第5話






それから、水着に着替えた野郎たちと、適当に浜辺を散策した。

晒した肌に太陽光がジリジリ焼けつく。

けど、気分は良い。

少し回って見つけた木陰。
そこでメシを食うべく。敷物をそこに敷くことにした。





「よぉーーし」

俺の掛け声で、敷布の四隅を、野郎全員で持つ。

……ふわっと宙を舞った瞬間。


「……せん、ちょ?」

か細い声が耳に届いた。
反射的に後ろを向くと、大樹の陰からこっちを覗く、●●●がいた。


「おー。着替えは終わったかのか?」

問えば●●●は隠れたまま、ぼそぼそと言う。


「……いちおうは…」
「い?…いちおう、か?…ならこっちへ来い」

しかし、歯切れの悪い●●●は、なかなかそっから出てこねェ。

「どうしたよ、」
「う……う、ん。…行きたいのは行きたいんだけど…」
「……けど?」

●●●はおれをチラ見して。
直後、口を、への字に曲げた。



「だってすごく太ったみたいで…!」

叫ぶように言って、フイと顔を横に逸らす。

『は?』

その姿に、おれの方が目を剥いた。


(…馬鹿言うな)

どこをどう見たら、お前の身体が……

ゆうべの情事を思い出して、にやける口を引き結ぶ。
ともあれ俺は……お前の身体の隅から隅まで。
お前すら、じっくり見たことのねェところまで、見てんだぜ?


「だから太ってねェってさっき言ったろ?」
「でも…ホントにっ!」
「いいから出てこい、でなきゃ担いで出すまでだ」
「……か!」

言葉に詰まったらしい●●●が、ほんの少し、黙り込む。
数秒後、覚悟を決めたんだろう。
分かりましたと、ゆっくりとそこから歩み出た。


「おまたせしました…」

途端オレの鼓動が増した。
白のビキニに身を包み、ポニーテールで纏める●●●が、恥ずかしそうに歩いてくる。

白い肌と括れたウエスト。それに続くヒップライン。
人形みてーに真っ直ぐな足は、どっから見てもいいオンナだ。

「悪くねェ…」

口笛でも吹きてえ気分だ。

おれと野郎たちが、じっと見つめるそんな中。
●●●は胸の前で、両の腕をクロスしたまま、ゆっくりゆっくり歩いて来る。
半分ほど歩いた所で、くるっとこちらに背を向けた。

「あん?」

●●●は背中を向けたまま、ブラの脇に指を入れる。

「船長……」

ソウシが横から小声をかけた。

「おう…」

おれも小声で返事を返す。

そんな俺らが見つめる先には…
水着のブラの布の脇から、大きくはみ出た、胸の膨らみ。
それを●●●はこちらに背を向け、布ン中に押し込んでいる。

なーるほど。

ようやく分かった。

毎晩、見て、触ってると
案外、気づかねーモンだな。


「船長がアレを買ったんですか?」

妙に納得していると、シンが笑って聞いてきた。

「おー…リゾート島で、去年な?」

今度はチラリと視線を寄越し、シンは口に笑みを浮かべる。

「では。…ワザとサイズを落として買ったと?」

意味深な顔でそう言って、白い水着に視線を送る。

(普段のおれから考えりゃ…
…シンの言いてェ事も、分からなくもないが…)

しかし、即座に俺は否定した。


「サイズはきっちり合ってた筈だ、」
「ーー?」
「少なくとも、去年はな?」

そうあの日。
「船長、似合う?」背中の後ろで腕を組み、ニコリと笑った●●●。
あの日、おれの前であの胸は…きっちり布に収まっていた。

「では…●●●ちゃんが言う、太った場所というのは…」

ソウシが、ふふっと笑いかける。

「そういうことだ」

俺もニヤリと笑い返す。


「毎晩、揉んでやった成果があれだ…」



「ブゥゥゥッッーー‥」

途端、盛大にハヤテが吹き出して、ナギが気まずそうに目を逸らす。
シンがニヤリと口角を上げ。

「ぼく…どこを見て良いか、わかりませんよぉッッ!」

トワは鼻血を吹くほどに、真っ赤になった。
そんな奴らを横目で眺め、高らかにおれは笑った。




「う……っ。笑うほど私、太ってますか?」

そんな俺らの様子を見て、振り返った●●●が泣きそうな顔で立っている。


「太ってないよ、●●●ちゃん」

慌ててソウシが、フォローを入れる。

「珍しくお前に似合ってるな」

シンもこの時ばかりは、●●●の事を誉め称える。

「シンさんもソウシ先生も、本当ですか?」
「ああ、ホントだよ?」
「ホントにホント?変じゃない?」
「……変じゃない」
「それに……凄くかわいい水着だ♪」
「……!」

