「………………ねむ…」
自動的に下りようとする瞼を必死で我慢する。
というか達海さんどこに行ったんだろう。
あの後『人様に迷惑かけちゃ駄目だって言ってるだろ達海!』
という素晴らしく保護者なセリフを口にした後藤さんはゼネラルマネージャーで、ETUに達海さんを連れて来た張本人なんだそうな。
偶然とはいえ、彼のおかげで達海さんに会うことが出来たのだと思うと心の中で拝まずにはいられなかった。ありがとうございます。
話を戻して、そのお小言に不満たらたらな達海さんは
『違うっつの。お客サマを案内してんだけど』と、ずいぶん傲慢な態度で大雑把に私を説明して下さりやがった。
勿論それで彼に伝わる筈もなく、私が改めて事情を話すと、人当たりの良い笑みを浮かべて恐らく会議室みたいな所に通してくれた。
それだけでなく丹さんを呼んできてくれるとまで言ってくれたので申し訳なく思い謝罪をすれば、『仕事のついでだから大丈夫だよ』と爽やかなオーラに押し切られ頷かざるを得なく。
忙しなく働くその背中から伝わる苦労人な雰囲気に、何となく堀田さんと一緒で語れそうな気がした。
いつの間にか達海さんも消えていて、静かな広い空間に残された私を襲ったのは心地よい睡魔。
ちょっと待て待てまて。
こんな所で寝たら失礼にも程があるぞ自分…!
達海さん後藤さん早く帰ってきて下さい。
というか丹さん…むしろ丹さんが来い。
一刻も早く眠りにつきたい私はこの場にいない人々へ八つ当たりに等しい文句をぶつけていた。
珍しい感情の上がり方に、人間の三大欲求は欠かすと大変だと改めて感じる。
とにかく眠い、丹さん、眠い、丹さんに会えれば眠れる。
…丹さんに、会いたい。
「なまえちゃんっ!」
「……丹さん…」
バンッと荒々しく開かれた扉から現れたのは、息を切らして私の名前を呼ぶ彼。
達海さんでも後藤さんでもないその人は私を見るや否やこちらに駆け寄って来た。
どうしてそんなに焦っているんですか。
別に忘れ物を届ける位なんてことありませんよ。
そんなことどうでも良くて、私の心を占めていたのはただの安堵感。
「ごめん、本ッ当にごめん!俺書類入れ忘れたみたいで…」
「やっと…」
「なまえちゃん?」
「やっと、会えた」
これで心置きなく眠れるんだ。
安心感に満たされた私の身体は潔く睡魔を受け入れる。
自然と傾く先には丹さんがいて、若干の躊躇いはあったけれどまぁいいやと思い流れに身を任せた。
――――ゴッ…
「ぐっ…い、モロ入っ…!!」
「…ごめんなさい、おかげ様でバッチリ目が覚めました」
額が彼の鎖骨にクリーンヒットしたので流れに任せるのは二度としないと固く決めた19の冬。
じんじんと鈍く痛む額を押さえて、冷静を取り戻した私が自分の発言に絶望するのはもう少し。
彼の失態、彼女の失態
(情けない、恥ずかしい)