スープ一杯分の孤独とスープ二杯目の温もりC


「じゃあ、食べましょうか!」

 女性陣達の合図で、待ってましたと皆は歓喜の声を上げる。クリリンとヤムチャと天津飯は酒の用意、ウーロン達は小皿を用意し始める。バーダックは既に椅子に座って膝の上にパンを乗せていた。ラディッツは女性陣と混じってバーベキューを開始している。
 悟飯と入れ替わりに、何かを抱えて悟空がやってきた。作業をしていたのだろう、汗だくな姿でカカロットに笑いかける。

「おはよう、腹減っただろ」

 捲し立ててカカロットが応える前に、悟空は持っていた底の深い皿を手渡す。
皿の中身を覗けば、暖かい湯気だ立つスープだった。大きめに、けれど歪に転がる野菜に良い香りのするそれに、カカロットはハッとして悟空の顔を見る。
悟空は目を細めて嬉しそうに微笑む。

「覚えてっか?カカが初めてこの世界に来て食べたヤツだ」
「ああ、覚えてるよ」

 忘れる訳がないじゃないか、とカカロットは唇を噛み締める。
 全く知らない場所で悟空と出会い、警戒する自分を強引にこの家に連れて来て、このスープを同じように差し出された。
 信じられなくて食べたくなかったけれど、空腹が酷くて暖かい香りに勝てなくてスープを一口飲んだ瞬間、自分は号泣したのだ。
 スープの暖かさに、殆ど忘れてしまっていた美味しいという味に、全身を満たす柔らかさに、嗚咽を漏らしてしまったのだ。ずっとひとりぼっちだった自分が味わうそれは、長年摘み上げた孤独と冷たい心を溶かして恐怖や不安を全て崩してしまった。
 泣きながら食べたから最後は塩辛かったけれど、完食した時は悟空はまるで自分の事の様に笑ってくれた。そして悟空を囲む仲間達も。

「オラがつくったから、味は保証出来ねぇけどな」

 そういって笑った悟空の指先は切り傷だらけだった。包丁如きで傷がつく筈がないのに、それぐらい悟空はチチの指導の元、懸命に作ってくれたのだと分かった。

「なぁ、カカ。辛かったら言って良いんだぞ。遠慮すんな」
「辛くない」
「そうなのか?じゃあもう泣くの止めろよ」
「努力する」

 そう言った傍から、カカロットは鼻先を赤らめて泣いた。スープがしょっぱいのかさえも分からなくなろうが、カカロットは全て飲み干す。
 皆が二人の名を呼んで手招いている。そろそろ行かねば、タ―レス達に御馳走を食べ尽くされてしまうだろう。
 ふと遠くを見やれば、べジータが相変わらずの仏頂面で此方を睨んでいた。何か言いたげな視線だったが、彼の性格上教えてはくれないだろう。
『夢は長く見るものではない』そう言っている気がしただけだった。

「なぁ、悟空」

 カカロットの手を掴みながら皆の元へ行こうとする悟空を、カカロットは強い口調で引き止めた。すぐに悟空は振り向いてくれる。

「今度は、皆で食べに行こう」

 余程恥ずかしいのか、目を伏せながらカカロットはそう言った。悟空は堪らず目の前の金の髪を両手で撫でまわすと、カカロットからは悲鳴が上がる。やめろと悲鳴を上げるカカロットを無視して満足するまで撫でまわせば、悟空は頬染めて嬉しそうに声を上げて笑った。

「勿論じゃねぇか!そう言ってくれるのを待ってたんだ!」

 滅茶苦茶になった髪もそのままにポカンとするカカロットは、悟空や皆の笑顔に釣られて満面の笑みを浮かべた。悟空に手を引かれて、皆の輪の中へ入ってゆく。

 孤独から救ってくれたのは悟空だった。食べる事の暖かさを教えてくれたのはチチだった。皆が優しく迎え入れてくれた。
 拭いきれない過去は勿論捨てるつもりもないし、ゆっくりと過去と今に向き合っていきたいとカカロットは強く思った。
 ただありがとうとしか言うしかなくて、皆は泣き虫だなと笑ってくれた。

 耐えきれなかった孤独の分は背負い続けよう。それ以外は今、そして未来へと歩む為の力としよう。
 もう一杯のスープを飲んでその暖かさに心は満たされ、しょっぱい味も、懐かしさと孤独ひっくるめて涙する事はもう彼にはなかった。


-FIN-



【料理人情報】

PN:EN様

HP:‡拙い夢寐‡

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