良い夫婦の日 | ナノ




「おかえり大倶利伽羅!ご飯?お風呂?それとも私?さぁお好きなものをどうぞ!」
「飯と風呂」
「んんんわかってたよもう完璧さ!なんてったってこの本丸は式神さんがいるからね!お風呂湧いてるよ!」

両手をバッと広げて門の前で出迎えた私の横をスタスタと通り越していった大倶利伽羅の背を見ていると、出陣から帰った他の皆もぞろぞろと帰ってくる。うんうん、誰も怪我してないね。いい事いい事。

「あーあ、また大倶利伽羅先に行っちゃった?」
「清光!お疲れ様、おかえり!」
「主ー!ありがと、ただいま!」

ぎゅっと抱きしめつつ、背中の泥を気付かれないように叩く。

「うん。今日はいい夫婦の日なのになぁ。残念。いい夫婦したい」
「なにそれ」
「11月22日で、いい夫婦。語呂合わせ的な」
「へぇ、よく考えるね」

ほんとにねぇ。なんて相槌を打ちながら、皆と本丸に入る。戦場の泥に塗れた彼らを風呂へと送りつつ、私は広間に向う。
次の作戦を立てなければいけない。
そう、さっきも言ったとおり、今日はいい夫婦の日だ。更に言わせてもらえば私は大倶利伽羅が好きである。ちなみにお付き合い中、だったり、する……。
だ、ダメだ。自分で考えて照れてた。こりゃただの頭おかしい人だ。危ない危ない。
そんなわけで、日々塩対応の続く私の彼氏さんにいい夫婦の日に漬け込んで、何かしら甘甘いちゃラブしたいのだけれど、生憎私の頭ではそんな可愛いことは考えられない。考え抜いたさっきのセリフも一瞬で終わりだったし。

広間につけば、既にほとんどのメンバーが着席しており騒がしくしていた。
空いてる席を探していると、次郎が手招きして呼んでいる事に気付いた。

「たまには私らの隣に座んなよ!いっつも短刀や大倶利伽羅の隣なんだからさ!」
「私酒飲めないからね?そこお願いよ?」
「アンタ酒弱いもんねぇ。わかってるわかってるって!」
「よしオレンジジュースもってこい!飲み比べしてやるよ負けねえぞう!」

どかりと次郎と太郎の間に座ると、思った以上にデカクて威圧感に「お、おう」となってくる。なんじゃこりゃ、なんかあれだ、捕獲された兎?そんな可愛いもんじゃないなこれ。あれだわ、人間に連れ去られるUMAの写真の気持ち。

「ジュースでどう飲み比べるのですか?」
「太郎さん…ごめん考えてなかった…なんだろうトイレにどちらが我慢できるとかかなぁ」
「アンタほんと馬鹿だねぇ!」

バシバシと背中を叩きながら次郎がゲラゲラと笑う。周りも何気に聞いていて、勝負事と耳にした愛染が嬉々としてこちらに近寄ってくる。うん、席にお戻り。
そうこうして騒がしくしているうちに、風呂から上がった皆が戻ってきて食事が始められた。
一気にまた騒がしくなる広間とは反対に、私はとある一点に視点を集中していた。
大倶利伽羅の風呂上り色っぽい。ていうか超絶イケメン。なんだあれ。眼福。死ぬ。ごちそうさまですもうお腹一杯ですわ。

とてつもない色気とかっこよさやべぇ、と思いつつ全力で唐揚げを口に突っ込んだ。美味い。



:::


「それじゃ皆、なるべく早く寝るんだよ。おやすみー!」

気が付いたら始まっていた宴会を早々に抜けて、私は一人自室へ向かう。何分、皆の酒のペースがとんでもないのだ。しかもじゃんじゃか注いでくるし。嬉しいけど!嬉しいけど審神者次の日死んじゃうって!

「あぁーあ。結局大倶利伽羅と何もできてない…」
「何をする気だ」
「は!?」

後ろから聞こえた返答にとんでもなく肩が跳ねた。ついでに言うと体も跳ねた。
何事!?と後ろを向くよりも早く、視界がぐるりと回り背中が襖に押し付けられる。それから目の前に近づく大倶利伽羅の顔。私の頭の上に置かれた大倶利伽羅の腕。
えぇーと、なんていうんだっけこれ、壁ドンの進化版みたいな。わかんないけど。
ていうか、近いな!?

「お、大倶利伽羅?どうしたの?こんな事したら私死ぬんだけど。鼻血出して死ぬ。むしろ大丈夫?私生きてる?」
「生きてるから安心しろ」
「あーよかった。生きてたか」

大倶利伽羅の近さから目をそらしつつ、話題も逸らしていきたい。さっきのセリフなんて忘れて、こう、あれだ。お夕飯の話とか、

「で?何ができてないって?」

あぁ無理です。作戦失敗!艦隊帰還します!やめろ。

「いや……あの、本気でちょっと頭のおかしい発言だったんで忘れてください……」
「今更だろう」
「やめてさしあげろ私の為に」

手のひらで目を覆いながら、息を吐き出す。まぁ確かに今更ではある。いい夫婦の日だからイチャイチャしたいな、なんてむしろ私にしては普通のことなんじゃないだろうか。そうだよね、なら別にいっか!と私はもう考えることを放棄した。これが馬鹿の原因なのだが、それすらこの審神者は気付いていない。馬鹿なので。
両手をしゅばっと広げて大倶利伽羅を見上げる。うぉ、やっぱ近いな。

「今日はいい夫婦の日なんだって!イチャイチャしたい!」
「却下だ」
「あぁーっと、よし解散!」

心が折れかけたのを「ふんぬ」と踏ん張る。
ちくしょう、一刀両断かよ。まぁわかってたけどね。泣いてなんかないやい。

「あぁーあ、じゃあ明日イチャイチャする?」
「しない」
「くっそ」
「だが婚約をする」
「……………………ん?」

なんて?と首を傾げる。何だか、変な言葉が聞こえたような。気のせいかな?

「婚約する、と言ったんだ。いちゃいちゃ?とやらがしたいのだろう。なら婚約すれば問題ない」
「え、あ、うん?そうだね、そう、だね…?」

問題ないのか?これ私の頭が弱いからわかんないだけかな。そういうことにしとこう。うん。

「えぇーと、じゃあ結婚?婚約?する?」
「まぁしないが」
「なんなの!?ねえ!!ほんとなんなの!?」
「嘘だ」
「ほんとなんなの…!?」

大倶利伽羅最近やたらとこういうこと多くない?多分気のせいじゃないよ、私すっごい振り回されてる。だというのに、こちらを見てとんでもなく優しく微笑んでるものだから、何も言えなくなってしまった。
…………くそ、かっこいいな。

「それじゃあ、良い夫婦の日だしなんかする?枕投げとか」
「本気か?」

「え」と声を漏らした私を他所に、大倶利伽羅は簡単に私を俵担ぎした。しかもそのまま奥の寝所まで行くではないか。さすがにやばいと思って暴れるも、全く意味がない。ぽすん、と一日中敷いてある布団の上に置かれると、大倶利伽羅が覆いかぶさってくる。だから、近いっつーの…!

「夫婦になってする事など、一つだろう」
「え、あ、うそ、待ってそれ別に夫婦じゃなくても、ってあ、おまえどこ触って、あー!!!」

…翌日、盛大に腰が痛いと言う私とは反対に、大倶利伽羅は桜を散らせながら戦場へと向かっていった。

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