遠野


〜でかミッキーと名乗らないで〜



「…はい?」

『はい?じゃないわど阿呆ーーー!!』

ドカッと良い音がした。
もちろん彼女が俺に蹴りを喰らわした音だ。

「ゲフッ…おま、大事な弁慶の泣き所が!」

『っせーよ男がそんくらいで!んなただデカイだけの身長してっから足元掬われるんだろーが』

「何だよ俺なにかしたか!?」

膝下を抱え込む俺を冷たく一瞥したクラスメイトのちょっぴり…多分ちょっぴり荒々しい彼女は、その訴えに殺気を濃くして屈む俺の襟元を引っ付かんだ。

コイツ口も達者な上に無駄に力強ぇのかよ。


『…名前』

「は…」

『あんた、サッカー仲間の間で“でかミッキー”とかふざけた名前で呼ばれてるんだって?』

「ああ…うん。え?お前ひょっとして嫌いなの?」

某夢の国のネズミが。

そう尋ねると、元々近かった彼女の形相が更に鬼へと変貌した。

『だっ誰が嫌いって言ったよバカ!むしろお前が嫌いだバカ!』

「へぶっ…!痛いから痛いから!平手は痛いから!」

『あんな可愛いマスコットキャラクターと可愛さの欠片もない唐変木のお前を一緒にされるのが嫌なだけだ!』

「…あ、そっちね」

『今すぐ彼に謝れ!失礼にも程がある!』

「俺の人権は…ないよな分かってる。てか、そんなに好きなの?」

某歌って踊れてよく喋る陽気なネズミ。

指摘すれば、つり上がっていた三角目が真ん丸に瞬いた。

『そっ…そうだよ。がさつな私に似合わなくて悪かったな』

先ほどまでの勢いはどこへやら、打って変わって赤くなる某ネズミ愛好者。
その姿はなんか…


「いんやー?可愛いと思うけど」

『は、はぁっ!?頭おかしいのかウドの大木!』

「ハッハッハ、お前って本当ツンデレだよな」

『デレてねーよ!』

「ミッキーが好きならきっとでかミッキーも好きになるって!」

『なるかぁぁぁぁ!!』

「て訳で今度デートしようぜー?」

『ふざけんな誰がっ…』

「某ネズミの国、好きなだけ付き合ってやる」

『……い、行ってやらないこともない。勘違いするなよ、私はお前と行きたいんじゃなくて、そこが好きだから行くんだからな!?』

「うんうん、可愛いねぇ」

耳まで真っ赤で湯気の出てる頭をぽんぽん撫でたら、またキレのあるキックを貰った。


いいじゃんいいじゃん。

でかミッキーとちびミッキー、最高のカップルだと思わねぇ?



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