4 | ナノ
ぎしりとスプリングが鳴る。
2人がけのソファは、そんなに大きくないから、私は足をほっぽりだした状態で先輩を見上げていた。電気の消えた部屋の中でも、多い被さる様に両手を私の顔の横に置く先輩の瞳は、ふやけてどこか潤んでいるように感じた。
先輩の大きくて、でも粗忽じゃない綺麗な手が私の頬をするりと撫でる。なんとなく先輩の瞳を見ているのが恥ずかしくて、目を閉じてその優しい手つきにすり寄せていれば、さわりとお腹が触られる感覚がした。
「…っ、ん…」
今日の服装は、下はスカート上はTシャツというなんともまぁ捲りやすい格好のため、するすると先輩の手は私の上半身を擽っていく。
まるで自分ではないような声が部屋の中に響くのが嫌で、手の甲で口を抑えれば、頬を抑えていた手がそれをやんわりと制した。
「…抑えるな」
「っ、んぅ、でもっ…!」
服の中を詰っていた手が、私のささやかな山に触れた。当然下着は付けているので、先輩は片手で後ろのホックを外すと、直接揉み下してくる。最初は優しく。時に酷く激しく、片方だけひたすら触れる。しかも、山の頂きの周りを丁寧に擦るようにもしてくるから、私はびくびくと震えるだけだ。先輩のもう片方の手は、私の手と縫い止められていて、私の空いた手は行き場をなくして頭の上にあるだけだった。
「っ、せ、ぱい…」
片方だけ触り続ける最中、先輩はひたすらに私の中の口腔を詰った。つい引っ込めてしまう私の舌を捕まえるように、ぬるりと侵入してきたそれは私の酸素も同時に奪っていく。この心臓の高鳴りは、緊張か、それとも苦しみか。どちらも先輩から与えられるなら、どちらでもいいかと思った。
ぬちょり、と卑猥な音が部屋に響く中で、私の呻く声がやたらと大きく聞こえる。
ぷつりと垂れる銀糸を、まるで犬のように息切れをしながら見ていると、先輩の顔が再び近づく。口に来るかと思ったのに、先輩の顔は私の首筋へと近づいていき、なんだと思う前に、がり、と悲痛な音がした。
「いっ!!ちょ、せんぱっ…!ひぁ!」
首筋を噛まれた。痛みから半分涙目になってそれを理解した瞬間に、今度はかり、と私の山の頂きが引っかかれる感覚が走った。途端、体の芯が熱くなった感じがして、目を見張る。痛かったのに、もうそれがどこかに行くだなんて。
驚愕と羞恥で愕然としてる間に、するりと簡単にTシャツとブラジャーを脱がされる。今まで私の首筋にあった舌を、今引っ掻いたばかりのそこに持っていけば、テロテロと舐めるように、たまに吸い付くように、更には甘く噛むようにされる。片方を舐めながら、もう片方も揉まれだした。相当恥ずかしいそれは、自然と私の膝を擦らせた。じんわりと熱を帯びてくる芯と共に、体中が汗ばんでくる。
そうして、そちらにばかり意識が行っていたからか、縫い止められていた手が離れ、今度はスカートの中に、入っていくのにすぐに気付かなかった。
「せんぱい…!まっ、」
するりと入ってくる手を止めようと足を閉じるが、先輩はがっしりと太腿を掴み私の足を開かせていた為、逆に先輩の体を挟むようになってしまった。先輩の唾液で光るようになってしまった突起を舐めながら、先輩が笑った雰囲気がして、顔に熱が集まった。
「積極的、だな」
「ちが、んぅ…!」
言葉を発しようと開かれた口は、すぐに先輩の舌で塞がれた。胸を揉んでいた手を頭の後ろに置いて、顔を背けられなくされればもう為す術はない。そんなことをしなくても、逃げないのだけれど。
その間にもどんどん先輩の指は、私の芯まで迫ってきていてそちらに意識が行きがちなのに、それを許さないとばかりに舌が迫ってくる。
おかげでどちらに集中したらいいのかわからず、私は必死に酸素を求めるだけとなった。
途端、先輩の指が私の芽に触れた。
「っ、んん」
「濡れてるな…」
「言わないで…くださいよ…!」
わざわざキスを止めてまでそんなこと。
かぁ、と顔に熱が集まるのを感じながら、せめてもの抵抗とばかりに、その端正な顔を睨む。だけど、見上げたその顔があんまりにも潤けてて、熱の入ったものだったから思わず何も言えず見入ってしまった。
「ん、ぁ」
その隙を狙ってました、と言わんばかりにショーツを脱がされた。そのまま私の芽に触れ、びくりと体が反応する。ゆっくりとそこに触られて、またも体が熱を感じてくる。
一糸纏わぬ姿となってしまった事に対する恥ずかしさと、逆に先輩は未だにどこも乱れていないのが、なんとなく寂しく感じて、未だに私の陰核を撫で続けている先輩の胸板にそっと触れた。
