいや)

近付く足音に振り向きもせず諦めて踞っていると、背中に馴染みのある体温が触れて時が止まった気がした。


「よいしょっ…と。お背中失礼しま〜す」

何とも気の抜ける声が頭上を掠めて、私は肩を震わせる。

(何で…!?授業、は)

「可愛い彼女が泣きそうなのにほっておける訳ないでしょ?」

思わず心を覗かれたかと錯覚する解答にまた肩が震えるが、文貴は気にせず話し続ける。

「二人だけの屋上っていいね〜。世界に俺達だけみたいじゃん!お日さまも気持ちいいし」

屋上最高ーー!!なんて叫ぶ彼の嬉しそうな笑顔が簡単に想像出来て、少し笑ってしまった。


「響…泣いてるの?」

言葉の意味が理解できず振り返ると、文貴の大きな手が拭った雫を見て、涙が流れていた事に気づく。

「え…あ、れ…いつの間に」

慌てて目を擦っても、次々に溢れてくるそれに混乱するばかり。


「おいで、響」


その声と共に私の視界は文貴の白いシャツで覆われた。
全身の力が抜けて、殆んど感覚もないくらいふんわりと抱き留められる。


髪を優しく透くマメだらけの手や硬くがっしりした胸板は、いつものおちゃらけたイメージとは程遠く。
けれど私を守るように抱く文貴の存在は確かな安心感を与えてくれた。


「好きなだけ泣いていいんだよ。泣いて、泣いて、目が溶けるくらい泣いて…。笑うのはそれから。
大丈夫だよ、ここは俺達だけの世界だから」


ふわふわした声が膜となって私を包む。
じわじわ温もりが涙腺を刺激して、決壊寸前ていう所でまたこの男は空気を読まない発言をするんだ。



「好きな子の涙くらい受け止めさせてよ」



ちくしょう馬鹿 空気読めよ
カッコいいじゃんか、ヘタレの癖に



ヘタレナイト
(ふわふわキラキラ輝く君)









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