幸多き人生を共に | ナノ



「ね、起きて、大倶利伽羅。朝だよ」

ゆさりと体を揺らされ、意識を無理矢理浮上させられた。体はまだまだ睡眠を求めているが、どうにか目を開ける。

「…もうそんな時間か」

昨日、何時まで起きていたか正確に知らない。ただお互いに求めあって果てた後に、そのまま寝てしまったのだ。お陰で、俺は今何も着ていない。向こうは着物を1枚羽織って、胸元で抑えている。朝から見るには随分と厳しい絵面だな、とぼんやりした頭で思う。

「本当に朝弱いねぇ」

小さく笑う声と共に、するりと頬に触れられる。そのまま髪の毛を耳にかけられれば、視界がより鮮明になる。
他人に触れられるなど、今までは全く考えていなかったが、コイツならいいと思ってしまうようになっている。
慈しむように触れられる手に、少しのくすぐったさを覚え、むくりと上半身を起こす。
「おはよう」と告げられて「おはよう」と返す。この本丸では、挨拶は必ずしろと言われている。

「あのね、大倶利伽羅。お願いがあるんだけど」

お互いに服を着ながら告げられたその言葉に、首をひねる。

「なんだ改まって」

俺の主であり、妻であるこいつは基本的に自由だ。仕事はきっちりやる事やるが、それ以外はもう自由の一言に尽きる。短刀達と鬼ごっこしていると思ったら縁側でお茶を飲み、料理してると思えば畑仕事に勤しんでいる。刀剣達と話していたと思えば、枕投げをはじめるし、皆でチームつくって野球やると言い出した時はさすがに頭を抱えた。その前にサッカーやってただろ。
それでも、その自由さの中でも俺達への愛は常に溢れている。声をかけ、手入れをし、愛おしいと口に出す。
最初はその直球さと自由さに、驚くほど振り回されたが、今となっては何が来ても驚かない。恐らく次は、こないだテレビで見ていた吹奏楽でもやりたいと言い出すんじゃないだろうか。却下だ。

そんなわけで、コイツがわざわざ俺に改まって許可を求めるような事はほぼ無いに等しい。戦略や刀剣達の振り分は、俺や初期刀の加州清光によく聞いたりするが、それ以外のコイツの奇行は全て独断だ。それが改まって俺に聞くなど。

「何かやったのか」
「違うよ!」

てっきりミスか何かをしたのかと思ったのだが、どうやら違ったらしい。
ではなんだ。と大人しく向こうの出方を待つ。
俺の視線に気付いたのか、少し言いづらそうにこちらをちらりと見ながら口を開いた。

「あのね、今日一緒に出かけてほしいなぁ…なんて」

何だそんなことか。
確かに今日は本丸で週一の休みの日だ。本来戦の中で休みはどうなのだろうと思っていたが、これは人間の都合のようだ。俺たちの様にすぐに疲れが飛ぶほど、人間は簡単に出来ていない。
その休みの日は誰がどう使おうとも構わないとされている。甘味屋に行くものもいれば、万屋に買物に行くもの、書物を読むもの、鍛錬するもの、様々だ。
目の前の女はよくこの休日をひたすら短刀と遊んで終えたり、料理で1日過ごしたり、突飛な行動の計画を真剣に悩んだり、様々だ。
それが今日は山に行きたいと思っただけ。何か考えがあるかもしれないし、無いかもしれない。この主に関しては、深く考える方が馬鹿なのだ。

「問題ないな。どこに行きたいんだ」

さらりとそう告げれば、驚くほど喜んだ表情がこちらを向いた。
出掛けるなど、よくしているだろうと思ったが、この喜びを見て自然と口元が緩み、言葉に出すことは無かった。

