> 恋人との休日。 出掛けようと言った俺の誘いに首を振ったなまえさんは、“祐介の家に行きたい”と可愛らしく微笑んだ。 二つ返事で了承し、部屋の掃除も念入りにして迎えた当日。 「祐介!DVDデッキ貸して!」 なぜか彼女はお笑いライブのDVDを携えてやって来た。 「祐介って何か一発芸みたいなの持ってないの?」 二人で座って鑑賞会をしていると、テレビに釘付けだったなまえさんが唐突に口を開いた。 ていうかお笑いを真顔で見ますか。 「…期待に添えなくてすみませんがありませんね」 「ダメよそれじゃ。今のご時世、社会で生き残るためには最初の掴みが大事なんだから」 「真っ当に聞こえますけど、なまえさん単に俺をからかいたいだけでしょう」 「そ…んなことないわ。わたしは祐介のためを思って言ってるのよ」 明らかに目が泳いでいる彼女を横目で見つめる。 今まで何度あなたに騙されたと思ってるんですか。 さすがに学習しますよ。 「あ!それに、将来プロのサッカー選手になった時、パフォーマンスするかもしれないじゃない?今から練習しておいて損はないと思うの」 「そんな取って付けたような理由…」 俺がサッカー選手になれるかも分からないのに、と言えば、そんなことない絶対一流のプレイヤーになるわ!なんて力強く力説されたので不覚にも顔が熱くなった。 ていうかパフォーマンスはお笑いじゃないってツッコミ忘れたし。 「えーい!何でも良いから面白いことしなさいよ!この際ありふれたネタでもいいからっわたしを笑わせなさい!」 とうとう本音を表したなまえさんに苦笑せざるを得ない。 年上なのに時折自分より子供っぽい顔をする彼女は全く自分を振り回す名人だ。 そんな彼女へ、日頃の復讐という少しの悪戯心が生じる。 「―――ものすごくベタでも、いいんですね?」 「!うんっ」 何をされるか知る由もないなまえさんは無垢な瞳を煌めかせた。 ニコ、と世良が言うにはウケが良いらしい笑みを作る。 「分かりました。じゃあなまえさん、失礼します」 「へ―――っあはははは!ゆ、祐介、待っやめてーーー!あっはは!」 ヒョイ、と軽すぎるなまえさんを持ち上げて胡座をかいた足の間に向かい合わせで座らせる。 呆気にとられた彼女の脇腹をくすぐってやると、大きな声を上げて笑った。 案外弱かったらしいなまえさんは、細い体を震わせてバシバシ俺の腕を叩く。 頃合いを見計らって手を離すと当然のごとく肩で息をしながら睨んできた。 「…っゆうすけ、あんたねぇ…!」 「何でも良いから笑わせろって言ったのはなまえさんでしょう?」 「物理的にじゃないのよ!年上をからかわないの!」 涙目で怒りをぶつけられても可愛さを引き立てるだけなのに、それを自覚していない彼女はますますむすくれる。 可愛いなぁ、心に暖かい気持ちが募っていくのを感じながらなまえさんの柔らかな頬に手を添えた。 「なまえさん」 「…な、なによぅ」 「笑って下さいね」 身構えた彼女にそう告げた瞬間、溢れ落ちそうな目が更に大きく開く。 笑みを返し、そのまま彼女との距離を詰めた。 「泣いたって良いです。怒ってくれて構わないんです。全部俺が受け止めてあげます。でもなまえさんの心が晴れたら、最後は笑って下さい。…なまえさんの笑顔は、俺にとってかけがえないものですから」 「…祐介はまだまだ子供ね」 「?なまえさ…」 しばらく沈黙していた彼女は、いきなり俺の鼻を摘まんできた。(意外に痛い) その声音は少し不機嫌そうで、沸き上がる疑問を隠せない。 「あのね、わたしが一人で笑ってたらそれで満足なの?勘違いも甚だしいわ。わたしが笑うときは祐介も笑ってるのよ」 きっぱりとした真っ直ぐな口調。 至って普通の事みたいに何の疑問も持たない彼女。 ―――やっぱり彼女には敵わないと思い知る。 鼻が解放されると同時に謝罪を述べた。 「…そうですよね、すみません。さすがなまえさんです」 「…ねぇ」 「はい?」 依然として機嫌の直らないなまえさんは、もどかしそうに尋ねる。 「…その、か、かけがえないのはわたしの…笑顔、だけ?」 …本当に、この可愛い年上の恋人には敵わないとつくづく感じた。 願わくは、きっとこの先もずっとであるように。 「なまえさんの全てが、ですよ」 君が笑うなら何でもしてあげる (僕と一緒に笑って、笑って) |