秋 | ナノ






秋とは、気付くといなくなっている物だと思う。夏の間は冬を恋しく思うし、冬の間は夏を恋しく思う。だけども、春の間に秋を恋しくなったりしない。秋もまた然り。
その為かわからないけれど、秋は四季の中でも存在感が薄い。気がする。いや、本当に私の主観なのだけれど。

「…いや、それは無いだろう」
「やっぱ無いよねぇ」

学校の放課後。いつも通り図書室で勉強した後の帰り道。二人揃って自転車を押しながら帰る。別に自転車に乗ったっていい筈なのに、なぜかお互いに乗りうとは言い出さなかった。早くもなく遅くもない速さで、暗くなった道を歩いていく。

「でももう少し秋は『いますよ!』っていうのをアピールしてもいいと思う。毎年すぐにいなくなっちゃうんだもの」
「そういうものだろう」
「わかってるんだけどさ」

ひゅう、と冷たい風が体を吹き抜ける。まだマフラーもタイツもしていないけれど、女子高生の生足には厳しい季節がすぐそこまで来ているのがわかった。
自転車を押す指先は、まだ手袋をしていないため冷えきっている。これからもっと寒くなるなんて、正直考えたくない。

「大倶利伽羅君、冬はどう?好き?」
「…どうでもいいな」
「そっかぁ。寒いしね」

私はといえば、普通に冬は好きだ。冬は、というと語弊がある。冬も夏も、秋も春も。つまるところ、全て好き。どんな季節だって、その季節独特の素晴らしさがある。冬にコタツで食べるアイスは至高だし、夏の花火は本当に綺麗だ。

「秋も春も好きなんだけど、何よりも短いよね…」
「…アンタの感覚はわからないな」
「まじでか」

呆れた視線をこちらに向ける大倶利伽羅君は、本当によくわからないという顔をしている。ううん、まじでか。

「まぁ、わからない感覚なんていっぱいあるよね。それを少しずつ知れれば良いんだけど」
「その必要は無い」

きっぱりと断言した大倶利伽羅君に、思わず目を見開く。そういう彼の横顔は、相変わらず綺麗で少しぷつりと刺さったような痛みなど、すぐにどこかへ飛んで行った。

「…俺の感覚は、アンタならわかる」
「…な、なるほど……?え、いや、ごめん、既によくわからない」

わかろうとしたが、分からなかった。だけども大倶利伽羅君はこちらにチラリと視線を向けただけでそれ以上何かを言うことは無かった。
だけども、きっと大倶利伽羅君が分かると言うならわかるのだろう。何となくだけれど、確信があった。

「アンタと俺の感覚は似ている」
「…分からないって言ってたのに?」
「その内慣れるだろう」
「それもそうだ」

曲がり角で大倶利伽羅君と分かれて、自転車に乗る。頬をなでる風が、やはり冷たくなってきていた。それでも、じわじわと上がる口角を隠せない。
その内慣れる、そう大倶利伽羅君は言ってくれた。私が彼の感覚に慣れるまで一緒に居てくれるのだろうか。たわいもない話をしてくれるのだろうか。ついそうやって、都合よく解釈してしまう。もしそうでなくとも、私の心に彼の言葉は染み込んでいく。こうしてただ話しただけなのに、それがとても特別な様に思える。不思議だなぁ。きっと私はこの会話を忘れない。彼と話した数多くの言葉の中でも、きっと忘れない。

「勉強頑張ろう」

呟いた声は、夜の空に吸い込まれていった。


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