「あのね、山!」
「山」
「そう、山!」

山。思わず復唱したが、それはあの裏山のことでいいのだろうか。
この本丸はそこまで大きく無いものの、後ろ手に緑豊かな山を所有している。この山自体はこの本丸の主の祖父の持ち物らしく、審神者になるということで景気祝いにくれたらしい。二つか三つは軽くあるこの山を、本丸と共に審神者はこの領域に持ってきたらしい。とてつもない力じゃないのか、と思ったが、なんでもこの山と審神者の相性が良かったとかで、簡単に持ってくることが出来たらしい。
木々は生い茂り、動物もよく現れる。奥に行けば、古代のままのような深い森になっているため、基本立ち入り禁止だ。だが、審神者の許可を取り修行などでよく立ち入るものもいる。

その山に、こいつは行きたいのだろうか。

「あの裏山でいいのか」
「うん、そう!」

その答えが余りにも喜んでいたものだから、まぁいいか、と深く考えるのを止めた。恐らく何かしたい事でもあるのだろう。一人で行かれるよか断然マシだ。

「一刻後、裏扉にいろ」

ぽすりと頭に手を載せて、部屋を出る。俺は支度に一刻も要らないが、女の場合はそうではないらしいというのは、以前からの経験で知っている。
会議の前日に喧嘩をしたことがある。原因などわからず、ただひたすらに腹が立った。
『もういいよ!明日は私一人で行く!』
会議には近侍を一振連れていくことになっている。安全性のためだそうだ。
その一言で、部屋に戻ったアイツとは、結局その日話すことはなかった。
翌日、よく眠れず、だからといって謝りに行く気にもなれず、ぼんやりと襖を開ければ、奥の部屋から甲高い叫び声が聞こえた。
思わず駆け出してそちらに向かうと、貧血かと思うくらい青ざめたアイツが必死に着替えていた。

『お、おおくりから!どうしよう、こんな時間に起きちゃった、絶対遅刻だやばい、うわぁー!!今日の服決まってない、あ!資料コピーしてないぃ』

あせあせと支度するソイツの布団を片しながら、コイツ喧嘩したこと忘れてないか?と思う。

『…そんなに焦る時間じゃないだろう』

何だかいろいろ馬鹿らしくなって、そう伝えれば『ばか!』と逆に怒られた。

『女子の支度ってすっごい時間かかるんだよ!?こっから着替えて化粧して支度して…うわぁ時間が足りないよう』

そう言いながら当たり前のように服を脱着するコイツに、もう心底そう言う事をやめて欲しいしか思わない。言っても聞かないから言わないが。

バタバタとどうにか着替えを終え、顔面整えてくる!と言いながら部屋を飛び出した。嵐のようだなとぼんやりと出ていった廊下を見ていれば、また激しい足音が近づいてくる。

『おおくりから!』
『どうした、なにか忘れたか』

違うよ!そう言いながら俺に近づいて、何を、という前にあいつは俺の口を塞いだ。自身のそれで。普段からアイツからなどほとんど無いから思わず硬直する。すぐに離れた唇と、俺より低い所にあるコイツの顔を見る。
えへへ、と少し照れたように笑うアイツはいつもどおりだ。

『昨日はごめんね!やっぱり今日一緒に行ってください』

それだけ言って、こちらの答えを聞かずにまた走っていってしまった。
しばらく放心したまま、気付かぬうちに桜を舞い上がらせていた。

結局支度には一刻かかった。会議には遅刻した。



:::



一刻後、門に行けば既にアイツはいた。
朝とは違いきっちりと巫女装束を着ている。普段からその姿でいるこいつには違和感は無いが、山登りにはキツくないだろうかとも思う。
まぁいいか、とすぐに思考を戻す。
この主に関しては、深く考える方が馬鹿なのだ。

「待たせたな」
「ううん、行こ!」

する、と手を繋いで2人で扉から出る。基本裏山に行く時はコチラから出るのだ。四方を塀で囲まれた本丸から出ると、そこは少しだけ人間が歩くためにできた道に繋がっている。
そこをまっすぐ進み、川を渡り、田んぼを抜け、山につく。この本丸がどこにあるのか、それは恐らく主以外、誰も知らないだろう。ただ、この緑豊かで、静かな本丸の周りは気に入っている。

