寝かせてください。 | ナノ



どうも皆さん、初めまして審神者です。本日は大晦日。こんな日ぐらい休みになってもいいだろうと思うのですが、なかなか思う通りにいかない世の中。朝から晩まで戦三昧となりました。えぇ、何が言いたいかといいますと今現在既に夜。更に言うと、あと数時間で日付が変わります。つまり、年明けです。新しい年です。それなのに、今日は!丸々!血なまぐさい戦でございました!

「もう、どうしてよりによって大晦日に限ってこんな大変な日になるんですかね…」

朝から晩まで動き続けてふらふらの体で、どうにかこうにか執務室へと移動する。さすがに皆も今日は疲れていたようで本丸の中はうっすらと静かで、それが一層寒さを助長しているように感じた。
腕を擦りながら早足で廊下を抜ける。こんな日は早く寝てしまおう。明日、起きてから」皆に「あけましておめでとう」と言おう。年末は一旦置いといて、年始に力を入れる事にする。それが私の本丸の方針です。今決めた。

「あー、寒い寒い…って、あれ?」

執務室の前。その扉に一つの影を見つけた。襖にもたれかかりながら、本体を抱いて座っている。目を瞑っているが、寝ているのだろうか。いつも寒いから勝手に部屋に入ってもいいと言っているのに、彼は私の許可なしに執務室に入ろうとしない。その見慣れた姿に、こっそりと口角が上がる。つい足音を静かにしてしまうが、どうせ起きているのだろうなとも思う。
執務室の前で向かい合ってぺたんと座る。廊下の床は恐ろしい程に冷たいが、彼はどのくらいの間ここで待っててくれたのだろう。指先だけでその頬に触れると、長い睫毛と閉じられた瞼がぴくりと動いた。

「…起きました?大倶利伽羅さん」
「…寝ていない」
「やっぱり。ほら、部屋に入りましょう。お待たせしました」

立ち上がって襖を開けてから、彼の手を引く。私よりも大きな手。指先まで冷え切ったそれに触れて、本当にどれ程待っていたのかと不安になった。
執務室の中は暗く当然ながら暖房もついていない。ついでに言うととんでもなく汚かったりもするわけで…。大掃除してないなぁ。普段から片付けておかないからだよ、と初期刀の声が聞こえる気がした。

「片すのは明日にしましょう。うん、それが良い」
「明日は朝から新年会だろう」
「あー、えーと、間を見て抜けつつ…」
「アイツらがアンタを逃がすと思っているのか」

どこかげんなりした顔で呟く大倶利伽羅さんに、頭の中で酒豪の面々を思い浮かべる。私自身も酒が好きであるからついつい飲み過ぎてしまうのだけれど、あの人たちに捕まったら逃げられない。潰れるまで飲むとは本当にあの事だ。彼らが潰れているところを見たことが無いのが問題なのだけれど。

「確かに逃げられなさそう…明後日は確実に二日酔いですね…えーと電気、暖房…」
「寝ないのか」
「最後の事務手続きが残ってるんです。今日はたくさん資材も使ったからそっちも記録しなきゃ」

ぱちんと電気をつけて、そばのリモコンで暖房をつける。すぐには温かくならないだろうが、なんといってもここには炬燵がある。こたつ様様。最強である。繋いでいた手を離してごそりと炬燵に潜り込むと、大倶利伽羅さんも向かいに座る。狭い炬燵の中では、彼の足が当たる。

「ちょっと大倶利伽羅さん、足が邪魔ですよ」
「長いからな」
「え、すごい。今最高に殴りたいです」

げしげしと容赦なく足を蹴ると、大倶利伽羅さんはごろりと床に寝だしてしまった。一応説明するが、彼の部屋、というか個室はちゃんとある。だが彼はこの執務室に居座る。もしもそれが、心地いいと思ってくれているならば、嬉しい、のだけれど。照れて意識してしまうのは、恋人としては当然だろう。

「大倶利伽羅さん、寝るなら奥の部屋どうぞー。布団は敷いてありますから」
「………」

…どうやら本気で寝たらしい。いやまあ、別にいいのだけれども。せっせと書類を終えていく。日付が変わるまでには終えたいが、無理だろうか。無理だろうな。何が無理かって、私の集中力が持たなくて無理だ。正直、今とんでもなく眠い。
朝の3時に緊急だからとたたき起こされれば誰でも眠い。皆も同じように3時に起こされているのだ。眠くて当然である。だからこそ、大倶利伽羅さんがここに来てくれたのは嬉しい。疲れているハズなのに。…まぁ、寝てるけど。それはいいとしよう。あー、私も寝たいなぁ。

そうして眠すぎる目を擦って仕事を終えたのは、ぎりぎり日付が超えない辺りの時だった。こんのすけに書類を渡して、不備のないことを確認してもらう。そうして大丈夫です、お疲れさまでした!と挨拶をもらってようやく終わりだ。

「あー、疲れた…」

体を伸ばすとぼきぼきと骨が鳴る音がした。大倶利伽羅さんにちらりと視線を向ける。横を向いて寝ている為、横顔しか見えないが目は瞑っているのはわかる。
…もしや、今度こそ本気で寝ているのでは?
途端にむずむずと沸いてくるいたずら心。この刀、寝ている様な姿は何度か見るけれど、実際に寝ている所は見たことが無い。近くに行くとぱちりと切れ長の瞳を開いてしまうためだ。大倶利伽羅と言う刀は隙を全く見せない。それがかっこよくもあり、少しだけ寂しくもあり。

