大倶利伽羅と喧嘩する | ナノ



「だから、それが嫌なんだってば!!このわからずや!大ッ嫌い!!」
「……、…勝手にしろ」

咄嗟に言ったその言葉。一瞬だけ傷ついた瞳を見せてから、大倶利伽羅は背中を見せてどこかへ行ってしまった。
私はといえば、その背に何を言うでもなく涙が溢れるそうになるのを必死に我慢するしかなかった。



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「だからぁ、謝ってくればいいじゃん」
「それが出来たら苦労しない………………」

はぁ、と軽いため息が私の頭にかかる。私は現在、愛する初期刀加州清光の腰に抱きつきながら、頭を撫でてもらってる最中である。ちなみに加州は部屋でネイル塗ってた。邪魔しただけである。最低か。

「そもそも今回の喧嘩の原因は何?またどっちかがどっちかのおやつ食べたとか、そんなの?」
「……違うもん」

ぐりぐりと腰周りに抱きつきながら、つい1時間前の大倶利伽羅との会話を思い出す。正直、何故あそこまで喧嘩がヒートアップしたのかがわからない。唯一思い出せることと言ったら。

「…万屋に行った時に、大倶利伽羅が相手と揉めたの」
「へぇ珍しい。なんで?」
「知らない。私が話してた人にいきなり掴みかかったの」
「まじ?」

加州が目に手のひらを当てて「あちゃー」と空を見た。その理由がわからず、私はもんもんとした気持ちを抱える。
最近、書類と新しい歴史への出陣、その報告書などが忙しくて全く大倶利伽羅と共にいる事ができなかった。だから、ようやく久しぶりに出来た2人っきりの時間を私は心底楽しみにしていたし、最早その為に頑張って仕事を終わらしたといってもいいくらいだ。だというのに、万屋に行くや否や揉め事を起こすものだから、逃げるように本丸に戻ってきた。そして、その後喧嘩をして今に至る。
本当に、本当に楽しみにしていた。でも、やっぱり彼はそうじゃなかったのかな、なんて。つまらなくてイライラしちゃってたのかな、なんて。
どんどんマイナスな方向に進むのがわかって自分が嫌になってくる。頭を撫でていた加州が、優しく私に声をかけた。

「主は大倶利伽羅とお出掛けが楽しみだったんだね」
「うん…」
「でも、それは大倶利伽羅も同じだったと思うよ」
「そうかなぁ…」
「うん。だから早く仲直りして、もう一度行ってきな。大丈夫、仲直りできるよ」

その自信はどこから。じとりとねめつけるように見れば、ふはっと噴き出した。

「ちゃんと話をして、どうして大倶利伽羅が怒ったのかも聞いてみな。アイツならちゃんと教えてくれるよ」

それで、お夕飯でも食べておいで。
加州はそう言って私の背を押して、部屋を出した。ネイルの邪魔しちゃってごめんよ。今度新しい色買ってくるからね。

重い気持ちを抱えて、私は1人、廊下を歩く。頭を抱えて向かう先は、大倶利伽羅の自室だ。幾ら加州に励まされたとはいえ、仲直りできる自信が全くない。だって、あの怖い顔!

「なぁにが大丈夫、だよ。怖いよぉ、絶対怒ってるよぉ、殴られるよぉ」
「誰が」
「誰って大倶利伽羅、が」

ぴたりと足を止めて、ゆっくりと顔を上げる。体中から血の気が引くとはこの事か。きっと私は今頃、酷い顔をしているに違いない。目の前には、明らかに怒ってます、といった表情の大倶利伽羅がいた。

「……」
「……」

そろりと視線を横に外した瞬間、がしっと口をつかまれて無理矢理視線を合わせられる。金の瞳が、嫌に細められてるように見えた。

「…不細工、だな」
「あん!?」

私はこの瞬間に喧嘩した事など一瞬で忘れ彼に別の意味でメンチを切った。なんだとこの野郎。悪かったな。でもこの不細工な顔がお前の彼女じゃばーーか!と、無理矢理凄んだ所で、大倶利伽羅がどこか気まずげに呟く。

「………さっき男と、何を話していた」
「へ?」

男、と問われてすぐに思い浮かばない。加州の事か?わかっていない私の為に大倶利伽羅が更に言葉を紡ぐ。

「万屋で、会った男だ」
「…あぁ!!」

万屋で髪飾りを探していたら、話しかけてきた男性の事かと納得した。何を話していたかと言われて、更にもう一つ大事なことを思い出した。

「あのねあのね、これを見て欲しいんですよ。あ、座ろっか」

すぐそこの縁側をぽんぽんと叩いて、大倶利伽羅を座らせる。その隣に座ってから、自分の懐を漁る。確かここら辺にしまっていたはずだ。暫らくすると指先に目当てのものが指にあたった。

「じゃじゃーーーん!これです!あげる!」

大倶利伽羅の手のひらに、買ったばかりのものを載せる。万屋で一目惚れして買ったもの。我ながら、いいセンスだと思う。

「…ミサンガ、か?」
「そう。なんとお揃いです!私の色の方はすぐに決まったんだけどね、大倶利伽羅何色がいいかわからなくて、そしたらその男の人が相談に乗ってくれたの」

悩みに悩んだ結果、大倶利伽羅の瞳の色の金にした。戦の邪魔になると思うから、別に付けなくても構わない。ただ、棚にでもしまっていてくれればいい。恋人とお揃いのものを持つ。少しだけ、憧れがあったのだ。
それを告げると、大倶利伽羅が深い深いため息をついた。

「え、なんでため息?結構いい話しなかった?」
「……………悪かった」
「うぇ?」

突然、ぎゅ、と優しく抱きしめられる。途端にばくばくと心臓が馬鹿みたいに鳴り出すけど、ゆるりと腕を背に回す。誰か見てるかもなぁ、なんて思ったけど、今日は皆休みでどっかしらに遊びに行ってるんだったと思い出した。

「…お前と出掛けるのを、台無しにした」

そ、そういえば喧嘩してたんだった。私の能天気さと馬鹿さ加減を垣間見て、自分が嫌になってくる。

「んーん、私こそごめんね。ちゃんと説明すればよかった」
「…………もう、男と話すな」
「そ、れは……」

無理だろう。そもそも他の刀剣男士いるし。と思ったけれど、どうにも私は大倶利伽羅に甘いようで。なるべく頑張ってみようと思ってしまった。

「でも、他の刀剣男士とは話すよ?人間とは気を付けるからさ」
「…あぁ、それでいい」

大倶利伽羅の肩のこわばりが抜けた気がした。頭を撫でられて、なんとなく嬉しさと気恥ずかしさでむずむずとしてくる。

「ね、大倶利伽羅。今からもっかいお出かけしよ!」
「今からか?」
「うん!お夕飯食べに行こうよ」

立ち上がって、ほら、と手を差しだせばゆっくりとそれに繋ぎ返してくれる。それが嬉しくて、私はもう一度その手を強く握り返した。



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