ハイジがお世話になった人の名前はアルムおじいさん。

彼は過去のいざこざから人を信用しない寂しい性格になってしまう。

彼女のことも最初は良く思っていなかったらしく素っ気ない態度をとっていた。

しかし彼女の明るさにだんだんと冷えた心を開いていく。


実に感動的な話だ。


現代に通用するかと言われたら難しいとは思うが。

全く知らない他人を自身の家に住まわせるなんて、私のアルムおじいさんはどんな物好きなんだろう一体。




「君がみょうじさん家のなまえちゃん?どうもどうも、丹波聡でーす!」


パァン、と言う破裂音がして火薬の匂いが立ち込める。
現代のアルムおじいさんは、それはそれはハイテンションな男性だった。


「長旅で疲れたでしょ?ささ、あがってあがって!」

「はぁ…」


クラッカー片手に出迎えてくれた彼―――丹波さんと言う人は成る程両親が懇意にしていたのも頷ける人物であった。

顔に降りかかった紙吹雪を払いながら玄関に足を踏み入れる。


第一印象、変な人。

顔は整っているのに性格で損するタイプだな。


「荷物は部屋に運んであるから好きなように模様替えなりしてね」

「はぁ、ありがとうございます。…あ、これ良かったら」

「おっご丁寧にどーも!」

「いえ、これから厄介になりますので」

道中で買っておいた手土産を手渡す。
ガサリと紙袋の中の物が揺れて彼の手に渡ると、一瞬その笑顔が固まった。

「…なまえちゃん?」

「はい」

「これ、何か異様に重くない…?」


冷や汗を流しながら紙袋を支える丹波さんに、私はこれまでの経緯を簡潔に説明し始める。
(手がブルブル震えてる…)

「初めは無難に菓子折を、と思ったんですけど。甘いものが駄目な様子でしたらいけないのでお茶の詰め合わせも買って。でもお茶よりお酒の方が良いかもしれないと思って家にあった焼酎を追加して。お酒ならおつまみも必要ですから…と色々迷った結果こうなりました」

「…なまえちゃんってさ」


ポカーン、そんなポップ体の文字が背後に似合いそうな表情の丹波さんは、息継ぎも無しに言い切った私に問い掛けた。
(結局袋は床に置くことにしたらしい)


「…何ですか」

「実はスッゴい力持ちでド天然さん?」

「……優柔不断と言ってください」

あと、力持ちは余計です。
明後日の方を見ながら小さく答えると、沈黙が続き。


「…っぶっっ!なまえちゃん可っ愛いーー!」


ギャハーー!と子供のように無邪気な笑い声が私の鼓膜を突き破る。
お腹を抱えて騒ぐ彼を恨めしげに見つめると、流石に悪いと思ったのか片手を挙げて謝ってきた。


「…そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」

「ごめんねー、つい。でもこれから一緒に暮らす子がこんな可愛くて面白いなら楽しくなりそうだよ」

「素直に喜べないんですけど…」

からかわれているとは分かっていた。
羞恥心を何とか隠しながら反論してみるのも効果はないだろう。(あまり顔にでない質で良かった)


「えぇー、本心だって!ほら、日が暮れる前に片付けしないと!」

「…はぁい」


そのままなし崩しに部屋へ案内され、追及はもう諦めた。

上手くやって行けるのかなぁ、密かに不安に思いながら足を進める。




「…なまえちゃん」

「?何でしょうか」


すると、前を歩く丹波さんが私の名前を呼んだ。
気のせいか、その声音は柔らかく聞こえる。

丹波さんは振り返って私を見て、猫のように目を細めて笑った。


「俺のためを思って色々考えてくれてありがと。嬉しかったよ」

「…ど、ういたしまし、て?」


くしゃりと髪を滑る大きな手のひらが思ったより暖かくて、不覚にも父を思い出し心臓が跳ねた。

大人の余裕を見せつけられたみたいで悔しいけど、何故かその暖かさに少しだけ安堵したのだ。


目が合った彼が、ニパッと歯を見せて笑んだ。

(あれ、雰囲気がさっきと違う…)


私の勘違いだったのかな、先程の彼が今までより自然体に見えたのは。


「なまえちゃん?こっちだよ」

「あ、はい。すみません」



はて、アルムおじいさんはこんなにフレンドリーな人だっただろうか。

ますます丹波さんが分からなくなった。

いい人なんだけど、何だろう。
 
丹波聡、不思議な人物だ。
お父さんお母さん、この人は何者なんですか?

 
 
 

(良く掴めません)











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