「…どうした、痛いか」
それにふるふると首を振る。先輩の手は止まり、ゆっくりと労る様に私の頬に触れる。
「…その、脱いで、くれませんか…?」
ぱちくりと先輩の瞳が驚いたように開かれる。それを見て、私はなんて事を言ったんだと体全体が熱くなるのを感じて、慌てて口を開いた。
「ちがっ、えぇと、私一人裸じゃないですか、だから恥ずかしくて、なんか寂しくなっちゃって、あの、決してやましい意味じゃ…!!」
ないんです。そう言いたかったのに、先輩が上着を脱いだ途端に言葉は空気の中に消えた。
鍛えられた体、褐色の肌と刺青のような痣の様な、腕に入った龍。先輩を構成する全てがなんだか特別に見えて、本日何度目かの惚けた息が漏れた。
「そんなに珍しいか」
「いえ、ただ先輩がかっこいいなぁって」
たまにこちらでお風呂入ったりもするから、上半身自体は見慣れたものでもある。ただ、こうして改めて見るとやはりかっこいいと思う。どうしてこんなかっこいい人が、私と付き合ってくれているのだろう。今世紀最大の謎である。
なんてこと考えてたからだろうか。「煽るな」と、嫌に低い声で囁きながら、先輩がぐいっと上半身を近づけて舌を絡ませて、私のナカに指を入れるのが分かった。
「ひ、んん…!」
「おい、力抜け」
体の中に異物が入ってきている感覚が抜けず、ぎゅっと目を閉じる。だけれど、そうすると逆に感覚がよくわかってしまって、すぐに開いた。視界いっぱいに広がる先輩に、なんとなく安心してゆるゆると首に腕を回した。
ぬちょり、くちゅり、と広がる音が上からなのか下からなのかそれすらわからず、ひたすらに異物の感覚に慣れる。
「っひ、あぁ!!」
穴の中の何かに触れた瞬間、何かが体中に走り、電撃が頭に落ちた。それが何かわからず、生理的に涙を溢れさせた。
「…ここだな」
「っ、ひ、や…そこ、やだ…!」
訳もわからず首を振りながら、首に回した腕を強くする。中に入ったものが、かり、と私の中のどこかを掠める度に頭の中がかっと熱くなる。
そして、徐々に、本当にゆっくりと、体の奥が何かを求める様に疼いてくるのに気付いた。だがそれが何かわからず、私はひたすらにこの与えられる痛みのような快楽を甘受するしかない。
「せ…ぱ……なに、これ………っ!」
「いい、一度イっておけ」
中を掻き回すように、指が増えていきバチバチと頭の中に火花を飛ばす。その度、私の体はびく!と跳ねさせるようにしてしまうのだけれど、そんなの気にできるほど余裕はなかった。
「んあぁ!あっ!やっ、な、あぁ!!」
白い光が瞼の裏に走り、何かが溢れる感覚がした。それが収まる頃には、私はもう何キロも走ったかのように息を切らして、くてりとソファーに雪崩込んでいた。
「…大丈夫か」
「…へいき…です」
指がぬるりと抜けて、改めてあれが入ってたのか、と理解させられる。
ふるりと体を震わせながら、次に来るであろう快楽に、小さく瞳を閉じた。
:::
「っ、んん…ふぁ…」
ぬちょり。卑猥な音が部屋に響く。
海から帰った部屋の中、潮の香りは既にどこかへ消えている。
自身の熱を帯びた下半身を意識しながら、さらに指を増やしたアナの中で、あえてこいつが跳ねる場所を当てる。こういった行為に慣れてないコイツのため、と言えば聞こえはいいが、実際はほとんど俺の為だ。普段からほけらとして何処を向いているのかよくわからないコイツが、今は一心不乱にコチラを見ながら快楽に耐えている。それだけでもう、クるものがある。
きっと、本人は今何本の指がここに入っているのかすらもうわかっていないだろう。中途半端な快楽を延々と続けられ、頭はショート寸前といったところだ。
「せん、ぱ……そこばっか、や…っ」
与えられすぎた快楽は、時に毒となる。ひたすらに愛撫され続け、触れた体はもう熱があると思うほどに熱かった。涙に濡れた瞳を見ながら、舌を絡める。声を聞いていたかったが、最早中毒のようにヒマがあれば口を重ねる。
「…もう、いいか…」
指を抜き、両手でかちゃりとベルトを外す。ひゅ、と目の前のコイツが息を呑んだのがわかって、笑気を漏らした。
「怖いか」
じっとコチラを見つめる瞳は相変わらず濡れている。怖いと言われても、もう止まる気はないのだが。それをわかっていて聞く俺も、大概性格が悪い。
「…怖い、ですけど、せんぱいがいますから、怖くない、です」
「……そう、か」
今日は随分と煽ってくる。トロンとした瞳で上目遣いでそれを言われては、もう手加減が出来る気がしない。ゴムをつけてから熱を持った己を相手の穴に当てる。
