皆さん、今日が何の日かご存知でしょうか?
「お誕生日おめでとう祐介イエーイ!!」
そう、そうですそうです。
鎌学高等部サッカー部のルーキー、佐伯祐介くんのバースデーなんですよ!
「……」
「おめでたいね、本当におめでたいね!2月25日は祐介のためにあると言ってもいいぐらいだよ!」
「熱でもあるのか?千鶴…」
「お礼より驚き顔より何より先に私を変人扱いするような目で見てくるとは予想外だよばっきゃろう」
登校直前の祐介に詰め寄って、間髪入れずに捲し立てると、綺麗な柳眉がキュッとハの字になった。
さすがイケメン。
しかしムカつく。
「だって朝っぱらからそんなテンション、いつもの千鶴らしくないだろ」
「まぁそうなんだけど。高校は別になったし、部活も忙しいだろうから祝うなら朝しかないなって思って。低血圧だからこうでもしないとテンション上がらないの」
「はぁ…」
微妙な顔をする祐介にツッコミの隙を与えないため、私はズイッと贈り物を差し出した。
「そんな訳ではいこれ、つまらない物ですが」
「、あ、ありが…」
お礼を言いかけた祐介が何故か黙ってしまう。
何かあったのかと彼を見ると、その視線は私の手元に注がれていて。
私も後を追っていけば、何ら変わりない私からのプレゼント。
「何でエコバック…」
「あ、うん。これは当日祐介がたくさんプレゼントを貰うだろうから、かさばる物より実用的な物をあげた方が良いと思って」
「千鶴、お前…何て言うかお前…!」
分かってたけど、分かってたけど、期待したいだろ男として…!
とか言いながらその場に踞った祐介に困惑した。
「え、え、なに祐介。そんなに私のプレゼント期待してたの…?」
「…そうだよ。悪いか」
ムスッと口をへの字にして私を睨む祐介。
少し赤い顔に、必然的に上目遣いになる可愛さは高校一年かと疑いたくなる程だ。
イケメンは本当にモテ要素満載ですね。
「えーと…だ、大丈夫だよ。私のがなくても祐介ならファンからたくさん貰えるって!十分勝ち組に入れるから安心しなよ!ねっ」
「もういい口閉じろこれ以上俺を傷付けないでくれ」
私の慰めを鋭く遮断すると、祐介は自分の殻に閉じ籠ってしまった。
なんだ男子とプレゼントの数を競い合ってたんじゃないのか。
「ゆ、祐介くーん?」
「……」
今度は踞ってないものの、エコバックを見つめて黙りこくる彼にだんだん焦り出す。
ヤバいぞ、何でか完全に拗ねているようだ。
「べ、便利でしょエコバック!?両手に抱えるよりコンパクトに出来るんだよ?」
「そうだな」
「ほ、ほらこのバックにゃんこの絵が可愛いと思わない?これでキュンとくる女の子が増えるよ!更にモテるよ!」
「どうでもいい」
「う…、祐介には笑顔が似合うって!」
「ショック過ぎて全然笑えない」
おだてても全くなびかない強情さに、せめて男の子っぽいデザインにすれば良かったか…と激しく後悔した。
朝から剣呑な雰囲気が拭えず冷や汗が流れる。
あああ違うんです近所のおばあちゃん!
そんな生暖かい目で見てないで助けてください!
「ごめん、ごめん祐介!甘いものあげるから、機嫌直して?」
こうなったら、と最終手段の物で釣る攻撃。
奈々と食べようと思っていたチョコの入った中華饅を献上する。
恐る恐る伺えば、祐介はようやく顔を上げてくれた。
しかしホッとしたのも束の間。
「ちぃ、口開けて」
「?―――むぐっ」
不思議に思ったけど素直に従った結果、口の中に甘い味が広がった。
チョコ饅だ、理解した時、目の前は祐介のどアップ。
一瞬で離れた彼は、唖然とする私を放って何事もなかったようにモグモグ咀嚼していた。
「甘いから一口でいいよ。ごちそうさま」
これありがとう。
エコバックを持ち上げて、マウンテンバイクに跨がりあっという間に見えなくなった幼なじみ。
残されたのは一口かじられた中華饅をくわえたままの変な私だけ。
あああ違うんです近所のおばあちゃん、これは中のチョコで舌を火傷したから顔が赤いだけなんです。
違う、断じてアイツのせいではないんで生暖かい目で見ないでくださいだから違うんだってば!
ちょこれーと・パニック(甘くて熱い、この騒ぎ)
「…プレゼント、別に用意してあるって言いづらくなったじゃんかアホ祐介…」
−−−
今更とか言っちゃいけない。
連載より未来のお話。
どうしても連載主で祝いたくて…。
戻る