七色十色 | ナノ
第5話
「アイツら来てねーみたいだな」
シトシトと雨が降りしきる中
2人で湖畔を見渡す。
しかし、人がいる気配はどこにも無く、濡れる湖が、見えるだけ。
どうやら今来た道が、思いのほか近道だったようで、長くおんぶさせなくて良かったと、ホッと胸をなでおろした。
「んじゃ……おろすぞ?」
「はい……」
それから近くに洞窟を見つけて、地面にゆっくり下ろされる。
すぐにリュウガは落ちている枝をかき集め、器用に火を起こしていく。
それから、ドカリと向かいに腰を下ろし、足のバンダナを外し始めた。
「まだ、痛むか?」
「ん、……少し……」
腫れ始めた足の痛みは、正直どんどん増すばかり。
ズキズキ痛むその場所を、大きな手が優しく包む。
「こんなに腫れて…少しなわけねーだろ?」
無骨な手からは想像もできないほど、優しくそこをさすってくれる。
「ホントはすげえ痛むんだろ?」
目が合って見つめられたら、嘘を突き通す自信なんてない。
レナは赤い顔でコクンとうなずく。
「やっぱりな、」
リュウガは髪をくしゃりと撫でて、バンダナを手に立ち上がる。
入り口まで歩いていくと、滴る雨でそれを濡らした。
「ひっ!冷た……っ!」
「ほら、じっとしてろ、」
また足元に座ったリュウガが濡れたバンダナで足を包む。
思いのほか冷たくて、カラダがビクッと大きく跳ねた。
「つったく…ろくでもねえ誕生日だな?」
「んー…でも、これはこれで愉しいですよ?」
「ハハ……愉しいか?…お前のそういうとこ…嫌いじゃないぜ?」
手を動かしたまま、顔をあげたリュウガと、バチッと目が合う。
2人だけの空間に、なんだか胸がドキドキする。
思わず目を横に逸らすと、きゅっとバンダナが結ばれた。
「よし……あとはソウシに診て貰え」
「はい、そうですね、」
どこを見ていいか分からず巻かれたバンダナを見つめる肩に、ズシッと、重たい物が掛けられた。
「……?!」
見ればびしょ濡れの赤い上着。
「……これ…」
「とりあえず、なんもねーよりはマシだろ。それでも掛けとけ、」
「でもぉー…って。 ヤダ船長…どこ行くの?」
そのまま踵を返して洞窟の奥へと歩いて行くから
慌てて追おうと立ち上がる。
瞬間足が悲鳴を上げて、ドスンと石に座ってしまった。
「おい、なにやってんだ、置いてきゃしねーよ、」
「だったら…どこ行くの?」
見上げる目にじわりじわりと涙が溢れる。
「ほら泣くな。ちょっと奥を見てくるだけだ。獣のねぐらじゃ、洒落になんねーからよ、」
確かにこんな無人島の洞窟じゃ、何がいるか分からない。
……でも……だけど……
「直ぐに戻ってくる?」
「ああ……少し調べたら戻ってくる。何かあったら大声で呼べ…」
ぐすっと鼻を啜りあげると、大きな手が、くしゃりと髪を左右に乱す。
渋々うなずく頭を撫でて、リュウガは松明片手に、暗い洞窟へと消えて行った。
「………船長ォォ?!!」
「おう、ここにいるから心配するな……」
それから1分と経たずして、声を掛ける。
外は雨。 中はガランとした薄暗い洞窟。
かつてこれほどまでに心細いと思ったことがあるだろうか。
返ってくる返事にホッとしながら、何度かそれを繰り返す。
すると。
「……船長?!!」
突如プツリと返事が途絶えた。
サァァーと血の気が引いていく。
「やだ、船長ォォォー!!!」
何度呼んでも、やはり返事が返ってこない。
(……中で何かあったんだ…)
いても立ってもいられず、痛む足で立ち上がると
小さな松明を片手に、洞窟の奥へと足を向けた。
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