途端、花咲くように●●●の顔が綻んだ。
揺れる胸を気にすることなく、タタタ…とこちらに駆けて来る。

「ソウシ先生、ですよね?この水着、すごくかわいいですよね?」

気に入りの水着を誉められ、●●●は気をよくしたらしい。
恥ずかしげもなく、谷間のリボンや腰のリボンを、夢中になって自慢する。
上機嫌だったおれの顔が、ヒク、と微かに引きつった。

そんなおれが見つめる前で、●●●はファッションショーよろしく
「似合いますか?」と、野郎の前でくるっと回る。

「……ちょっといいかい?」

ソウシが肩に手を掛けた。

「後ろの紐が、縦結びになってるよ?」
「……縦?」
「ほら、ここ…」

ソウシの手に促され、●●●が背中に手を伸ばす。
……指に触れた、縦になった蝶々結び。
それを解いて結びなおすが、逆手だからか、その蝶はまた、縦になる。

「……せっくだから結び直してあげようか?」
「……え…」

●●●は、ほんの一瞬、逡巡し。
あろうことか、お願いしますと背を向けた。

(…なに?)

ソウシの手が、するっと水着の紐を解く。

おい待て、ソウシ…


「なら、こっちは俺が、」
「っえ!ちょっとシンさんッッッ!!」

振り向く間も与えられず、首の後ろの蝶々結びを、シンの指が、ツ、と解く。
途端、ハラリと落ちる白のビキニ。
●●●はしゃがんで慌ててそれを両手で押さえる。
そして、丸出しになった綺麗な背中を、赤い顔で眺める奴ら。
逆におれは、ツラの筋肉が硬直し。
……動かねェし、動かせねェ。

「あんなんさせてて、イイのかよ///」

何気なしに振り返ったハヤテが、ゲッ!とオレから飛びのいた。

「か……顔がムチャクチャ怖ェんだけど!」
「…………」

ぎょっとするハヤテの声で、ようやく我に返ったオレは、改めて●●●を凝視した。
そして思う。

コイツの水着を、見せびらかそうとしたのは俺だが。

薄着の女は嫌いじゃねえが――



「はい、これでいいよ、●●●ちゃん♪」
「ありがとうございます、ソウシ先生。シンさん…」

結んだ紐は綺麗な蝶の弧を描き、●●●が笑って礼を言う。
おれは、持てる限りの平静を装い、その名を呼んだ。

「…ん?」
「ここに来い」

●●●は「はーい」と言って、跳ねるようにして近づいてくる。
そのたびに、ぷるんぷるんと揺れる胸。
それすら今は、腹立たしい…
目の前までやってくると、腕を掴んで敷布の上に座らせた。

「これを着ろ」

自分のシャツをひっ掴んで、ズイと突き出す。
当然●●●は、キョトンと首を傾げる。

「これを…って、今水着に着替えたのに?」
「ああそうだ、」

きっぱり告げれば、●●●の口が、へん曲がる。

「でもッッ船長が水着着ろって…!」
「んなこと、言った覚えはねェ」
「は?」
「いいから、つべこべ言わず早く着ろ」
「早く…って……嫌ですよぉ〜〜。コレ、長袖だし…」

嫌悪を露に、それを下に置こうとするから、手からシャツを奪い取った。

「日焼けして、背中の皮がめくれてもいいのか?」
「え」
「それとも、真っ赤になって腫れあがるかもな」
「……っ!」

言いながら、無理やり背中に羽織らせる。
腕を通せと促すと、●●●は渋々、袖に腕を通した。

「もぉ〜〜」
「ボタンもしっかり留めとけよ?」

素直にそれを留める間、長い袖を捲ってやった。

「これで、いい?」

全部留めると上目遣いで聞いてくる。
胸はしっかり隠れたみてーだ。

「まあ、こんでいいだろ」

周りで奴らが呆れているが、そんな事はどうでもいい。
自分のオンナを晒すバカがどこに居る。
納得して身体を離すと、●●●はニコッと微笑んだ。

「じゃナギさんとお昼の用意をしますね♪」

言って、白い足で立った瞬間。しんと辺りが静まり返った。
構わず●●●は、ナギの方へと歩いていく。

「船長…あれは…」

隣でソウシがクスクス笑う。

「ハダカの女に男のシャツは……」

シンもおかしそうにククッと笑う。

確かにあれは、ぐっとくる。
ありゃーまるで、情事のあとのオンナだな。

ハヤテとトワはぽかんと見つめ、ナギは近づく●●●に、目を瞠る。

ヒラヒラ揺れる、おれのシャツ。



「お前らあんまアイツを見るな…」

やれやれと呟く声は

ナギの背中を押してボートに向かう●●●の耳に届くはずもなく。


仕方なく、それから全員で荷物を降ろすと

俺たちは昼メシを食うべく、準備を始めた。





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