桃まん+悟空@
悟空はその日、いつも通り朝から修行に力を入れていた。
しかし、その顔にはいつものような元気が無い。
それには今朝、二番目の息子に言われた一言が大いに関係していた。
悟空はその一言を思い出して、修行の手を止め溜め息をついた。
『ねぇねぇお父さん。今日は朝ご飯食べたらすぐ家から出てってね』
そう、言われたのだ。 いつもならちょこまかと自分の後ろをついてくる、可愛い盛りの下の息子に。
それも、とびっきりの笑顔で。
悟空は思わず聞き返した。
『え?悟天……おめぇ父ちゃんに家出てって欲しいんか?』
『うん!だから早く出てって!お父さんにいられると駄目なの』
変わらず満面の笑みで衝撃的な発言をする息子に、悟空は思わず絶句して近くに立っていた悟飯を見つめた。
すると、悟空と目を合わせた悟飯は突然ハッとしたような表情を浮かべ、急いで悟天の口を塞いだ。
『こらっ悟天!』
『むがっ』
『………オラが家にいちゃ駄目なんか…?』
今度は悟飯にそう問うと、悟飯は何とも言えないような顔をして言葉を発するのを躊躇った。
しかし悟空は尚も悟飯に詰め寄る。
『………えっとぉ…』
『なぁ。駄目なんか?』
『…………正直、今日はちょっと……家にいられると…その……ハイ』
『…そっか』
悟空は寂しげに一言だけそう言うと、家を飛び出した。
まさか悟飯まで自分が家にいることを嫌がるなんて…と内心は悲しくて仕方無かったのだが、嫌がられているなら出て行くしかない、と思って。
『あっ!お父さん、違うんです、お父さんにいられるのが駄目なわけではなくて、今日家にいられるのが……お父さーーーん!!』
『いってらっしゃいお父さーん』
只、悟空の飛ぶスピードが速すぎて、息子が後ろから何か叫んでいることにまったく気がつかなかったのだが。
「はぁ……これがクリリンの言ってた“はんこーきー"ってやつなんかな…」
悟空は浮かない顔でそう呟くと、近くの切り株に腰掛けた。
何だか憂鬱な気分で、大好きな修行にも手が着かない。
以前誰かに、お前は家族に対して淡白すぎる、と言われたことがあるが、そんなことは決して無い。
自分は家族を愛しているし、家族にも愛されていると思っている。 だから、尚更ショックを受けたのだ。
まさか実の息子に疎まれる日が来ようとは…。
そんなことは初めてだったので、悟空は戸惑いを隠せないでいた。
(う〜ん……こんな時、どうすりゃ良いんだろうなぁ………ん?)
そんな風に頭を悩ませていると、悟空はある事に気がついた。
どこからか芳しい匂いがするのだ。
「なんか良い匂いがすんな……どっからかな?」 悟空が匂いのもとを辿ると、なんとそこには…。
「………八宝菜?」
食欲を誘うなんとも良い香りと共に、いかにも出来立てというように湯気をたてている八宝菜が、ご丁寧に箸までついて置かれていた。
それも、道のど真ん中に。
「…何でこんなとこに八宝菜があんだ?」
さすがの悟空も突然現れた怪しげな八宝菜に首を傾げたが、
グギュルル〜……
と、鳴る自分の腹を押さえ今日はチチの弁当を持ってくるのを忘れてしまったことを思い出した。
悟空は苦笑いしながら、キチンと置いてある箸に手をつけた。
何か悪いモノが入っているにしても、自分は少々のことで腹を壊すほどヤワな胃袋はしていない。 それに、何より腹が減っていた。
「いっただきまーす」
一口、口をつけると悟空は一瞬箸を止めた。
しかしすぐにまた食事を開始し、三分も経たない内に完食してしまった。
(まさか…)
複雑な表情で綺麗になった皿を見つめている悟空の嗅覚を、また次の食材が刺激した。 もしやと思い、匂いのもとへ辿り着くとそこには。
「今度はイカの丸焼きか…」
またしても先程のように、道のど真ん中に料理が置かれていた。
そして悟空はそれを、今度も完食すると、またまた別の匂いが。
匂いのもとを辿ると、
「キャベツ炒め…か?」
またしても別の料理が。
悟空はそこで、ある事に気がつく。
(もしかしてコレ……しりとりになってんのか?)
