同じ大学の友人達に無理やり連れてこられたのは肩の凝りそうなレストラン。
ずらりと並んだ豪華な料理。
対面には同じ人数の異性がにこにこと座っていて。
『趣味は何ですか?』
『バンド仲間とライブを少し…』
『わぁ素敵!』
男女共とても初対面とは思えないフレンドリーさで多分こんな事を言っていた気がする。ノリに全くついていけない私は静観の一途だが。
これらが意味するこの状況は何だろう。
「このままカラオケ行っちゃわない?」
「いいね!行こ行こーっ」
そうです、合から始まりンで終わるアレです。
…帰りたい。
みょうじなまえは、人生初の合コンに参加中です。
…帰って良いですよね。
事の始まりは友人(A子)の笑顔からでした。
『ねぇねぇなまえっ今夜ヒマ?ご飯食べにいかない?』
『いや、遠慮す…いきなりだね。何かあった?』
いつものように断ろうとしたのですが、俯いてしまった彼女から滲み出される剣呑な雰囲気に気圧された私は理由を尋ねました。
すると彼女は可愛らしい顔立ちを輝かせる笑みで告げてきたのです。
『知り合いが奢ってくれるって言うから一緒に行こっ?』
『めんどく…』
『行くよね?』
『…』
あの素晴らしく威圧感のある笑顔から逃れられる人がいるのなら是非見てみたいですよええ全く。今すぐここに連れてこい。
そうして人権など諸々を総無視されて現在に至る訳であります。
合コンとか一言も聞いてないんですが。騙したな。
「なまえってば表情固いよ!緊張してるの?笑って笑って!」
「元々こんな顔。…私がこういう席は苦手なの、知ってるでしょ?」
「う…だ、だってだって!なまえも来なきゃドタキャンするって言われたんだもん…」
誰だそんな傍迷惑な我が儘言いやがったのは。私の意思を尊重する気はないのか。
ていうかカミングアウトしてる時点でドタキャンにはならないと思う。
正直私は合コンどころではないのに。
(丹さん、今頃飲み会かな)
悩みの人物の姿を思い浮かべ、深く溜め息。
というのも、ここ最近丹さんに避けられている気がするのだ。
何となくだけど、態度がよそよそしい。
あまり目も合わせてくれなくなったし、笑顔もどこかぎこちない。
ぶっちゃけとてもショックです。
軽く泣きそう。
違和感を感じ始めたのはETUのクラブハウスを訪れてから。
やっぱり迷惑だったのだろうかと罪悪感にさいなまれれ、気持ちが沈むばかり。
(私の大バカ…っ)
丹さんに迷惑をかける事だけは、絶対にしないよう気を付けていたのに。自分の浅慮さを悔やんでも悔やみきれない。
とにかく彼に一言謝りたいと思っているけど、避けられているので中々そのタイミングが掴めず。
今日も意を決して話しかけたら、『ごめんね、今日はチームの奴等と飲んでくるから夕飯いらないや。遅くなると思うから先に寝てていいよ』
…とまぁ素晴らしくかわされた訳で。
ええ薄々分かっていたんですよ、最近晩ごはん外で済ませるの多いなぁとか帰り遅いなぁとか。
考えたくなかっただけで。
(嫌われて、しまった、?)
ただでさえ居候の身なのに、知らない内に嫌な思いをさせてしまったのかもしれない。“気付かなかった”なんて都合の良い免罪符だ。
丹さんは底なしに優しいからきっと私を気遣って何も言わないだろう。
でも、それでも。
彼にだけは嫌われたくない、またもや身勝手な我が儘が胸の内で渦巻く。
「…、……ぇ。ねぇ、なまえってば!」
「!あ、えと。何?」
「さっきからずっと呆けて…もしかして具合悪い?」
「…」
言うなれば精神的な具合が悪い。そんな本音がさらけ出せる筈もなく、かといって苦手な雰囲気の合コン会場に居続ける余裕もなく。
心配してくれた友人には申し訳ないけど、頷いて足早に離脱させてもらった。