「いつつー…」

「ご、ごめんなさい丹さん!本当にごめんなさいっ」

「ん、平気ヘーキ。それよか俺こそごめんね、わざわざ届けてもらっちゃって」


ぶつけた鎖骨をさする彼に寄り添い無我夢中で謝る。
私のおでこも未だ痛みを訴えているのだから彼だって痛むだろう箇所を押さえながらも丹さんは笑った(ちょっと引きつっているけど)


その優しさは嬉しい。だけど私は先ほどの自身の発言がどうしても許せずにいた。


『やっと、会えた』


いやおかしいだろ自分。
いくら寝惚けていたからってあんな言い方、丹さんの恋人でも気取ってるつもりか。
馬鹿じゃないの、ていうか馬鹿じゃないの。

丹さんは気にしてない様子なのが唯一の救いだ。


ここ最近自分でもよく分からない行動をとる事が多くなったような気がする。
しかも丹さんに対してのみ。
自分で自分を上手く制御出来なくて、胸の内に変な戸惑いと焦りが積もるばかり。


どうしたんだろう、今までの私ならこんなことは絶対になかったのに。


私、変だ。
丹さんと暮らし始めてから、ずっと―――



「…ちゃん、なまえちゃん?おーい」

「あ…、すみません聞いてませんでした」

「うん、悲しいけど素直だから許しちゃう」


すっかり上の空だった私に彼は聡ショック…とお馴染みの泣き真似をする。
いつもならスルーを決める所だけど今回は私にも落ち度があるため対応に右往左往してしまった。


「ご、ごめんなさ」

「こーら。なまえちゃんは何も悪くないでしょ?謝るのは俺の方。疲れてるのにごめんね」

「いえ、そんなこと…」

「それから、ありがとう。助かったよ、俺やっぱなまえちゃんがいないとダメだわ」


また、だ。
冗談だって頭では理解してるのに心は言うことをきいてくれない。
撫でられている所が燃えるように熱い。

そして冗談と言う事実に、少しだけ胸が痛んだ。


「…私は丹さんのお母さんになったつもりはありませんよ。いい大人なんですからそんなだらしない発言止めて下さい」

「なまえちゃん!?ここデレるトコじゃないの!?何であえてのツン!」

「生憎と私の辞書にはそんな単語登録されてませんので」

「俺知ってるぞ、最近の電子辞書にはツンデレとかの若者言葉がたくさん載ってるの、知ってるんだからな!」


ようやくいつものやり取りに戻った事に一人安堵する。
危うく妙な雰囲気に呑まれてしまうところだった。
今丹さんと居ると余計な墓穴が増えていきそうだ。
本能的に悟った私は早く帰ろうと決意して口を開く。


「あの丹さ」

「はっ!!そうだなまえちゃん、監督とか後藤さんに何もされてない!?」


…正確には開こうとしたが開けなかった。
今日の遮られ率は半端ないぞ。


「どういう意味ですか…」

「だって監督に連れてきてもらったんでしょ!?それに後藤さんがなまえちゃんの居場所教えてくれたし…!本当に、ホンッットに何もされてない!?」

「ちょ、しつこ…されてませんしされる訳ないじゃないですか」

「…なまえちゃん、大丈夫。丹さんはなまえちゃんの味方だから。ほら正直に言ってごらん」

「……」

「あ…久々の氷点下視線…」

「呆れを通り越して軽蔑しそうなんで黙って下さい」


わざとらしく手を握られ詰め寄られても苛立ちしか生まれない。
ああ、いつもの丹さんだ。
永遠に続きそうな会話に終止符を打ったのは、予想もしていなかった第三者の声だった。















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