※もし2人の年齢と立場が逆だったら、という完全に本編と関係ないパラレルです。
苦手な方はご注意を。
※連載の丹さんと全くキャラが違います。過去捏造しています。ヘタレてません。
※ヘタレてません。
みょうじなまえ 今年で三十路プラスひとつ歳をとりました。
婚期を逃したんではありません。
婚期がまだ私に馬車馬の如く働けって言って逃げたんです。
「いやいや何正当化しようとしてんのなまえちゃん。その歳になって現実逃避は良くないよ」
「心の中を読まないでくれますか聡くん」
ああ、今日も晩御飯が美味しい。
しかしもぐもぐと食べ進めていた手が止まる。
私の独白をいとも簡単に無視してくれた正面の居候を見上げると、彼は「ん?」と小首を傾げて笑った。
ダメだ反省の色が見られない。
可愛いとか思ってないぞ19歳。
彼―――丹波聡くんはひょんな事から一緒に暮らす羽目になった古い知り合いの息子さん。
最初は断ろうと思ったのだが、口先三寸で上手く言いくるめられてしまい何やかんやで暮らし始めてもう一年が経とうとしている。
小さい頃はよく面倒を見ていただけあって共同生活にさして抵抗感はなく、しかも彼は驚くほど気の利く好青年に成長していた。
私が仕事で疲れ果てて帰宅すると、今日みたいに美味しそうなご飯と聡くんの笑顔が迎えてくれる。
自分だって大学や部活(しかもサッカー)で大変なのに、私が忙しい時は家事を代わってくれたりする。
まぁ良く出来た男だ。
「なまえちゃんなまえちゃん!何か忘れてない?」
「?……ああ、ただいま?」
「おかえりー…ってそうだけど違う!ただいまのキスとハグは!?」
「脳内で今までの一年間を振り返ってみようか。私は一度として君とそんな事した覚えはない」
…このタラシ癖がなければ、本当に素敵なんだけど。
悲しいかな、彼の歳が一桁の時はまだ天使のように無垢で純粋な子だったのに。
今は変に色気を持った小悪魔になってしまい、度々こうやってからかってくるから困る。
大人としては12も下にナメられるなんて自尊心が許さない。
そう簡単に騙されてたまるかってんだ。
「もーっなまえちゃんてばつれないなぁ」
「おばさん相手に虚しい事は止めようよ聡くん」
「…本気で言ってるのに」
「ハイハイ。冗談は髪型だけにしようね。これだから最近の若者は…」
呆れて溜め息を吐くと、テーブルに肘をついてプンスカ文句をたれていた彼の唇が引き締まったように見えた。
あれ、と瞬きする間に、聡くんは向かいから隣に移動していて。
二度目のあれ、が口に出る寸前で視界が流れる。
後頭部へ強かに打ち付けた痛みが聡くんによって引き起こされたものだと認識するのに時間を費やしたのは言うまでもない。
よくある描写で言うなら、背中には床に敷いてあるマットの感触、視界に映るのは遠い天井と聡くんの真剣な顔…と言った所か。
「何で押し倒されてるのにそんな冷静なの」
「いや三十代が初々しい反応しても逆にどうだろうと思って…」
内心はめちゃくちゃ驚いてるけど顔に出にくいんだから仕方ない。
だけども彼はお気に召さないのかムスッと表情を固めて、私の両手首を片手で捕らえ頭上に縫い付けると覆い被さってきた。
(ギ、ギャーーーーー)
「ちょ、聡くん悪ふざけも大概に…」
「ふざけてねーっつの。俺ね、本当に本気でなまえが好きだよ」
なぜに呼び捨て。
いつもはうんざりする程のちゃん付けが今はこんなに恋しいなんて思ってもみなかったよおばさんは。
いつもの笑顔はなく野暮ったい口調で見下ろされ一瞬怖じ気づく。
反らせない視線、外せない拘束、数センチの隙間しかない距離に戸惑いながらも私はやんわり回避しようとチャレンジ。
「じ、じゃあ仮に聡くんが私を好きだとしよう」
「仮じゃなくてマジで好き。愛してる」
「お黙りカニさんボーイ。…慕ってくれるのはすごく嬉しい。聡くんみたいな人が恋人なら幸せだと思う」
「ホント?じゃあ結婚しよう」
「その頭のカニ足髪が大事なら最後まで聞いて。19歳と31歳、私たち12も離れてる」
「年齢なんか関係ないだろ。俺の一番はなまえだ」
怪訝な顔つきをする彼に自嘲気味の笑みをこぼした。
ああもう、憎たらしいよ若い子め。
「今は、ね。でもずっとじゃない。若い聡くんにはまだまだ先があるけど、私はもう崖っぷちに追い詰められてるの。捨てられたらそこで終わり。二度と立ち直れない。私はそれが怖いんだよ」
聡くんには解らないだろうね、と突き放すように言えば余計に拘束が強まった。
彼は、苦しそうに切なそうに目を瞑る。
「…なまえちゃんの臆病者。俺の事、好きな癖に」
「年月がそうさせたんだもん。今さらどうしようも出来ないよ」
敢えて的外れな解答をして打ち切ろうとしたら、目に飛び込んできたのは意気消沈した彼……ではなく闘志に燃え上がる彼だった。
え、どうして。
「ま、時間はこれからもあるんだし。少しずつ俺の不変の愛を知ってもらえばいっか!」
「…聡くーん。聞いてた?」
「待つよ。なまえちゃんが俺を信じてくれるまで、毎日証明し続けるから」
「…」
いつの間にか腕は解放されていて、半ばボーッと起き上がればゆるく抱き締められる。
「だいじょーぶ。俺がなまえちゃんを愛しいって想う気持ちは絶対に変わらないから。安心してよ」
いやそこは普通諦めてよ。
君には幸せになって欲しい、私に付き合わせて後悔させたくないのに。
普段は考えるより先に口をつく言葉が何故か引っ込み、代わりに私の腕はおずおずと彼の広い背中に回された。
ああもう、これだから若い子は後先考えないで困る。
見切り発車がどれほど苦痛か、何年もかけて身を以って経験してきた筈なのに。
それが、それが…
年下の、しかも一回りも離れてる彼に。
抱擁一つでほだされるなんて全く、
ラブ・ウォーズは突然に
(私も彼も、大バカだ)
−−−−
いつも長くてすみません。
私的に丹さんは若い頃イケイケだったのではないかと。
本編があれだけ鈍くてもだもだしているのでギャップがひどくなりました。
萌えなかったです。
積極的な丹さん…。
私が書くと腹立たしい要素しかない。