「楽しんでるかい若手どもー」
「う、ウスッ」
「堅いぞ椿ぃ!今日は無礼講だぜ!」
「世良さん邪魔ッス。あと酒臭いんで離れてくれますか」
「はっはっは、いいぞ本能のままに飲んで呑まれるが良い。お姉さーん、生追加ね」
いいな、向こう楽しそうで。
距離は遠くない筈なのに、石神が若手に絡んでいる光景が遥か彼方に見える。
あっれー、おかしいなぁ?
聡、実は病気なのかも!?
「顔がうぜぇ黙れ」
「…堺くん、俺まだ何も」
「黙れ」
「は、はひ…」
え、何で俺の周りだけこんな空気が重いの。
楽しいお酒の席だよね?
明日は休みだから久々に皆でハメ外そうって言ってたじゃん?
なのに何で俺と堺の周囲だけお通夜。
しかも堺めっちゃご機嫌斜め。いつもの倍は眉間に皺が寄ってる。
怖い、怖い!
ただでさえ近寄りがたい堺が何時にも増して避けられているなんて。
というかお前ら意図的に避けてないか?
見るからに距離とってるよな?
堀田くん、越さん、ドリさん…良心が何で一番遠い所にいるんですか。
無視しないで下さい、俺一人でコイツの相手をしろと!
「おい聞いてんのか丹波」
「はいはい聞いてるって」
「はいは一回で良いんだよ!大体てめぇはいつも…」
はーい堺お母さんのお説教タイム入りまーす。聞き流すのが鉄則。ここ、テストに出ますよ。
…俺、何かやらかしたか?全く覚えがないんだけど。
あまり酔っていない思考を巡らせては堺の怒りの原因を探る。
まずは今日の行動を振り返ろう。
起きて、朝飯食って、練習して。自分では結構いいアシスト出来てたと思う。
てか俺のアシストでゴールしたの堺じゃん。
「…なまえは元気か」
「え―――…ああ、元気だよ。そんで可愛い。でも珍しいな、お前がそういうの聞くなんて」
「別に。お前みたいな面倒くせぇ奴の世話してるなんて不幸だと思っただけだ」
「本人を前にして大批判っすか」
焼酎をちびちびやっていた堺が口を開いたと思えば、今度はお説教ではなく同居人の様子。
予想外の事に面食らい反応がぎこちなくなった。
しかし質問した相手は変わらずの仏頂面で会話を続ける。
少しタレ目な瞳がこちらを射抜いた。
マズイ、本気の目だ。
長く付き合っている間柄なら回避できる場面もあれば、だからこそ逃げられない場面もある。
今回ばかりはあんま触れられたくないんだけどなぁ。
そう思っても時間は止まってくれやせず、誠心が俺を追い詰めにやって来た。
「いつまで隠すつもりだ、お前」
「えー何の事?俺は常にオープンでしょ」
「表面上はな。だがなまえに関する事に対してのお前は分かりやす過ぎんだよ」
「…」
「ハッ自覚してんじゃねーか」
無言を肯定と取った堺は鼻で笑った。
責めるような口調で次々に核心を突かれ、どうやって切り抜けようか模索も出来ない。
「だって恩人の愛娘だよ?万が一何かあったら顔向けが出来ないじゃない」
「本当にそれだけか」
「…何が言いたいんだよ、堺」
尋問されているような感覚にイラつき不快感を露にしてしまった。
これじゃ余計アイツの思う壺なのに。
「ムカついてんのはこっちだ馬鹿野郎が!!うだうだしやがって面倒くせぇなお前はよ!!一思いに認めやがれ、臆病風ふかしてんじゃねえよ面倒くせぇな!」
「えええ何でお前がそんなに怒るの。さ、堺、クールダウン。どうどう」
「うるせぇカニ野郎!」
「ちょ、誰だよコイツに酒飲ませたの!弱い上に絡み上戸なんだから止めたげて!?」
幸か不幸か俺よりも怒りを爆発させた同期のおかげで逆に冷静になれた(理不尽に激怒されてはいるが)
さて、これ以上振り回されないためにも。
堺には二日酔い覚悟で潰れてもらいましょうかね。
そう思ってグラスにビールを注ごうとしたけど、その時呟かれた言葉に俺は思わず手を止める。
「いい年こいていつまでも怖がってんじゃねえよ…このビビリが…!」
嫌悪感丸出しのその台詞をまるで無かった事にするかのごとく、俺の携帯電話が慌ただしく鳴った。
ぎゅっと、耳を塞いで目を閉じて。
全てを拒絶するみたいに。
「小さな親切大きなお世話」
(頼むよ、どうか放っておくれ)
「…あ、あのっ堀田さん」
「ん?どうした椿」
「丹さん…大丈夫なんスか?堺さんめちゃくちゃ怒ってません?」
「ああ…(面倒だなぁ)」
「平気だって。あの二人は放置放置!たまには堀田くんも休まないとね」
「ガミさんいつの間に。ていうかアンタに言われたくないです」
「アルコールのせいで辛辣だ。…いやまぁ、今の丹さんには必要な事だから。各々で楽しもー」
「え?」
「まぁガミさんの言う通りだ。飲め椿」
「は、はぁ…」