嘘だ、まさか、どうして


そんな言葉が頭の中を駆け巡る。
衝撃が強すぎて逆に冷静になってしまい、間抜けにも程がある顔を晒してしまった。


いつか会えたらいいな、とは思っていた。
だけどこんな出会い方を想像してはいなかった。



「?おーい、聞いてる?」

「…っあの、すみません!決して不審者ではなくて、」

「なぁ、それ食いモンだよな」



怪しい者ではないことを証明しようと珍しく声を張り上げたのに、何気ない一言が私の勇気を台無しにする。
およそ今の空気に相応しくないそのセリフ。
発言者の彼を見れば、私の手にあるお昼の入った袋を指された。


「あ、は、はい。卵のサンドイッチですけど…」

「!!」


一際目が輝いたのは気のせいではないだろう。
好物なのか、達海さん。

その時丁度、彼のお腹が盛大に空腹を訴える音がした。



「…俺ね、ちょー腹減ってんの」

「誰でも分かりますよ。…もし良ければ、どうぞ」


生憎そんな物欲しそうな目をされて無視出来るスキルなんて持ち合わせていないんだ、私は。









「ふまっふまいんはへほ!」

「飲み込んでから喋って下さいね。お行儀悪いです」


拝啓お父さんお母さん、お元気ですか?
なまえは小さい頃から大好きで憧れだった達海さんと、何故かクラブハウス内のベンチでランチしています。

最初こそ緊張していたものの、もっさもっさと子供みたく卵サンドを頬張る彼を見ていたら何だか無性に世話をやきたくなってきます。



「んー。美味いなコレ。どこの店?」

「…一応私が作りました」

「えっマジで?めちゃめちゃ美味いよ」

「あ、ありがとうございます…」

「あ、照れてる」

「照れてません。あとパンくず付いてます」


からかってきた彼にすかさず否定をしてティッシュを渡す。
けれど憧れの人に褒められて嬉しくない筈がない。
認めたくないが私の頬は仄かに赤くなっていた。


そんなことを知る由もない達海さんは、口元を拭きながらやけに神妙な顔つきで語りだした。


「俺さ、卵サンドとドクペの組み合わせが最高だと思うんだよね…ドクペが恋しい」

「ドクペって何ですか?」

「えっ知らない?ドクターペッパーって炭酸」

「初めて聞きました。美味しいんですか?」

「うっわジェネレーションギャップ。一回飲んだらやみつきになるぜー」


へぇ、丹さんにも聞いてみよう。
…丹さん。


やっと私は重大な事実に気が付いた。



「…あ、そういえば何でうちのクラブハウス前に居たの?てか誰?」

「奇遇ですね…私も理由を言おうと思っていました」



自己紹介をして手短に事のあらましを話すと、一時驚かれたが彼は直ぐに立ち上がった。
何故かニヤッと笑みを浮かべ、そして私の手を取り同じように立たせ、ずんずんと建物内へ向かう。


「え?」

「美味い卵サンドのお礼に丹波の所まで連れていってやるよ」

「いや良いですよ!この書類を渡して頂ければそれで帰りますから…っ」


拒否権はなく、私の抗議なんてどこ吹く風。
あんなに躊躇われていた建物内にあっさり引きずり込まれ、初めて見る光景に圧倒される。


「達海?どうしたんだその子…」

「いいでしょ後藤。俺の彼女」

「かっ…!?」

「ちょっ達海さん!?違います神に誓って違いますから!」

「ニヒー」


…丹さんごめんなさい。
どうやら私は貴方におもいっきり迷惑をかけそうです。



ヒーローwith珍道中
(とにかく帰りたい)












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