二人で一斉に声の方を向けば、同じく目を丸くした。


「ホントだよなー、失礼だろ丹波。お前だけ練習メニュー増やしてやろうか」

「…達海、さん」

「あ、ハハハ、やだなぁ監督ってば!軽いジョークですよ」

その正体は何故か缶ジュースを持ちながら顔をしかめているETUの監督。
フラッと消えてフラッと現れるなんて心臓に悪い。
しかも飴舐めてるし。

果たして彼は野菜を摂取しているのか気になる所だ。
今尋ねるのは流石に空気読めなさすぎだと思うから聞かないけど。


「あの、達海さん…今までどちらに?」

「ん。これ取りに部屋行ってた」


そう言って手渡されたのは彼が持っていた缶。そのラベルを見て私は瞠目した。


「これ…」

「飲んだことないって言ってたろ、ドクペ。美味い卵サンドのお礼だよ」

「!あ、ありがとうございます」

飲んでみ、と笑顔を向けられては断る理由もなく。
好奇心も疼いたのでプルタブを開けて一口。


「どうよ」

「おいし…くない…」


何だろう、この形容し難い味。後味や風味云々言う以前に何か疑問が残る。
20種類のフルーツフレーバーとか謳ってるけど混ぜすぎって良くないと思う。


「これ人気なんですか」

「俺が小さい頃からあるもん」

「えぇぇ…」


達海さんって味覚音痴なんじゃ…と腑に落ちない表情をすれば、彼はニヒーと独特の笑い声をあげた。
そして頭に乗せられる手の感触。


「それが美味いと感じるようになったら大人の仲間入りだな。なまえ」

「そんな馬鹿な……え」

「じゃねー、また卵サンドよろしく」


名前、呼ばれた?
問い返す間もなくポンポン人の頭を叩いた彼は、今度こそ立ち去って行く。
その背中は現役の頃より細くなっていたけれど、変わらずに大きく頼もしい姿だった。



やっぱり、何年経とうが達海さんは最高にカッコいい人だ。


憧れの人に会えた私は嬉しさが爆発して全く気が付かなかった。


僅かに赤く染まった私を複雑そうに見ていた丹さんには。



ヒーロー←姫←王子?
(波乱の予感?)












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