「…挿れるぞ」
ずず、と相手を傷つけぬようゆっくりと、ゆっくりと入れる。こいつの溢れさせた先走りで、充分に濡れたそこはゆっくりと己を受け入れていく。
「っーーーいっ…!!」
「っ、力、抜け、怖くないから…大丈夫だ」
なるべく解したつもりではいたが、まだ痛かったようだ。ゆらりと、縋るように伸ばされた腕を掴む。そのまま首に回させて体を密着すれば、きゅ、と腕に力を入るのがわかった。
それだけで、己がまた熱量を持ったのがわかり、ナカがぎちっと狭くなったのを感じた。
「っ、せん、ぱ……!!」
「は…あ…、入った、ぞ……」
ナカがやたらと熱く感じる。奥まで入ったその喜びと快感に、小さく息をつく。
「キツい、な…」
入れる時よりも倍以上の時間を掛けて、更にゆっくりと動く。ぐちゅ、と音を立てて動けば、腕の中のコイツがびくりと跳ねたのがわかった。
「痛いか」
「ん………せ、ぱ………わか、ない…おくが……あつい……っ」
「っ…それ、は、痛くはない、か」
「んぅ…たぶん………?」
とろんと焦点の定まらない瞳の奥で、性格の悪い自分が顔を出したのがわかる。一気に集まり出した下半身の熱を、理性と共に吐き出す。もう、大倶利伽羅の中に理性や我慢はほぼ、無くなっていた。
「動くぞ。痛かったら、言え」
止められるかは、わからないが。
その一言を抑え、ずぷりと腰を動き出す。それに合わせて甘い嬌声が上がるのに、たまらない気持ちを覚えた。
「あ、せんぱ、まっ、」
「っ、ふ、イク、か?」
尋ねると、いやいやと首を振るのがわかる。どうしたのかと思っていれば、常よりも高い声が上がる。
「いっしょ、いっしょが、いい………!」
「っ…………!!!」
ぴきりと音を立てて、ギリギリ踏みとどまっていた何かが崩れ落ちた。
今まで手加減していた動きを一気に激しくする。
「っあ!せんぱっ、んん!まっ、やぁあ!イッ、あ…!イクッ…!」
「あぁっ…!イッていい、ぞ…!は…、俺も、もう…!!」
肉の打ち合う音がどんどん激しくなっていくうちに、頭の裏にばちばちと火花が散り出す。それをそのまま弾き出せば、体の中から色々なものが溢れ出た感覚がした。
「っんあ、あぁ!やあぁ、あっ!」
「ふっ、く…!!」
ばちばちと脳裏でイッた感覚を感じながら、ずるりと己を抜く。
「っはぁー…はっ…」
「ふっ…は…」
部屋の中にはお互いの荒々しい息の音しかせず、どこか言い表しきれない雰囲気を出していた。相手を見れば、熱のおびた瞳をこちらに向けながら、どこか呆けた顔をしている。
その頬をするりと手で撫でれば、ふにゃりと笑った。
「眠いか?」
「…少しだけ」
だが、ここで眠らせる訳にはいかない。ここに来てようやく、ベッドでヤれば良かったと一瞬の後悔が受かぶ。横抱きにして、すぐそこのベッドに運び、ゆっくりと横たわらせる。一糸纏わぬ姿で横抱きにするのは、とんでもない感覚がしたが、疲れきったこの顔を見ては何かできる訳が無い。
ベッドの横に座り、再び頬を撫でればとろりと眠そうに瞼が落ちてくる。
「片付けはしておく…寝ていい」
「せんぱい」
頬を撫でていたのを頭に変えれば、疲れからか舌っ足らずな言葉でこちらが呼ばれる。
どうしたのかと思っていれば、ベッドの奥の方に詰めて、一人分のスペースを開ける。その空いたところをぽんぽんと叩きながら、再びへにゃ、と笑った。
「一緒に、寝ましょう」
ね?と笑うコイツはどこまでも悪意のない本当に寝たいと言っているのだろう。ガリガリと頭をかいて、諦めの息をつく。
ベッドに乗り上げれば、重みを増してぎしりと音を立てる。それだけで、官能的な雰囲気が再び溢れそうになるのに、隣のコイツは「ふふふ」と笑うだけだ。
「片付けは私も明日一緒にやります」
「………わかった」
とうとう瞼を開けてるのもキツいのか、俺が入ってきたのを見てすぐに閉じてしまった。いくら電気を消しているとはいえ、白い肌は逆に眩しく見える。その白い首筋に己が付けた噛み跡が1つあるのを見て、先程の情事を思い出す。痛いことをさせた。だがそれ以上に自身の中が満たされているのがわかる。噛み跡を見て、酷い独占欲にまみれた。
はらりとコイツの顔にかかった髪をよけながら、半分開かれた唇にキスをした。寝ている相手を起こさぬ様、静かに、それでもしっかりと。
[newpage]
じゅう、と何かが焼けるような焦げるような音がしてぼんやりと目を覚ました。それからすぐに見えたのは先輩の後ろ姿。それもエプロン付き。
あれ、もう夜?