「そういえば、何で急に山に行きたがったんだ」

たんいもない話の間に、ふと思った疑問をそのままぶつければ、相手は少しだけ逡巡したように視線を泳がせながら、えへへ、と笑った。

「山についたら、教えてあげる」

結果として答えを教える気はないのか。
まぁ、山についたら教えるらしい事をわざわざここで聞く必要もないかと納得し、そうかと一言返す。

「やっぱり次は皆で吹奏楽やりたいね!」
「やめろ」

だがここで言葉にしていいだしたということは、恐らくもう計画の算段はつけているのだろう。こないだ見た映画に触発されたな。

「何でもかんでも影響受けるのはやめろ」
「えぇーー!でも大倶利伽羅の楽器吹くところみたい!大倶利伽羅なら何だろうねぇ、トランペット、トロンボーン…、チューバでもいいかも…金管似合いそうだね!」

どんどんわからない横文字が出てくるが、とりあえず詳しいのはわかった。

「今度経費で落とすね!」
「やめろ」

そうこう話しているうちに、山に登る道に差し掛かる。
どこら辺に行きたいんだ、と訊ねれば、うぅーん、と言葉を濁される。

「多分、私しか行けないと思う」

秘密の場所だから。そう続けて、じゃあ行こっか!と手を引っ張られる。それがやたらと強く感じて、同時にコイツの不安も感じた。何かを隠すような、怯えるような不安だ。
それが何かわからない自分と、何も言わないコイツに内心舌打ちしながら、足を動かす。

最初はなんとか人の歩ける道だった。だが途中から明らかにその道を逸れた。獣道に入り、道無き道を進んでいく。

「…おい」
「んー?」

前を進むアイツが心底間抜けな声を出しながら返事をする。その足に全く迷いはないが、いかんせん、慣れない山道だ、どうにも覚束無い。

「ちょっと待て」
「え!?」

無理矢理手に力を込め、立ち止まらせてから胸の中に抱きしめる。突然の事に抵抗もできない事をいい事に、すぐにそのまま膝裏に腕を入れ体を持ち上げる。俺と頭一つ分しか変わらない、女にしては高めの身長の癖して、コイツの体は驚くほど軽く、そして細い。俺の力で簡単に抱き殺すこと位できるだろう。決してしないが。

「ちょ、ちょっと大倶利伽羅?」
「どっちだ」
「え?」
「向かうのはどっちだ」

そこまでいえばようやく合点が言ったように、あぁ!と呟いた。それそらすぐに真っ直ぐ!と返される。その言葉のまま、まっすぐ進む。ちらりと抱えているコイツの足の方に目を向ければ、長めの足袋を履いているとはいえ、やはり枝などの引っ掻き傷が目立つ。最初からこうするべきだった、と思っていると、どうやらバランスがうまく取れなかったらしいコイツが、首に腕を回してくる。顔はまっすぐ道の先を見据えていて、たまに指さして誘導する。それでもどうにも近いその距離に多少たじろぐ。顔には一切出さないが。
たまにこちらを見て、花が綻ぶ様に笑う。桜を散らしながら歩いていないか、心配になった。

「あ、ここ曲がって」

またも獣道で、正直先ほどまで歩いていた道とあまり違いがない。こんな所を好き好んで歩くのは、本丸でも脳筋達位だろう。それでも進んでいくと、俺の胸元の服を片手で力強く握られる。目は未だにまっすぐだ。だが、それでも何かを隠すような、その行動に眉をしかめる。