今まで食べた料理が、全てしりとりのように繋がっていることに気がついたのだ。
そして、それは次の料理で確信と変わる。
「めざし、か…」
(やっぱ、しりとりになってんな!)
それに気がつくと、悟空は何だか楽しくなってしまいすぐに次の料理、次の料理…と食べ進めた。
そうして「八宝菜」から始まった謎の料理しりとりは、「いかの丸焼き」→「キャベツ炒め」→「めざし」→「シチュー」→「湯豆腐」→「フルーツポンチ」→「チーズ」→「するめいか」→「貝盛り合わせ」→「せんべい」と続き、気がつくと悟空は自宅前へと帰ってきていた。
そして、玄関の前には「いも」が置かれていた。 それを平らげると、悟空は少しの疑問と確かな確信とともに扉を開けた。
「「「桃まん!!!」」」
すると、扉を開けると同時に何かが大量に頭上に落ちてきて、悟空はあっという間にその“何か"に埋もれてしまった。
「……へ…?」
状況を理解できないまま、それが何なのかを見るとそれは、大量の桃まんの山だった。
つまり悟空は、桃まんの山の中に埋もれてしまっていたのだ。
驚きに身動きがとれないままでいると、悟天が笑顔で話しかけてきた。
「ねぇねぇお父さん!楽しかった?」
「へ?」
「悟天、突然そんなこと言ったって父さんわからないだろ」
「そうだぞ悟天。まずはおっ父に説明しねぇとな!」
はしゃぎながら悟空に質問する悟天を、苦笑しながら落ち着かせる悟飯とチチ。
それを見て悟空はやはり、と思った。
「やっぱ、あの飯はおめぇ等が置いたんか?」
「あれ、バレましたか?」
「ああ。最初の八宝菜を一口食った時、チチの味だって思ったからよ」
「や、やんだ、悟空さってば…!」
頬を赤らめるチチを見て微笑んだあと、悟空は悟飯に問いかけた。
「…で、なんでオラは桃まんの中に埋まってんだ?」
「あ、あは…それはですね…」
「僕がやろうって言ったんだよ!」
すると悟飯の言葉を遮り、悟天が説明を始めた。
「あのね、僕お父さんが喜ぶことがしたかったの!だからお父さんの好きな食べ物としりとりを合わせたら面白いかなって思ったんだ」
「ちなみに料理を道に置いたのは僕です。大変だったんですよ、お父さんに気付かれないように置くのは」
「でね、お父さんこないだ桃まん食べたいって言ってたから、最後は桃まんで終わろうと思ったんだ。で、普通じゃつまんないからお父さんに盛り付けようと思ったの」
「まぁ、盛り付けというか埋めただけなんですけどね…」
悟空は、説明を聞いて何故今朝出て行けと言われたのか、どうしてしりとり方式で料理が置かれていたのか、全て理由がわかった。
しかし、まだ疑問が一つ。
「なんでいきなりそんな事やろうと思ったんだ?」
そう問うと、悟天は少しだけ間をおいて、恥ずかしげに答えた。
「今日は…お父さんが生き返ってから丁度一年だから…」
「悟天……」
それきり、悟空が何も言わずに悟天を見つめていると、悟天は焦ったように見つめ返した。
「う、嬉しくなかった?お父さん、嫌だった?」
そう言う悟天に、悟空は微笑みながら桃まんの山から抜け出して、その中の一つを掴んで悟天の目の前にしゃがみ、目線を合わせた。
そして掴んだ一つの桃まんを自分の頭に乗せ、ニッと笑った。
「ほら、父ちゃんの頭が皿代わりだ。オラ、盛り付けてあるもんを食べるのも好きだけど、自分に盛り付けられるってのも面白ぇな!ありがとう、悟天」
「お父さんっ!」
悟天はすぐにパッと明るい表情になって悟空に飛び付いた。
その日は一日、悟空の頭の上には桃まんが盛り付けてあったとか。
<終>
【料理人情報】
PN:トキワダ様
HP:床鍋
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