君と飴玉7 | ナノ



本日の予定を食べる前に先に簡単に説明し、いただきますをして始まる朝餉。
初めて食べた卵焼きとやらがひたすらに美味く、もくもくとそれを食べていた。そんな時だった。

「あ、大倶利伽羅さ…、大倶利伽羅、今日から近侍お願いしますね」

突然言われたその言葉に、思わず固まる。

「………なぜ俺なんだ」

もぐもぐごっくん。よく噛んで食べてくださいという言葉を重んじて、しっかり噛んで飲み込んで言葉を発すれば、少しだけ笑って審神者が答えた。

「この本丸では近侍は5日交代って事は昨日説明したじゃないですか。それで昨日でちょうど今剣が近侍の5日目だったんです」
「たいみんぐばっちりってやつじゃったもんな!」
「………わかった」

なら仕方ない、か。
3個目の玉子焼きを味わいながら、首肯する。本当に旨い。

「それでは、食事が終わって支度を終えたら、執務室までお願い致しますね」

これまた首肯して、残った朝餉を一気に片す。味噌汁は、相変わらずうまい。
そうして腹に心地よい満腹感を持ちながら、自室に戻る。俺以外の二人がしっかりと武装していたことに驚いた。なんなんだ、俺がおかしいのか。今剣曰く、俺は朝に弱いらしい。知るか。

着替え終えれば、執務室に行かねばならない。近侍をしろ、隊長をしろと審神者は言った。 隊長をすることに異議はない。戦の最中、そういうこともあるだろう。俺は群れなければいいだけの話だ。だから、気持ちが下がる原因は近侍の方だ。嫌だろうが何だろうが、審神者のそばに常にいなければならない。出来ることならば、常に放っておいてもらいたい。

重くなる気持ちを他所に、足はしっかりと執務室の前へと来ていた。執務室の襖は常に開かれており、審神者はこちらに気付くと、小さく会釈しながら中に入るよう促した。

「わざわざ来てくださってありがとうございます。今日の出陣は先程言った通り午後からですので、先に近侍のお仕事をお願いしますね」
「何をするんだ」
「刀装作りです」
「…他には」
「ありません」

嘘だろう。近侍は将の周りにつく信頼に値する存在だ。他にもやるべきことが多くあるだろう。だというのに、目の前の審神者はのほほんと笑って、奥の方から茶菓子を持ってきてしまった。

「甘いものがお口に合うといいのですが…」

出されたのはお茶と、一口大の饅頭。審神者も食べるらしく、向かい合うそちらにもしっかり同じ物が用意されている。どうぞ、と促されて二人揃って饅頭を齧る。中は餡子で、白い生地の中にこし餡が詰まっている。生地自体もフワフワとしており、中の餡子だけでなくこれも十分にうまく感じる。気付くと、易々と一つを平らげていた。
ずず、とお茶を飲んだところで、審神者がこちらを笑いながら見てるのに気付いた。

「…なんだ」
「いえ、お口に合ったみたいなのでよかったなぁと思いまして」
「……、……」

無心になってひたすらに饅頭を貪っていた事に恥ずかしさを感じて、せめて反論しようとしたが、結局何も言うことなく口は閉じられる。
だが相手はそんなことを気にもせず、もう一つ懐から取り出してきた。どうなってるんだ、その懐は。

「それを食べながらでよいので、聞いてください」

饅頭を包む透明な袋を剥がしながら、視線をそちらに向ける。「大したことではない」と前置きを置いてから、審神者は話し出した。

「今、戦の状態は膠着しております。初めはこちらの負け戦だと思われていたこの戦争が、審神者の働きによって、徐々に形成が変わり、今は戦力差がほとんどなくなったからです。そんな中で投入されたのが、私達になります」

そこで審神者は1つ言葉を切った。お茶を飲んでから、改めて口を開く。

「この膠着状態をどうにか打破できる存在…。つまり向こうとこちらの戦力に差をつけたいのです。そうなるよう、訓練されて参りました」

じっとこちらを見据える瞳は、冷たい。まるで全てを見透かす様なそれに、思わず眉を顰めた。

「早く刀剣男士様を育て、戦力となり、この戦における要となるよう言われ、そうなるだけの教育をされて来ました」

「だけど」と、さっきよりも力強く審神者はこちらを見る。その瞳に、揺れるものはない。

「その教育は、私の考えとは全く違いました。だから、ほとんど私には意味の無かった、いえ、私と同期のほとんどの審神者に意味の無かったものでしょう」
「………」
「だから私は政府の考えとは違うやり方をして本丸を進めています。それがいつか、政府には邪魔になるかもしれない」

それでも。終ぞ揺れなかった瞳が、じわりと滲むのを、大倶利伽羅は確かに見た。

「私に、付いて来て頂きたい」

三つ指をついて、しかと頭を下げる。
出会って二日目。この審神者の人となりすらよく分かっていない。この言葉は全てが嘘で塗りたくられているのかもしれない。この目の前の女が、今までどうやって生きてきたのか、どうして審神者になったのか。そんなことすら大倶利伽羅は知らない。

それでも。

「………今の俺の主は、アンタだろう。頭を上げろ」

正直、何故このような言葉が出たのか、よくわからない。けれど、言葉を聞いて頭をあげた審神者が、へらりと笑ったのを見て、そんなことは瑣末な事だと思った。

「アンタがどういう立場だろうが、俺には関係ない。俺は戦うだけだ」

はくり、審神者の口が何かを言いかけては閉じられる。自分でついてこいと言っておきながら、いざこちらがついていこうと言うと、それを躊躇うのか。どこまでも、馬鹿な主だ。

「…敵がなんだろうが、俺の前に現れた奴は切る。それだけだ。アンタの命令には及ばない」

そこまで言って、ようやく納得したのか、ありがとうございますと一言だけ告げた。今にも泣きそうに、それでも耐えて心底嬉しそうに笑いながら。




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