七色十色 | ナノ
第4話 






「おい足かっ?足が痛むか?」
「ん、……足くび、が…」

レナの足元に座ったリュウガが、両の靴を脱がせていく。
右の足首が赤くなって腫れていた。

「転がる途中でぶつけたんだな、……痛いか?」

掴んだ足を、軽く捻ると。

「い……っ!」

レナのカラダがビクンッと跳ねた。
慌ててリュウガが手を離す。

「はは、…わりぃ……」
「……!」

ジトリと睨むその目には、薄っすら涙が浮かんでいた。

「も!痛いって言ってるのにぃ!」
「だから悪いって言ってんだろ?しかしこりゃ、捻挫だな」
「……ねんざ?」
「ああ…死にゃァしねえよ、」

リュウガは頭をポンと撫でて、安心したのか、上を見る。
そこには、2人が転がる軌跡が、はっきり斜面に残っていた。

「……なんてこった、」

まいったなァと頭を掻くが。
よくもまあ、これだけの斜面を墜ちてきて
この程度で済んだもんだと、なんとなく笑えた。






「おおおおい、お前らァァーー!」

それから木々の隙間に見え隠れするクルー達に向け、大声で叫ぶ。
直ぐに返事が返ってきた。

「船長ッ、無事っすか?!」
「おー…!レナも捻挫だけで済んだみてーだ!」
「………」

そう返せば、なかなか返事が返って来ないのは
レナの話しを奴らがしているからだろう。


「つーことで、取り敢えず登って行けそうもねえ!
お前らはこのまま湖に向かえッ! おれらも向かう。そこで合流だ! いいな!」

要件だけ言って背中を向ける。
直後、ソウシの声が降ってきた。

「了解しました。レナちゃんのこと、頼みましたよ、」
「ああ、わぁーてるよ! お前に言われるまでもねえ!」
「あと、できるだけ痛めた足は冷やしておいて下さいね!」
「はいはい、分かりましたよ、」

おざなりな感じでそう言って、リュウガはレナの前にしゃがみ込む。
不安げな頭をくしゃりと撫でた。

「つうことで…俺らも行くか?……っとその前に……」

ふと見るとレナの手には、ナギのバンダナが握られている。

「おっ!良いモンがあるじゃねえかよ、」
「ん?…これっ?」
「おう。ちょっと貸せ!」

レナの手から泥だらけのバンダナを受け取り、近くの水溜まりで泥をすすぐ。
戻ってくると、ドカッと足元に座った。


「……にしても……おれもお前も、泥だらけだな?!」

ははっと笑って顔の泥を拭いてくれるリュウガの目は、
力強くて、優しい。


「ごめんね船長?わたしが慌てたせいで、巻き込んじゃって…」
「いや。……そもそもスコールの事まで考えてなかった俺のミスだ。気にすんな、」
「………せんちょう、」

気づけばどしゃ降りだった雨も、シトシト降るほどに治まっていて
カラダの泥を流していく。


「それにな?」
「ん?」
「その格好を、いつまでもヤツらに見せとくのは我慢ならねーから、ちょうど良かった、」

 その格好?
視線を落とせば、未だにシャツがピタリと貼りつき、下着と肌を晒している。

「もっ!」

慌てて胸を両手で隠すが、それでもヤキモチを妬いていてくれた事が
なんとなくレナは嬉しかった。


「……船長?」
「ん?」
「守ってくれて、ありがとう」

「おー…」

リュウガは水溜まりを往復し、足の泥を拭いていく。
何度かそれを繰り返すと、足首に巻いたバンダナを、最後にきゅっと結んだ。

「よし、こんでいいだろ」
「はい、ありがとうございます」

…と、リュウガがこちらに背を向けた。

「…んじゃ、おぶされ!」
「…へ?!」

その言葉に、不覚にも胸がドキッとした。

なぜなら付き合って1ヶ月。
恋人同士となってから、したことといえば…
たまに貰うフレンチキスと。
寝る時、抱き枕のごとく、背後から抱き締められることくらいで。
正直リュウガに求められているのか、不安でもあった。

…にもかかわらず、こんな格好で自分から抱きつくなんて……


「……?…おい何やってんだ?早くしろ!」
「………!」

あれやこれやとよからぬ妄想を繰り広げていたせいで、再び心臓が大きく跳ねた。

「なんだ? お姫さま抱っこがお望みか?」
「お、……お姫さま抱っこ?!!」

振り返ったリュウガと、バチっと目が合う。
とたん顔が熱くなって、こんな顔を見られたら、たまらない!
のそりとレナは立ち上がる。


「では…お言葉に甘えて……」

そして首に腕を回して全体重を背中に預けた。
リュウガはそれを確認すると、どっこらせと立ち上がる。


「…んじゃ、行きますか?……お姫さま?」
「……っ!」

肩越しに振り返って、ニヤッと変な顔で笑うから。
ぽかっと頭を1発叩く。
リュウガは「イテッ」と笑いながら、険しい山道を歩き始めた。




     ※



「船長の背中……あったかい…」

お互いびしょ濡れのはずなのに、じわりと伝わる体温が心地いい。
しがみつく顔の横には、歩き続ける、端整な顔。

「おい、あんま見つめるな。おれが今、どんだけ我慢してるか分かるか?」
「?! ガマン?!!」
「なんでもねえ……それより振り落とされねーよう、捕まってろ、」

なんだか良く分からない。
それでも言われた通り、ぎゅっと首にしがみつく。
リュウガはヒョイと抱え直した。

それから暫く揺られていると、開けた処に出た途端。
雨で濡れる湖と、いくつかの洞窟が見えてきた。









 
   






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