先輩がご飯を作ってくれる時は大抵私の方が会議で遅れたりする時だ。まぁ、会議に引っ張られるのは大概先輩なので、そんなことはほとんど無いのだけれど。それでも私は仕事をした記憶がない。頭に疑問符を浮かべながら、上半身を起こした。
「っ、いっ…!」
びきりと腰に引き攣るような痛みが起きる。なんじゃこりゃあ、ぎっくり腰か!?と思うよりも早く、ぎょっと目を開く。なぜかって、私が全裸だったからである。それから思い出される昨日の情事。
「起きたか」
「…オハヨウゴザイマス……」
ぽしゅう、と頭から湯気が出そうなほど恥ずかしさが込み上げてきて、思わず顔を両手で覆った。ついでに起きたと思って来てくれた先輩にカタコトで返した。変な人である。
「どこか痛くないか」
「…すいません、腰が…」
こうなって初めてわかったけれど、腰が痛いって言うの、めちゃくちゃ恥ずかしい。いかにもって感じでめちゃくちゃ恥ずかしい。やだ。
「昨日は無理させて悪かった…ひとまず、着替えるか」
「え、いや、謝らないでください。私も、その、えぇと…合意の上?でしたし、何より嬉しかったです、し………」
わたしもうしにたい。
もうちょっと気の利いた発言できないのかと本気で思った。しょぼしょぼとなっていく言葉とは裏腹に、赤くなっていく顔がありありとわかって、もう、本気で死にたい。
だけれど先輩はいつもの無表情で、私の頭を撫でて、私の上半身に毛布を掛けてくれた。
「今日は1日寝ておけ。部屋は片しておく」
「いや、そんなこと、私も手伝います」
びきりと痛む腰を抑えて、無理矢理立ち上がろうとすれば優しく肩を押されて、驚くほど滑らかにベッドに倒れ込んだ。
ん?と思うよりも早く、先輩の顔が近づいてくる。
「っ、ふぁっ……ぁ…」
「…キス、好きなんだな」
れろ、と絡んだ舌を離して、先輩が微笑む。なんだ今の、めちゃくちゃエロいぞ…!?赤くなるのを隠せずに、先輩から顔を背ける。ぎしりとベッドが鳴ったことで、私はようやく今の状況を理解した。
「え、せんぱい…?」
先輩が、私に覆い被さっているのだ。つまり、私の上にいる。これは、まさか。私を見下げる先輩を、ちらりと見れば何ともふやけそうな瞳がこちらを向いていた。
「片付けが終わるまで、待っていろ。昨日は、ソファーだったからな」
すぐ終わる。そう告げて、先輩は台所の方へ歩いていった。きっと、昨日の夕飯の片付けとかをしてくれているのだろう。当然、私は戦慄した。昨日はソファーだったからってなんだ…?さすがにベッドの方がいいなって事か…!?
明日は仕事なんだけどな。それは先輩も同じなんだけどな。
なんとなく、明日は起きれる自信がない。体力の限界的な意味で。明日の自分、大丈夫かな。
でも、そんな不安もくるりと先輩がこちらを向いた瞬間に霧散する。私が大人しく寝てるのがわかると、またすぐに片付けに戻るのだ。その行動だけで、もう、耐えられない位にきゅうってなる感じがした。
…………まぁ、いっか。
昨日、悪くなかった、し。気持ちよかった、と思う…たぶん。今日は、先輩を、そうしたいとも思う、わけだし。
我ながらなかなかアカン考えをしてると思ったけれど、正直私も先輩に迫られて嬉しくないわけが無い。そもそも、先輩の事が大好き、なわけなのだから、嫌がるわけが無い。
じゃあ、いいか。なんて。
今は背中しか見えない、その想い人に向かって、小さく笑った。
決局翌日の仕事にはしっかり行きました。寝坊寸前でした。