露天風呂 (ロイversion) | ナノ
第7話
目を開けると、見慣れぬ天井。
右を向けば、頭の上に氷嚢を乗せたロイが、なぜか、くたりと横になっている。
「気がついたかい?」
反対側に顔を向けると、ソウシがウチワで扇ぎながら、心配顔を覗かせていた。
「ソウシ先生…わたし…」
起き上がろうと手を突くけれど、頭の芯がクラクラして、視界がぐにゃりと歪む。
「まだ寝てなさい」
ソウシが肩を押しとめた。
「あの……いったい何があったんでしょう?」
なぜ自分が布団の中で寝てるのか?
ここはどこなのか?
記憶がプツリと途切れたまま、思いだそうにも思い出せない。
「倒れたんだよ、●●●ちゃん」
「―― 倒れ、た?」
そんな記憶、全くない。
ていうか、頭にモヤがかかったみたいで、熱があるようなそんな感覚。
そこにリュウガが近づいてきて、頭の横で胡座を掻いた。
「気分はどうだ?」
「………せんちょ…」
「しかし驚いたぜ?風呂から戻ってみりゃー…お前が脱衣所で倒れてる、つって、宿の奴が呼びに来てよォーー」
「?宿?お風呂?」
「それで慌てて行ってみれば、お前とロイが手なんか繋いで倒れてたんだからな…」
「シンさんも…」
周りを見れば自分の横に、シンとナギも座っている。
「え、と……お風呂で倒れた?…ロイ船長と?」
思い出そうと目を覆うように、腕を置いた。
暗闇の中、だんだん記憶が覚醒していく。
(そうだわたし。…べっぷ島にみんなで来てて…露天風呂に浸かってて…)
――そこまできて、ふとあることに気づいた。
「そうだわたし。タオルを巻いてお風呂に入ってたんじゃ…」
なのに今着ているのは……旅館の浴衣。
だけど自分は気を失っていたのだから、着替えることなど不可能で。
ちらりと4人の顔を見た。
(これって誰かが、着せてくれたって事だよね…)
だけど見下ろす顔は、普段となんら変わらない顔。
(どど、どうしよう)
聞きたいけど、聞くに聞けない。
けど、聞かないままでは気持ちが悪い。
「あの……」
仕方なく、ぼそぼそと呟くように聞いてみた。
「わたし。タオルを巻いてたと思うんですけど…」
言いかけると、リュウガが言葉を遮った。
「それなら取ってやったぜ?」
「……と、った?」
「濡れたタオルを巻いたままじゃー、布団に寝かせるわけにはいかないからな」
シンが横から口を挟む。
「―――?!」
ごもっともと言えば、そうなんだけど。
なんで2人が答えるの?
いやまさか…
「ではソウシ先生がわたしの着替えを?」
たとえそうだとしても医者であるソウシに見られたのなら、あきらめがつく。
藁をも掴む思いで尋ねてみると、ソウシはどこか気まずそうに、首の後ろをさすって見せた。
「いや……それがね?」
「ソウシだけじゃねえぞ?」
「…と、いいますと…」
「ここに居る全員で、着替えさせてやったんだ、」
「…ぜ!」
全員って、……全員って言った!!
頭を鈍器で殴られたような衝撃。
けど、戸惑ってる場合じゃなくて
「み、見てないですよね?」
「お前のハダカか?」
「え……ええ、」
恐る恐る返事を返すと、リュウガはニヤリと笑った。
「そりァ―…見たに決まってんだろ。見ないで着替えなんかさせられるか」
「…………っ」
―― もっともだ。いや、お仕舞いだ。
このまま消えてなくなりたい!
鼻の上まで掛布をずりあげ、目だけで周りを見回すと、ナギが気まずそうに、赤い顔をすっと逸らした。
「いいカラダだったぜ?」
途端●●●の顔は火を噴くほどに真っ赤に染まり、そのまますっぽり掛布をかぶる。
嗚呼、ホントに死んでしまいたい!!
暗がりの中、泣きそうになっていると怪訝な声が降ってきた。
「…にしても、あんなトコで、いったい何があったんだ?」
握る掛け布がペロンとめくられ、拗ねた●●●が顔を出す。
4人の男に見下ろされ、渋々いきさつを話し始めた。
「実は男湯だと気づかず入ったら、ロイ船長が入ってて。…そうだっ!!クマが出たんですッッ!」
宿の人に知らせなきゃ!!!
起きあがった瞬間。グラリと視界が傾いた。
そのまま布団に横になると。
「男湯じゃねえ、」
ぽつり。
まさにそんな風に、ナギが言った。
「男湯じゃ、ない?」
なんとか声を絞り出すと、呆れた顔がこちらを向く。
「お前が入ったのは、男湯でもなんでもねえよ、」
「え、と……」
今度はシンが舌打ちをした。
「お前が入ったのは男湯でも女湯でもなく、動物の風呂だ!」
「………どうぶつ?」
ますますワケが分からない。
きょとんとする●●●の横で、リュウガとソウシが笑いを噛む。
2人の肩がカタカタ震えた。
「あの……どういう意味でしょう?」
問うと、呆れたようにシンが言った。
「あの風呂はなァ。…裏山に住む、猿や鹿が入るための風呂だ、」
「………サル。シカ?」
「そしてそれを、眺めるための風呂だ。入り口に「入るな」と、そう、書いてあったろ!」
言われて●●●が、ポカンとする。
そこにナギが、は……と息を吐き出した。
「お前、相当、馬鹿だな、」
「ブ―ー―ー―ーッッ!!!!!」
吹き出したリュウガが、頭の上で大笑いをする中。
ソウシは俯いて、クスクス笑い。
シンとナギは冷たい視線で、じとりとこちらを見つめた。
「な///」
そしては●●●はというと、恥ずかしさのあまり掛布を頭からすっぽりかぶって
温泉はもうこりごりだ。
掛布をぎゅーーっと握り締めて、ただただそこに、うずくまった。
そしてその隣には、未だ目覚めぬ大馬鹿者がもう1人。
股間にタオルを掛けただけのロイが
何も知らずに転がっていた。
end
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