ほら、大好き | ナノ



朝起きて、巫女装束へと着替えてから廊下へと出る。キラキラと太陽が輝く廊下に反射して眩しすぎて、思わず目を細めた。
ペタペタと裸足で進めば、向かいから1振りの刀が歩いてくるのが見える。酷く眠そうだ。もしかしたら昨日もまた遅くまで本を読んでいたのかもしれない。
早足で相手に近づいて、ゅばっと両手を広げなから廊下に立ち塞がる。相手の視線が、こちらを向いた。

「大倶利伽羅、おはよう!お疲れなら私をぎゅってしてもいいよ!」
「………」

くぁ、とあくびをしながら相手は私の横を通り過ぎる。返事も無く。言葉もなく。
私はぷるぷると震えながら、すぐに振り返った。

「シカトしないでよぉ!それ何気に1番堪えるんだって!せめて何か言って!」
腰にへばりついた所で、ようやく大倶利伽羅の足が止まり呆れた様なため息が私の頭にかかった。恐ろしい程に長い長いため息。どうにも最近大倶利伽羅のため息が多い気がする。私のせいか。申し訳ない。

「…朝からうるさいだろう」
「うん。それもそうだね気をつけるよ。おはよう!」
「…あぁ」

腰から離れろというオーラが伝わってくるが、生憎だが離れたくない。だって朝から大倶利伽羅に会えるのってなかなか無いことなのだ。なんてったって大倶利伽羅は朝に弱いから。だから今日は特別だ。きっと良いことが起きる。いや、もうこれが良い事なのかもしれない。だって私の気持ちはもう爆発しそうなほど高まっているから。そう考えると嬉しくて嬉しくて、腰にへばりつく力を強くしてしまう。

「…おい」
「もーちょっと!あと5分だけ!」
「長い」
「確かに朝の5分って短いよね。一瞬で終わっちゃうもん」

腰にぐりぐりと頭を押し付ける。私の身長は小さいから、大倶利伽羅の腰のちょい上くらいまでしか届かない。180cmは欲しかったなぁ、なんて叶わぬ願いを思っていれば、既に本日3回目になる大倶利伽羅のため息が漏れた。

「おい、腕上げろ」
「? ほい」

両腕をぱっと垂直に上げる。大倶利伽羅が振り返ってこちらを見て、唐突に腰から抱いて持ち上げた。しかもそのまま腹の部分を大倶利伽羅の肩に乗せられて、足が大倶利伽羅の顔面を蹴る。この状態、何て言うか私知ってる。俵担ぎってやつだ!

「おっ、大倶利伽羅、危ない!危ないよ!」
「アンタが暴れなければ問題ない」
「いやあるよね!?いきなりどうしたのさ!」
「ぎゅって言っただろう」

つい数分前の会話、というより出会い頭の言葉を思い出す。うん、確かに言った。ぎゅってしていいよって。でも、これはちょっと、いや明らかに私の思うぎゅっとは違う。だってぎゅってされてるの私の腹回りだもん。決してこんな、こんなハグを望んでいたわけではない…!!

「大倶利伽羅のこういう所も好きだけどさぁ、ダメだって。これ違うって。だってこれ完全に荷物運びじゃん。違うよ」
「荷物ならこんな運び方しない」
「もっと大事にするってか!殴るぞ!」

ゆっさゆっさと大倶利伽羅が1歩進む度に振動が体に伝わる。いや、なんだか段々快適になってきた気がする…。ヘリに乗る感じ。乗ったことないけど。

「大倶利伽羅さん、大倶利伽羅さんや。これ何処に向ってるんだね?」
「厨」
「厨……?!」
「厨」
「や、やだぁ!!降ろせ馬鹿!厨の奴らに見つかってみ!?殺されるよ!今晩の刺身に出ちゃう!」
「今夜は刺身か」
「違うと思うけどさ…!!」
「主」

はっ、と体が強ばるのがわかる。生憎と私の体は進行方向とは反対を向いている為、どれほど首を回しても声の主の顔を見ることはない。それでもわかる。相手がどれほど怒り、悲しみ、呆れているか…!!

「ま、待って歌仙。違う、これは違うんです」
「へぇ?朝から雅じゃない声を出して、はしたない姿で僕の前にあらわれて。何が違うと言うんだい?」
「いやこの格好は大倶利伽羅が、」

ストン、と唐突にとても丁寧に優しく降ろされる。それについ「ありがとう」と言ったのが悪かった。大倶利伽羅は満足そうに頷いた次の瞬間、歌仙を横切り奥の厨へと入っていった。そこに来てようやく私は、あの刀に裏切られたと知ったのだ。

「アイツ私を売ったな…!?」
「主」
「ひゃい!」

怒ってます、と全面に出してくる歌仙の表情、嫌いじゃないぜ。なーんて言える状況じゃない。だらだらと垂れる汗を拭うこともなく、じりりと足を一歩下げる。一気に視線がキツクなると同時に、殺気とも呼べる何かが大きくなる。向こうは本気だ。ならば、こちらも本気を出すしかあるまい。相手をまっすぐに見据えて、腹に力を込め、そして庭の方を勢いよく指さした。

「あ!あそこでたぬが裸で踊ってる!」
「なんだって?」

今だ!
歌仙に背を向けて一気に走り出す。ごめん同田貫、庭に居たのはたぬきじゃない。昨日私が置いたたぬきの置物だよ。しかも青い方。青くて四次元ポケットを持っている方。欲しくて知り合いから貰ってきたんだごめん。お陰で歌仙が手入れしている綺麗な庭に青いたぬきが居るっていうシュールな光景になっちゃったんだごめん。

「でも私どらえもん置いた事後悔してないからぁ!!」

ずだだだと廊下を駆けながら走り抜ける。後ろから追ってくる歌仙の殺気。朝餉前に一体私は何をしているのか。それでも私は必死に逃げる。捕まったら最後、殺られる。逃げた私が悪いのだがそう易々と怒られる気もない。朝餉まで、この鬼ごっこを楽しみたい。正直、楽しむ余裕なんて無いけれど。
私の足音のせいで、部屋から皆が顔を覗かせる。全員におはよう!と返しながら、足を止めることはない。頑張れと応援してくれる子達ならいい。だけどたまに、本当にたまに足を出したり引っ掛けたりしてくる奴らがいるから油断ならない。この世は地獄です…!アッごめん江雪さん怒んないで。

「主!止まれ!」
「嫌に決まってるじゃん!歌仙のバカぁ!」

こうして始まる、私の本丸。今日も賑やかだ。

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