馴れ合ってるけど付き合ってない | ナノ



「大倶利伽羅…あつい…」
「………、…」
「あついね〜…」
「…あぁ…………」
「うぅーん…あ、あづい゛……」
「あのさぁ」
す、と手を上げて声を発する許可を貰う。いや、本来ならそんなもの必要ないんだけど。なんとなくね。
二人の視線が、どうした?とこちらを向くものだから、やっぱり無意識なのかな、と思いつつ口を開く。

「二人とも、もう少し離れればいいんじゃないかな」
どうかな?と言えば、驚いた表情の二人と目が合う。本当に無意識か、と苦笑いが浮かんだ。

今の本丸の季節は夏。別に本来なら審神者の気分次第で変えれるらしいが、それをここの主は良しとしていない。
日本の四季は美しいんだ!と歌仙君と熱弁していたのを聞いたことがある。そういった雅を全て理解することはできないとは思うけれど、確かに僕がここに来た季節である秋の紅葉は美しいと感じたし、人の身で体験した初めての雪や冬の寒さには感動した。
まぁ、それはいいとして、とにかくそのおかげで、現世と同じく夏を迎えたこの本丸はひたすらに暑くて暑くて堪らない。何もしなくても汗が頬を滑り、陽のあたる所とそうでないところなど、雲泥の差があるように感じる。蝉は自身の存在を押し出すように鳴いているし、それを捕まえようと短刀達がはしゃぐ声が遠くから聞こえる。夏独特の蒸し暑さは、なんというか、感動を通りこして、驚きだ。

昨日はかき氷をみんなで食べ、その前はぷーると呼ばれるものを主が現世から呼び出して、皆で水浴びをした。水風呂も作ったり、なるべく日陰で過ごそうとしているものも多い。
そうして思い思いの方法で夏を楽しみながら、涼を求めているのだけれど。
この二人は、いささか。

「さすがに、暑くないかな。そこまでくっついているのは」
大倶利伽羅が壁に背をもたれかけ、膝を立てている。その足の間に主が体ごと挟まり、その腹には大倶利伽羅の腕が回り、二人の体の間には隙間など存在しないように見える。たまに倶利伽羅が頭を主の首筋に埋めて、うりうりするものだからより一層暑く見える。
それだけ近ければそれは暑いだろうね、と思いつつ今まで何も言わなかったのは、普段から二人の距離はこれが普通だからだ。だというのに、二人とも口を開けば「暑い」ばかり。そりゃそうだろうね!
ようやっと、その思いを口にしたものの、未だに二人は首を傾げている。

「だって2人とも、すごく近いよ」
それじゃあ暑いと思うんだ。何回目かになる言葉を出せば、主の方がしばらく考えてから「そうかもしれない」と呟いた。

「今の今までこの距離感が当たり前過ぎてなんとも思ってなかったけど、確かにこれは暑いよ。だって私体温高めだもん。ごめん大倶利伽羅、暑かったね」
「これだけ暑ければお前の体温くらいで特にどうということもない。今更だ」
あ、本当?よかったー!と笑いあう二人は結局全く離れる気配がない。

「ていうか、光忠はどうしたの?何か用事でしょ」
問いかけられて、あぁ、と頷く。僕としたことが執務室に来た理由を忘れるなんて、格好悪いね。

「皆がね、今日のお夕飯はそうめんがいいと言うんだ。だから、麺を買いに行こうと思う。外に行ってもいいかな」
未の時刻を過ぎた頃、太刀組が遠征から帰ってきて、早々に湯浴みを済ましてしまった。夏の水風呂は気持ちがいい、というのも人の身になって初めて知ったことだ。
そんな彼らが、広間でお茶をしていた僕らを見つけて、素麺を食べたいと言い出した。それ自体は全くいいし、今日のお夕飯どうしようかと思っていたからちょうど良かった。ただ、麺がない。こればかりは買いに行かねばならない。というわけで執務室にいるであろう主を探しに来たら、暑い暑い言いながら引っ付いている二人を見かけたのだ。

「あぁー!素麺いいねぇ。買い出しなら私も一緒に行くよ」
そう言って立ち上がる主と、それに従って立ち上がる大倶利伽羅。腕はまだ主の腹に回ったままだ。背中を大倶利伽羅に預けながら、主は、じゃあ行くか!と行きこんでいる。
別にわざわざ暑い中、買い物に付き合ってもらうのは悪いのだけれど、なんでもちょうど買いたい物があるらしい。ならいいかな。と承諾したのはいいのだけれど。

「ほら、大倶利伽羅。行くよ」
「…暑い………」
主が無理矢理大倶利伽羅を引っ張りながら執務室を後にする。
それをゆっくりと追いかけながら、顎に手を当てる。僕の記憶が正しければ、二人は恋仲ではなかったと思うんだけど、あの距離感はどうなのかな?というか、当たり前のように大倶利伽羅は行くんだね。

まぁ、主とくりちゃんが笑っているから、僕はいいんだけど。

何やかんやで、僕はあの二人を見ているのが好きなんだ。小さく微笑む頬を抑えずに、僕は二人を追いかけた。


 
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