ドクドクドクと心臓を流れる血管が懸命に働いている。
反射に近いこの反応のかぎ刺激になっているのは、今現在目の前にある建物。



「…き、来てしまった」


緊張から汗が吹き出た。

見上げるのはテレビや雑誌で何度も見た外装。
そして下宿先の恩人に最も関わりのある場所。




そう、私はETUの本拠地にやって来たのだ。





事は約二時間ほど前に遡る。

夜中から書き続けていた大学に提出するレポートが今朝方やっと終わりを迎えた。

つまり完徹です。
眠いに決まっています。

丹さんは練習に出た後だし、大学に行くまでまだ時間もあることだし。


さぁ寝よう今すぐ寝よう。


我慢出来ずソファーに向かおうとした矢先、私の視界にある物が入り込んだ。



「この書類って…丹さんの?」


そこに置いてあった紙の束を見れば、何やらETU関連のようで。
眠気でぼんやりした脳から絞り出した記憶を辿ると、確か今日広報の人に出さなければならない重要な書類だとか言っていたような。


「どうして目立つ所に置いて忘れるんですか…」


今日出せないと困るかなぁ、いや困るよね…。


睡眠欲と良心。
二つを天秤に掛けたとき、たっぷり間を空けて傾いたのは後者だった。









「やっぱり帰ろうかな…」


そんな長い回想を経て今に至る訳だけど、私の意気込みは早くも砕けそうになっている。
眠気までも凌駕するこの緊迫感はどんどん臆病心に拍車をかけるばかり。


「落ち着け落ち着け…近くの人に言って渡してもらえば良いだけよなまえ。ついで、大学に行くついでだから。決して舞い上がるな…っ」


しつこい位に自己暗示をかけ、深呼吸してから見上げた先には。





「なぁ、さっきから何ぶつぶつ言ってんだ?」


「……え…」



見間違える筈もないその姿。
かつてスーパースターと称賛されサッカー界を震撼させた人物。
憧れで、常に追いかけていたテレビの向こうの人が訝しげな顔で立っていた。















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