「おい、」
「あ!もうすぐだよ!」

言葉をタイミングよく遮り、コイツがぴょんと地面に着地する。そこから小走りで手を引っ張られ、前に進む。聞きたいことを聞けずに、小さく舌打ちしそうになる。

「ほら、大倶利伽羅ついたよ!」

つながれていた手が離れ、アイツが駆け出す。今までの獣道が嘘のような駆け出せるほどの空間がそこにはあった。
広場のように大きく広がったこの空間は、俺達が今まで歩いてきた獣道と林に覆われている。そして、この空間の中心に、驚くほど太く大きく、本丸にいるじじい達よりも長く生きているであろことが一目で見てわかる木が、言葉を発さずに佇んでいた。
木の周りは草花で覆われ、澄んだ空気を感じる。中心の木々によって天高い所から覆われたこの空間は、日向というよりも日陰で覆われている。所々に日が差し込んでいる位だ。だがそれでも暗いと感じることなく、むしろ何故か明るいとさえ感じる。
様々な動物が住んでいるのだろう、先程からたくさんの気配を感じた。
長らくあの本丸に住んでいて、度々本丸の騒がしさが嫌になり、一人で山に入ることは多々あったが、こんな所があるなど全く知らなかった。

「おおくりからーー!」

木の幹に乗って、アイツが手を振っている。アイツが乗っても十分にバランスを保てるほど、木の根は太く、深い。
中心に向かう途中、何かの気配を感じた。見定めるような、ねっとりと絡みつくような視線だ。

ーなるほど。

修行という名目の遊びで、度々山に入っている脳筋の奴らからも、このような空間があるということは聞いたことがない。
恐らく、ここは人の形をしたものは入れないのだろう。例えそれが神であろうとも。

付喪神はそもそも人の祈りと願い、そして言葉によって現れた物だ。どれほど崇高に扱われようが、人との関わり合いは切ることはできない。恐らくそれが今までここに来ることのできなかった理由だろう。
だが、アイツはここに来れた。そして恐らく何度も来ているのだろう。

「おい」

中心に着き、木の幹に乗って俺よりも高い位置にいるアイツを見上げる。
木と向き合っていたアイツは、静かにゆっくりとこちらを振り返った。その表情に笑顔はない。

「ここは、この山の神様がいるところなの」
「そのようだな」

そうして幹から降りてくるコイツに、手を差し延べる。それを指先だけ掴んで、ゆっくりと降りた。
そうして、俺の隣に立ち、木の頂上を見上げる。その瞳は強く、何かを決意したようだった。

「山神様!私、やや子ができました!どうか強く元気に産まれる事ができるよう、これからもよろしくお願いいたします!」

こちら、旦那です!
握られていた指先が、気付いたら掌を握られていた。
俺はと言えば正直どこから理解すればいいのか、少しの間放心していた。



:::



それは、本当に偶然だったと思う。
まだ私が5つにも満たず、祖父の家に遊びに来ていた時だ。
近所の仲良しの子達と隠れんぼしようとなって、私は裏山に入ってしまった。
大人がいないのに入ってはいけないよ、怖いお化けがたくさんいるからね。
そう言われていたにも関わらず、だ。
幼いときから色々なものが見えていた私は、当時、悪いものも良いものも全て同じものとして見ていた。こちらに手招きする黒い手も、遊ぼうよと声をかけてくる子供も、そっちじゃないよと慌てる異形のものも、全てこっちの世界とは違う、怖いもの。そう思っていた。
裏山はいつも黒い手が手招きしているから、祖父の言いつけなど無くても私は決して裏山へは行こうと思わなかった。だけれど、その日は違ったのだ。裏山へと入れる、唯一の道の先がやたらと光っていたのだ。いつもは黒くて、嫌なものがたくさんあるのに、その日は光っていた。向こうに太陽でもあるのかもしれない。幼い私さそう思い、抑えきれない好奇心を持って山に入った。
光を目指しても、全く光は近づかなくて段々疲れたしお腹もすいてきた頃、そこに私はついた。
大きい木が圧倒的な存在感を放ちながら、周りの空間を作っていた。
ここは神様のいるところだ、と無意識に理解した私は大木に向かって一礼した。
その後の事は、正直あまり覚えていない。
何かと遊んだ気もするし、ひたすら寝てた気もする。ただ、次に意識がはっきりした時には、私は山に入る直前の道に倒れていた。それを祖父に見つけられ、泣きながら説教をされたのだ。

