君専用の愛魔法



「ねぇガミさん、僕と契約して魔法少女になってよ」

「え、魔法おっさんでも良い?」

「響きが悪いしロマンが台無しですね」


ていうか魔法使いになる気満々だし。がっかりだ!

と不満げな表情をしてみせるなまえの向こうには彼女愛用のパソコンがある。
その画面を石神が覗くと、カラフルな髪と服の色をした少女達が顔にそぐわぬ激しい戦いをしている場面が見えた。
そして全てを理解した石神は軽く笑って入れたてのコーヒーを仰ぐ。



「まーたアニメの影響?好きだねぇなまえも」

「勿論!二次元がなかったら私今ごろ社会の荒波に呑まれたまま海の藻屑に成り果ててますから」

「わー、嘘でも俺の存在は皆無なんだ」

「ガミさんもちゃんと含まれてますよ!一割くらい」

「どーもどーも」


胸を張って豪語するには説得力のない言葉を聞きながら、彼は慣れたように相槌を打つ。
何を隠そうこのなまえ、根っからのオタクである。
好みは割りとオールマイティーで、この家―――石神宅の一部屋は彼女の趣味が詰まった魔の巣窟となっている程である。

只今なまえのお気に入りはその魔法少女アニメであるらしく、『ほむほむカワユス』とか『マミさんのためなら死ねる』とか度々言っているのを目撃した。
(その前によく呟いていたのは『天使ちゃんマジ天使』だった)


石神は漫画やアニメと言えば少年が憧れるような定番物しか知らない。
だから彼女の知識の深さには感心するし、一緒に居て飽きないと思う。
出会いは合コンだが盛り上がった話が某少年サッカー漫画だと知人に話すと呆れられるが。


付き合うようになってから彼女に尋ねた所、オタクはオタクであることを隠したいものらしい。女は特に。
彼自身はそんなことちっとも気にしないし、人間的に見て彼女を好きになったのだ。
自らがなまえといることを望んだ結果になんの不満もない。


『だからガミさんがオタクな私も含めて好きだと言ってくれた時は本当に嬉しかったんです』

その時のなまえの柔らかな笑顔は、正直今まで付き合ったどの女より綺麗に映った。


昔話を思い起こしつつ、パソコン画面の少女達に黄色い声援を送るなまえの後ろ姿を一瞥する。

すっかり温くなってしまったコーヒー入りのマグカップをテーブルに置き、彼は側にあった鞄から茶封筒を取り出した。



「なぁなまえ。お前魔法少女になりたい?」

「いや年齢的に少女じゃありませんし…。ああでも『僕と契約して〜』は一度言われてみたいかも」

「じゃあ俺が言ってあげようか?」

「ガミさんのイケメンボイスをQBのプリティボイスと思うのは無理があるんで結構です」

「まぁ俺が言いたいから勝手に言うけどね」

「ならなぜ聞いた」







「なまえ、俺と契約して石神なまえになってよ」





カサリと封筒から出した薄い紙に緑の文字で“婚姻届”と記されたそれを中途半端に振り返ったなまえの前に持っていく。
石神がなまえを見据えると、限界まで見開かれた瞳が赤く潤んだ。


「…なめてました、石神ボイス。破壊力抜群です」

「だろー?どうよ、契約してくれる?」


勢い良く抱きついてきたなまえの髪を撫で、彼女の返事を待つ。
すると彼女が頭を擦り寄せている胸元のシャツが濡れて滲んだ。
一歩間違えれば悪徳商売のような口振りだが、彼はこれでも真剣である。


「…喜んでサインさせて下さい。クーリングオフは効きませんからね?」

「大丈夫、手離すつもりは毛頭ないから」


首に回された彼女の腕の力強さに笑みを広げ、石神はなまえの額に唇を落とした。


専用魔法
(何があっても解けない魔法)




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石神さんファンとまど○ギファンの皆さんすみませんでした。











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