あの後、夕食まで少し時間があったのでリドルは紳士的にレイブンクロー寮までメロを送り届けてくれた。
「それじゃメロ、寂しいけど…また明日ね」
「わたしは寂しくないけど…お休みなさいリドル」
メロは「早くスリザリン寮に帰ってしまえ!」と思いながら手を振ったが、リドルはショックを受けた顔をしだしたので直ぐに諦めた。
「駄目だよメロ!僕の事も名前で呼んでくれなきゃ」
「え、でも…私はあなたの事…」
「大丈夫、すぐ僕のこと好きになるから。おやすみメロ」
リドルはメロの手を取ると手の甲に口づけて、地下牢のスリザリン寮へと歩き出した。
「今日は一体何なの…?」
いきなりトム・リドルのガールフレンドにされて、お姫様扱いされて、最後に手の甲とはいえキスされて、メロの脳みそは沸騰寸前だった。
談話室にメロが現れた途端、女生徒達が一斉にヒソヒソ話をしだした。
レイブンクローの生徒達は基本的に賢さを誇りに思っているので─特に上級生になるとこの傾向が強くなるのだが─浮かれた恋愛話を人前ですることは少ないが、ホグワーツ一の秀才、トム・リドルがネタならばそれは違うようだった。
「あの子、何か盛ったのかしら?やるわよね…」
「5年生から聞いたら、リドルがいきなりメロに告白したみたいよ?」
「驚きよね、彼ならスリザリンのお嬢様を選ぶと思ってたけど…」
(告白なんてされてないわよ…)
メロが寮生達に心の中で言い返しながら女子寮の自分の部屋に真っすぐ向かった。
階段を昇る途中も、頭の中ではリドルの声が繰り返されている。
”大丈夫、すぐ僕のこと好きになるから”
あの男わたしに呪いかけたのかしら…、と思いながら部屋のドアを開けると、地下牢教室でアッサリとメロを見放した友人達が、待ってましたとばかりにメロを取り囲んだ。
「メロ、聞いたわよ!リドルが学校中にあんたをガールフレンドって紹介しまくったって!」
「ビックリしたけど…良かったわね!あなた可愛いのに、色恋沙汰がなーんにも無いんだもの」
「良くない良くなーい!」
メロが頬を膨らませるのを友人達は不思議そうに見た。逆にメロは友人達が良かったという理由が解らなかった。
「どうしてよ、だって相手はあのトム・リドルじゃない。ハンサムでホグワーツ始まって以来の秀才よ!」
「わたし…ハンサムとか勉強ができるとか、そういう理由で人を好きになったりしないわ」
夕食を食べる気が起こらなかったメロは、早々とカーテンを引いてベッドに潜って、これからの事を考えた。
最初こそ気が重たかったが、別にトム・リドルが嫌いな訳ではないし、人から好意を抱かれる事に悪い気はしない。
「正直、天文台の塔では危なかったわね…」
結局女の子は、こういう事に弱いのだ…それに流されてしまいそうな自分が気に入らない。
「せめてお友達から、っていうなら良かったんだけど」
翌朝レイブンクロー寮前でトム・リドルに捕獲されたメロは、昨日よりも笑顔が多かった。
この状況を楽しんでみたら良いわよね!
20110223