第8話





暫くするとパタパタと、小さな足音が聞こえてきた。

バンッ、とドアを開けたのは、風呂上りでまだ、湯気を上げるリチャードだ。


「あのね、あのね!」


振り返ったクルー達は、「なんだ、ガキか」と、元の位置に向き直る。が。
直後彼はニコリ笑んで、とんでもない事を言い放った。


「●●●のお肌。とぉ〜ってもスベスベで。おっぱいも、おっきくて柔らかいの♪」

「――?!」


 ―― ぱっ、と誰もが振り向いた。
当の本人は悪びれもせず、ソファーの端にちょこんと座る。

 ―― 子供とはなんて羨ましい生き物なんだ

彼のカラダに切望の眼差しが降り注いだ。



直後。そんな事を言われているとは、これっぽっちも思っていない●●●が
応接室へと戻ってくる。


「はぁ〜〜♪凄く広いお風呂で驚きました」


見遣ったクルー達は、思わずゴクッと唾を呑む。
そこに立つ●●●は、ほんのり肌を色づかせ、熱いのか、パタパタと手で顔を扇ぐ。

そのたびに王室特有の、甘い香りがふわりと漂い。
借りた寝巻きであろう白のロングのネグリジェからは、うっすら下着が透けている。


「……ん?!」


ふとクルー達の視線に気づいて、●●●は扇ぐ手を止めた。
穴が開くほど、じっと見つめる彼らの顔は、不機嫌そうに、見えなくもない。
それはさっきリチャードが言った、主におっぱいがどうとか云うワードに起因するのだが。

そんな事、知るよしもない●●●は、腕を、胸の前でクロスした。


「似合いませんか、こういうの……」


そして自分の寝巻きを寂しげに見る。

●●●にとってネグリジェとは
娼婦か、金持ちの女性のみが、着るものだと思っていた。
なのに、借りたものとはいえ、分不相応である自分が着ても、似合うはずもない。

やっぱりなと、浮かれた自分を反省した。


「おれは似合ってると思うが?」


エドワードが振り返って、声をかけた。


「……え?」
「しかし、…そんな顔をするなら、明日、違うのを用意させよう」
「いえ…用意するだなんてとんでもない…」


それなら船へ取りに戻れば済むこと。
その必要はない。
そう言うより先。クルー達の鋭い視線が、エドワードに降り注いだ。


「? なんだお前たち?…どうした?」
「その必要はない」
「ん?」

「十分コイツに似合ってる」


彼らは力強くも、大きく首を縦に振る。


「…?!……ふ、…ふははは……」


その意味を理解してエドワードは声を上げて笑った。


「なら、これでいいんだな」
「ああ、もちろんだ」
「―― へ?」


キョトンと首を傾げるが。
どうやらこのままでイイと、そういう結論で、事は落ち着いてしまったらしい。
そこにリチャードが、●●●の足元へ駆けてきた。


「●●●、お寝間なのに、とーっても可愛いよっ!」


そう言ってまた、腕を伸ばす。


「そ…そうですか?お世辞がうまいですねリチャードさんは…」


●●●はニコリと笑って、ヒョイと彼を抱っこする。
すぐに彼は眠い子供がするように、スリスリと胸に顔を埋めた。


(―― アイツわざとやってやがる…)


薄目を開けるリチャードを見逃さなかったシンとナギは、絶句した。


「(―― 離れろクソガキ)」


そして2人は苦虫を噛み潰した顔で、声にならない声を上げた。



こうして城での夜は更けていった。








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