その奇妙な話を祖父にすると、そこにいたのは山神様だと言う。
帰ってこれたのだから、悪い神様ではないし、きっと子供好きな少しだけお茶目な神様なのだと。それから、山神様は母親なのだとも。

古くからこの山には神様がいる。その神は、この山の母であり全てであり、見守っているのだという。
初めて聞いたなぁ、と思いながら、祖父はゆっくりと笑いながら、もし子供が出来たらお願いをするといい。元気な子供が産まれますようにって。



::::



「…おい、さっきのは、」

握っていた手が強くなる。神に願いを込めた私は、ゆっくりと大倶利伽羅と向き合った。

「…子供が、できたの」
「本当か」
「…うん」

ゆらりと、瞳が揺れる。それを見て、少しだけ心臓が嫌な音を立てた。
正直、喜んでくれるかわからなかった。それが、不安で不安でたまらない。神と人の混じりものの子供だ。異端、と言っておかしくない。それでも、私は産みたい、元気な子供を。どうか幸多き人生を歩んで欲しい。

どうか、幸せになって欲しい。

決意込める為に、思い出深いこの地まで来た。この山の母親に祈り込めて願うために。

「あぁ…そうか、そうか…」

途端、ふわりと体が大倶利伽羅の香りで包まれる。腰周りを強く抱きしめられるが、そこに苦しさはない。
すぐに彼の肩が微かに揺れていることに気付き、胸が満たされていく感覚がする。
言葉に喜びは出されることないが、その優しい行為がひたすらに嬉しい。

「大倶利伽羅」
「…ん」

体を離し、大倶利伽羅が大木と向き合う。手は、繋がれたままだ。

「幸せにする、から、見守っていて欲しい」

それだけ言って、頭を下げる。
神が神に頭を下げるなど、無いことなのではないか。そう思ったが、すぐに私も頭を下げる。
心の中で、私も幸せにすると誓いながら。




:::



「なんで最初に俺に言わなかった」

帰り道、手を繋ぎながら土手道を歩いているとポツリと呟かれる。それは私に向かってのものだとわかるので、少しだけ考えるふりをする。

「うぅーん、なんていうか、先にあっちに伝えておきたかった、ていうか、隠しておきたかった」

そう言うとより怪訝深そうに眉毛をしかめる。それを見て少しだけ笑ったのだが、それで更に深く眉間にシワがよる。

「びっくりさせたかったんだよ。だってこの本丸で知らないの、大倶利伽羅だけだったから」

ぴたりと歩く足が止まる。表情は驚愕だ。
それを見て遂に吹き出してしまう。

「一番の私のお気に入りの所で、一番驚かせたかったの。だって私の中に命がいるのよ?もう、どうやって驚かそうかと思って」

どこのびっくりじじいかと思われるだろうが、私は本気で彼を驚かしたかった。しかし、それ以上に不安があったのだ。本丸の皆は大丈夫だと言ってくれたけれど、拒否されたとき、どうしたらいいのかと思ってしまった。それでも自分から伝えたくて、そうこうしていたら一番最後になっていた、というのが本当のところだ。

「…怒った?」
「…別に。ただ夜は覚えておけ」
「残念、今日は宴だよ。私の懐妊祝いの」

舌打ちが溢れてから、すぐに口を塞がれる。
とっさのそれに、目を閉じることもせずにいれば、口が離れてからまた抱きしめられる。

「必ず守る」

何から、とは聞かない。どれほどこの日常が幸せでも、今は戦中なのだ。わかってる。いつか来るかもしれないその別れが、悲しくて悲しくて仕方ないのも、わかってる。

「うん、うん…!」

首に腕を回して、抱きしめ返す。
例えいつか来る別れが、悲しくて寂しくてたまらないものでも、今日を生きて明日も生きて、これから先、長い長い時をこの人と、私の中に宿る子と共に生きていきたいと心の底から思った。


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