「………」

炬燵から抜け出して、膝立ちで彼に近寄る。いつもならすぐに動く瞼や眉毛は、ピクリともしない。恐る恐る指を伸ばして髪に触れる。動かない、セーフ。次、ほっぺを突いてみる。さすがに起きるかと思ったが、起きない。おぉ、これは。頭の中にむくむくと童心の様なものが出てくる。少しだけ強くほっぺを突いてみる。………起きない…!!
すっかり嬉しくなった私は、あくまでも彼を起こさないように狭い炬燵の中に入り込んで横になった。この距離感だって、滅多にできる事ではない。炬燵で寝ると翌朝に歌仙に怒られるのだけれど、きっとこの状況を見たら歌仙もわかってくれるはずだ。
眠いけれど、寝るのが勿体なさすぎる。じっと端正な顔を見ながら、するりとその頬に触れた。きめ細かな肌はさすがというかなんというか。
空いた手の方で、炬燵の中にある彼の手を握った。すっかり暖かくなったことに安堵と嬉しさを感じながら、指を絡める。頬に触れていると、ふいに彼が身を捩った。咄嗟に触れてる方の手を離したが、起きたわけではないようだ。一気に爆走しだした心臓を落ちつけようと、どうにか息を吐き出す。

「はぁ……」

そうして、どれくらい見ていたのだろうか。ふと、大倶利伽羅の口元が気になった。大倶利伽羅は寝る時に口を開けていない。彼らしいといえば彼らしい。だが、個人的にその姿を見ている方としては生きているのか不安になるほど、動かない。ていうか、生きてる?平気?さっき体を捩ってから、彼は全く身じろぎしていない。大丈夫かな…。胸を掠めた不安と共に、口のあたりに手をかざす。わからん。口開いてないのだから当然か。いや、でも鼻息もしているのかわからない。そんな時に「あ」と気付いた。
彼の胸のあたりに耳を寄せる。とくりとくり。動いてるのが分かって、心底安堵した。最初からこうしていればよかったのだ。

「よかった………」

そのままとろとろと遂に眠気が溢れてくる。眠い。心底眠い。大倶利伽羅さんの顔もたくさん見れたし、このまま寝てしまおう。うん、それが良い。
ゆっくりと瞼を閉じる。……―――その時だった。

「満足か?」
「ぅえ?」

顔を上げる。そこには、先程まで寝ていた筈の大倶利伽羅さんが瞳を開いていた。

「え、待って、寝てたんじゃ」
「…アンタの前で寝た事ないだろう……」

うそ。じゃあずっと起きてたのだろうか。髪触ったことも、ほっぺた突いたことも、息してるのか不安になって、おかしな行動してたことも?
じわじわと恥ずかしさが体を侵食していく。顔が赤くなっている事なんて、鏡を見なくてもわかることだ。

「わ、私、向こうで寝ます…!!おやっ、おやすみなさい!」

慌てて炬燵を出ようとした私に、にゅっと腕が伸びてホールドして止めてくる。いくらこっちが暴れても、本気出した(出しているのかもわからないが)刀剣男士になぞ勝てるわけがない。後ろから腹周りをぎゅうと抱きしめられ、再び炬燵の中に逆戻りである。すん、と大倶利伽羅さんが自分のうなじを嗅いだ気がして、途端にこの場から逃げ出したくなった。

「ね、寝たふりなんて気付く訳ない」

せめてもの抵抗と声を上げるが、相手は鼻で笑うだけだ。

「気付かなかったそっちが悪い」
「うっ…なにも言えないのが悔しい……!!!」

もうどうにでもなれ、と息をついて諦める。そうだ、慣れればいいのだ。思えば何を恥ずかしがっていたんだか。
そうして肩の力を抜くと次に襲ってくるのは眠気である。三度目の正直。そろそろ本気で寝たい。この腕の中で眠ってもいいかぁ。電気ついたまんまだけどいいよね、明日の朝消そう。そうしよう。ていうかもう朝か?寝たい。
だが、この望みは次の瞬間に打ち砕かれる。なんでって?突然視界が暗転したからです。

「え?なに、うん?」

視界には私を押し倒す大倶利伽羅さん、その先に見える電気がちかちかしている。あ。彼の瞳がうっすらと細くなる。あ、これは。頭の中でさすがに寝ろと警鐘が鳴る。だがそれ以上に、するりと私の頬を撫でる彼の掌の熱さに閉口した。

「…確か、姫初め、というんだったなl」
「ど、どこでそんな情報を…!…ていうか、眠いんですけど」

一応言ってみるが、聞いてもらえるなんて思っていない。それを向こうもわかっているかのように、ふっと笑って顔を近づけた。触れるだけの、可愛いもの。

「どうせ今日は酒豪どもにアンタを取られるんだ」

さっきの会話を思い出す。…うん、きっと明日はげろっぱしているのでは。

「なら、今のうちに取っておいても問題ないだろう」

ゆっくりとこちらを見る視線に、とうとう私は白旗を上げた。それに満足したように、大倶利伽羅さんが笑うものだから、私は今日もまた眠れなくなる。



友達の誕生日に捧ぎました!!おたおめ!!
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -