惚れたに勝るものはなし
クリスマスです。
聖なる夜です。
リア充のあたしには素敵なイベントですごちそうさま。
「〜♪」
無意識に鼻歌がこぼれてしまう程上機嫌なあたしは只今愛する恋人とのパーティー準備をしている。
一日一緒じゃなかったのは本当に残念だけど、彼のお仕事だから仕方ない。
落ち込むあたしの頭をがさつに撫でて、『夜は早く帰る。次の日はオフだから…』と照れくさそうに言ってくれたので構わないのだ。
きつめの性格だけど、ぶっきらぼうな優しさを持つ遼が好きだから。
最愛の人の顔を思い浮かべながらにやけていると、オーブンの鳴る音が聞こえた。
慌てて中の物を取り出すと、上手い具合にスポンジケーキが焼けていて安堵の息をつく。
「さっすがあたし!良い出来だ」
満足げに頷いて、冷めた所でデコレーションを施していく。
料理も並べ終えた時、丁度のタイミングで玄関が開く音。
間髪入れずに駆け足で向かう足。
「遼っ!おかえりなさい!」
「おー、ただいま。なまえ」
こうやって抱きつけるのもあたしだけの特権だ。
あたししか知らない遼の優しい一面が嬉しくて、背に回した腕を強めた。
「…なまえ、ちょっと上向け」
「ん?」
意味深なセリフで遼の顔が近づいて来るから、もしかしたらキスされるのかな、なんて少し期待してしまった。
けれど頬を滑ったのは彼のかさついた指で。
なんとなくその指先を追えば、遼はそれを赤い舌でペロリと舐めた。
「クリームついてた。子供みてぇ」
「へ、ありが…とう」
妙に色気あるな…と思いつつも取ってくれたことにお礼を言うと、また遼の端整な顔が目の前に迫って。
「んん……っ」
びっくりした口の隙間から生暖かいものが入り込んで口内を荒らしていく。
息が出来なくて、呼吸すらも奪われてしまいそうなほどの深いキス。
どこもかしこも熱くてたまらない。
意識が溶ける一歩手前で離れた唇はお互いに濡れていて、恥ずかしさから目を合わせられなかった。
「ふぁ、ぅ…遼…っ?」
「いや、生クリームプレイをご所望なのかと思って」
「…誰が…っ望むかそんなマニアックなプレイ!!!!」
必死に息を整えて噛み付くも全く反省の色を見せないこの男。
何であっさりとそういうこと言えるかな…!
未だに遼の腕の中だったのを思いだし、逃げ出そうともがくもスポーツマンと一般女性の力量は比べるまでもない。
あっという間に正面に向き直されて、鼻と鼻がぶつかりそうな距離に戻ったあたし達。
「でもさっき期待しただろ?キス」
意地悪い笑みを携えた遼に真っ赤なあたし。
目敏い彼にはなにもかもお見通しなのが、本当にムカつく。
「そんな拗ねんなって。これやるから機嫌直せよ」
そう言ってリビングへ移動し始めた彼から寄越された綺麗なラッピングの袋。
嬉しさと好奇心から逸る気持ちを隠せずお礼もそぞろに中身を開ける。
「へ、ありがとー…」
ピンクの包装紙から出てきたのは、ふわふわしたあたし好みのワンピース。
正直遼がこれを、わざわざ女の子向けのお店に入って買ったのかと思ったら笑えるものがあるけど怒られそうなので黙っておく。
「お、豪勢だな今日の飯。旨そう」
「…ねぇ遼」
「あ?」
渾身の料理に釘付けの彼が振り返ると、また小憎たらしく笑っていて。
「男性が女性に服を贈るのは脱がせたい願望があるかららしいね…?」
それが本心なのだと言われずとも分かってしまった自分が悲しい。
「まぁ、夜は長いぜ」
「うわぁぁぁムカつく!このエロ崎!」
「そんな俺も好きなんだろ」
「好きだよちくしょー!!」
どう頑張っても結局、あたしは彼に敵わないのだ。
惚れたに勝るものはなし
(また今日もしてやられた)
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