「…は?ジーノ?どうしたんだよ」


厳しい目をした堺から逃げる為に応対したコールの主は、意外や意外な人物過ぎて不信感丸出しの声を出してしまった。

てかお前の携帯に俺の番号が登録されてた事にびっくりだよ。
てっきり女の子専用だと思ってた。

そのままジーノに伝えれば不機嫌な声音で反論される。


『失礼だね。僕だって一応チームメイトの番号は残しておくよ』

「えらい上から目線で一応ってどうよ」

俺、お前の先輩。
そう返すと相手はお構い無しに別の話題を振ってきた。


『…タンビー、一年位前から変わったね』

「やだなにそんな老けた?これだから年はとりたくねーよなぁ」

『ははっそうやってはぐらかす所は相変わらずだけど。僕が言いたいのは表情が良くなったって意味』

「酔ってんの?お前今日おかしいぞー?俺達の誘いを断ったくせに美人と飲み会か!」

『いや、正しくはドライブかな』

「けっモテる男は違うね!自慢かっつの!」


軽口を叩きながらもジーノは中々核心を話さない。
せっかく収まってきた苛立ちがじわじわとぶり返してきた。
するとそれすら見透かしてるみたいに、電話越しの男は静かに、でも鋭さを滲ませて喋りだす。


『ねぇタンビー。キミは、ズルいね』

「…ジーノまで説教?」


『前のタンビーは良かったって思ったけど、今のキミは見ていて腹が立つよ』

「…堺といいお前といい、何なんだよ…。お前に、何が分かる」


唸るように出た低い声。

止めろ、どうしてソレと向き合わせようとする。

俺は間違ってないだろ?

三十六計逃げるに如かず、逃げて何が悪い。

止めろよ、気付きたくないんだよ。

それは駄目なんだ。


『…少なくとも僕は、キミの曖昧な態度がどれだけ彼女を傷付けたか、彼女を危険な目に遭わせたのか知ってる』

「は?彼女って、お前、なんで」

『さっき、襲われかけてた…と言っておこうか』

「―――――っ!?」

『たまたま僕が通らなかったら危なかったよ。まぁ、彼女が家に帰らなくてもキミには分からなかっただろうけど』


血の気が失せた。
今、なんて?
なまえちゃんが…?
冷や汗が止まらない。

思い出されるのは、悲しげに微笑む彼女。


そういや俺、最後になまえちゃんの笑顔見たの、何時だ?
表情に変化が出にくくて、彼女は気付いてないけど実は寂しがり屋で。
だからこそ気付いてあげなきゃいけなかったのに。

他の誰でもない、俺が。


なのにその俺が、笑顔を奪ってしまった。


『…強いね、なまえ姫は。泣かないんだ。ずっと我慢してる。
でも、なら誰が彼女を安心させてあげられるんだろうね?タンビー』



―――そんなの、俺にはわかんねぇよ。

あんだけ避けてたんだ、俺じゃないかもしんない。

でも、俺であって欲しい。

俺が、なまえちゃんの側に居たい。



「ちょ、丹さん何処行くんスか!?」

駆け出した。
仲間が、店の人が呆然と見るけどそんなん大した問題じゃない。


なまえちゃん、なまえちゃんごめん。

我が儘でズルい大人でごめん。

君は何時だって俺の目を真っ直ぐ見てくれていたのに、分かってて逸らしてごめん。


まだこの気持ちに名前を付けられなくてごめん。


君はそれを望んでないかもしれない。


でもなまえちゃん、どうしようもなく君に会いたい。



会いたいんだ。






店の扉に手を掛けて、勢い良く外に飛び出す。
一歩を踏み出そうとして、それは止まった。


「…丹、さん?」

「なまえちゃん…」

呆けた顔の彼女。
けれど直ぐに俯いてしまう。


「…」

「奇遇ですね、ぐ、偶然吉田さんと知り合いになりまして、送ってもらってる途中だったんですけど、吉田さんがここでちょっと待ってて、と言われまして…」


俺の、大馬鹿ろくでなし野郎。
臆病者チキン野郎。
こんな明らかに表情が曇ってて声も頼り無げなのに。

何でこんなになるまでほっといたんだよ。
馬鹿すぎて話しになんねーわ。
俺より怖い思いしたのは沙雪ちゃんの方だろ。


たまらず微かに震える身体をそっと抱き寄せた。


「―――ったんさ、」

「ごめん、傷付けて。怖いんだ、どうしたら良いかも分かんない。真っ直ぐななまえちゃんから逃げてる。本当に、ごめん」

「違っ」

「正直まだ理由を話せない。きっとこれからも曖昧な態度でなまえちゃんを傷つけると思う。
…でもね、それでも俺はなまえちゃんが我慢するとこは見たくないし、俺に頼って欲しい。

俺から、離れて行かないで」

「っそ、…なの、ズルい…っ」

「うん、ズルいね。だけど今だけは思いっきり泣いてよ」


お願い、そう耳元に告げると彼女は少し身動ぎ、遅れて嗚咽が漏れ出した。
腕にすっぽりと収まる小さな身体の冷たさが段々薄れて暖まっていく。

背中を擦り続ければ、おずおずと躊躇いがちに彼女が俺の服の裾を掴んでいた。


不謹慎ながらも胸の中の比重は罪悪感より愛しさ。
これが家族愛みたいな微笑ましいものじゃないのは嫌と言うほど解ってる。

けどそれを口にしてしまうのは、彼女の本心を知るのはやっぱり怖くて。


なまえちゃんの優しさに漬け込んで、謝るだけじゃ済まない事をしてるけど。


でも必ず答えを出すよ。
俺も真正面から向き合うよ。

だから君に真実を告げられるその時まで、


もう少しだけ、この矛盾した関係を続けさせて下さい。



飲み込んだ×××
(あなたを     。)












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