俺は素晴らしい美貌をもっている。
万人に愛され、大事に育てられてきた。
常に愛されていた。
* * *
つんとした薬品の臭いに顔を歪める。
「…臭い。」
「当たり前だろう、ここは過去の実験体の保管庫。腐らないようにされている。」
真顔で淡々と言ったこの学園の首席を、俺は未だに理解してはいない。
もっとも、する気などはさらさらないのだが。
* * *
「なんで俺をここに連れてきたのさ」
いきなり呼び出しをくらい、なかば無理矢理連れて来られた場所がこんなに不快だとは思わなかった。
そう表情で表現すると、数歩前を歩いていたバダップはこちらを振り向きながらこう言った。
「あまりにも数が多いから、引き取り手を見つけろと言われたんだ。」
…冗談だろ?
* * *
こんなゴミのなかから持ち帰れ?馬鹿にしてるのか。
「凍結状態の奴のなかから連れていけ。自動手当をさせればまた動く。」
「動いたとしてもブスを飼う気なんか…」
"あるはずない"と続けようとしたのだが、あるケースに目がいく。
「…ミストレ?」
バダップが俺の名前を呼んだが気にもとめずにケースに近づきそっと触れる。
「君の…名前は?」
動くはずもない桃色をした薄い唇を熱い息をほう、と吐きながら眺め、恍惚とした笑みを浮かべる。
これを人は一目惚れというらしい。
* * *
ベッドのスプリングが煩くなる部屋に電子音が響く。
少女の顔に張り付いた亜麻色の髪を優しく触れながら通信機に触れる。
「また遊んでたのか?」
エスカバは少し呆れたように言った。
「ああ、相変わらず愛らしいよ。」
可愛くてたまらないと告げれば、はいはいと流された。
急ぎの用だったらしいので、繋がったままだと負担になるだろうと思い、中から自身を引き抜き、薄いタオルケットをかけてやる。
内容は任務の話だった。
今から出撃するらしい。
うとうとし始めた愛しい彼女の頬にそっとキスを落として立ち上がる。
部屋にある一台の機械は規則正しく彼女の心音を伝えつづけているが、そこでふと思う。
もし、今俺が、彼女に繋がっている、チューブを引き抜いたらどうなるだろう?
もし、今俺が、彼女がつけている酸素マスクを外したら、
もし、今俺が、彼女の腹部を強く押したら?
もし、今俺が、もし、もしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもし。
彼女はきっと、簡単に壊れてまうのだろう。
俺は君の声も、笑顔も、性格も、何も知らない、
だけれど、これだけは言える。
俺は、君の事を、愛してる。
何も知らない君だけれど、「 。」
彼女の心音だけが聞こえていた部屋に、声が響いた。
* * *
俺は素晴らしい美貌をもっている。
万人に愛され、大事に育てられてきた。
常に愛されていた。
それゆえに、自分から人を愛すことはしなかった。
だから、俺は、知らない。
膨れ上がる狂気と愛を、止める方法を、
俺は知らない。
* * *
「それでも、愛してる。」
企画懇願様に提出しました。