「ばっっっっかじゃねぇの」

部室の扉を開けた瞬間、素晴らしく恐ろしい罵倒が私を出迎えた。

それを行った張本人は、可愛い顔立ちを般若の如く歪めて眼前に仁王立ちしている。

「な、何がでしょうか泉様…」

怒りの形相に体は強張り、禍々しい空気が自然と敬語を使ってしまう。


しかしそれで何が変わる訳でもなく、彼は益々苛立ちを見せた。


「お前、何持ってんだ」

低い声が問う。

「え…荷物だけど」

聞かれた内容にそのまま答えると、彼は引きつったこめかみを露にして、地を這うような声音で唸った。


「んな事分かってんだよ…。足捻った奴が二つも重い鞄抱えてんなバカ野郎!!」



怒声が轟き地を振るわせる。

そこでようやく私は彼の言わんとしている事を理解した。


今日は体育でバスケットボールの授業があった。

好きな種目だったというのも関連し、一人はしゃぎまくった末。

ぶつかった相手を避けようとして反対の足首を挫いてしまったのだ。

すぐ治ると思っていたけどその考えは甘く、歩くのが少し困難だったりしている。

加えて今日は部活の大事な発表会があった為、放置していた足首は痛みをどんどん悪化させていた。


元々捻挫癖を持っていた私はあまり危険視していないけど、彼はそれが気に入らないらしい。

眉を吊り上げてこちらを睨む態度は中々にご立腹なようだ。
突き刺さる視線が実に刺々しい。


「だ、だって発表会に使った道具ってかさばるし…。部室に置いていけないもん」

「…おら貸せ!」

「あっ、ちょっと孝介!?」

「うっせぇ黙れ!」


言い訳がましい抵抗に堪忍袋の緒を切らせた彼は、私の意見を聞こうともせず無駄に大きいエナメルとリュックを奪い去った。


「ね、孝介!自分で持てるよ!孝介だって荷物重いでしょ!?」


今の今まで厳しい練習をしてきた彼に負担をかけさせたくなくて必死に前を歩く彼に訴えるが、一度も振り返ることなくまた低く咎められる。


「お前とは鍛え方が違うんだよ。自転車置き場までは余裕で持っていけるっつーの。足引きずってる奴が強がるんじゃねぇ」


否定出来ない事実に言葉が詰まった。
怒っている筈なのに、前方の彼は歩調がゆっくりで私に合わせてくれているのだと気付く。

ほんの些細な優しさが胸に染みるが、彼に迷惑を掛けてしまった罪悪感が上から被さってきた。


「ごめんね…疲れてるのに迷惑かけて」


沈んだトーンで謝ったら、何故か微妙な顔の彼と目が合った。


「…お前さ、どうして俺が怒ってんのか絶ッ対分かってないだろ。つかないよな」

反語まで使って完全に決めつけられても、全くその通りであるから押し黙って理由を待つ。


すると彼は暫く私を半目で見てから、盛大に溜め息をこぼした。
(本人を前にして!!)


「あのな、お前は俺に迷惑なんか掛けてねーよ。
掛けたのは心配の方だ」


「心配…って何で?」


私がそうオウム返しをすると、頭を掻きながら言った彼は文字通り硬直した。

せっかく和らいできた雰囲気が再び怒気を帯びる。

正確には分からないが、また私は彼の琴線に触れてしまったらしい。


「……まじで心が挫けそうだぜ。これだから鈍感はよぉ…」

「え、ごめ、私またやらかした!?」

「あ゛ーーーっもう良い!耳の穴かっぽじって聞きやがればか女!」


慌てて取り繕うも、彼の叫び声によって掻き消される。
ずかずかこちらに向かって来たかと思えば、頭を鷲掴みされ、おでこ同士が音を立ててぶつかった。


あまりの痛さに悶絶している時、ふいに視界に入った彼の顔は夕日よりも赤く染まって際立って、私はつい見入ってしまう。



「好きな奴が怪我してんのに心配しない男がどこにいるんだってーの…。

迷惑とか気にしないで黙って俺に守られてろ、ばか響!!」


「は、は…はい是非とも!」




き起こせLOVEハリケーン
(早く気付いてマイディアガール!)





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