君と飴玉3 | ナノ



初めての出陣、とはよく言ったものだ。戦など、幾度となく経験しているが、確かに己を自身で持ってなど当然、はじめてのことだ。
集合場所と指定された門の前に、審神者とほかの面々も集まる。ここに来るのには当たり前の様に廊下から降り立ったのだが、門に来て始めてこの屋敷を正面から見て、ようやく玄関というものがあるのを知った。
刀装、と呼ばれる物を渡され、それを仕舞う。本来なら最も良い物は金だと言っていたが、なかなかここではその金が出来ないらしい。だからか、俺に渡されたのは両方、銀の軽騎兵だった。

「じゃあとにかく気を付けて。中傷になったら撤退して下さい。そうじゃなくとも、厳しいと思ったら撤退で。お夕飯作って待ってますね!」

ぐ、と両手を握って笑顔をこちらに向ける。
審神者が門の横にあるよくわからない機器を操作すると、大仰な音を立てて門が開く。門の先は暗く見えない。だからといって俺のやることが変わるわけではない。一歩踏み出せば、とぷんと沼のような感覚が足に伝わる。そのまま、ずずずと入っていけばその感覚は嫌に明瞭になる。体を全て入れた所で、後ろの方からいってらっしゃいという声が聞こえた気がした。

門の中は酷く気持ち悪く、安定しない波の中を長く居座り続けなければならないように感じた。足を止めることなく進めれば肩をぽんと誰かが叩く。

「もちっと肩の力ぬいとおせ!楽でええがよ!」
「ばびゅーんとたいしょうくびをとって、あるじさまのもとへかえりましょうね!」

今剣がきゅ、と手を握る。こいつは手を握るのが好きなのか?チラリとそちらを見たが、相手はまっすぐ先を見据えるだけである。またも、振り解く事も出来ず、黙って足を進めるだけとなった。

「…まぁ、この空間はちくっと気持ち悪いかもしれんが、そのうち慣れるぜよ」

ぼそりと耳元で呟かれた言葉に眉をひそめる。この口ぶりから、こいつらもこの不快感を持っているようだ。

「これは何だ、術か」
「恐らくの。主も詳しくは知らんようじゃ」

この異様な感覚。まるで酔ったようだと思う。低迷感が酷いのだ。言葉では表しにくい、ただひたすらに『気持ちが悪い』感覚。
そんな事を思っていると、やがて世界が終わる。暗い中に細い光が溢れ、その光は徐々に広がっていく。最初は光だけだったその中に、どこかの景色のようなものが写されていく。どんどん太くなる光の中に、林の様なものが見えた。
やがてこの空間から出ると、景色が完全に変わる。鬱蒼とした林の中、もうそこは戦場と言って変わりない雰囲気が広がっていた。

遠くから響く殺気ともいえる独特の雰囲気が、ねっとりと肌に伝わってくる。抜刀して構えていると、離れた林ががさりと揺れた。

「囲まれたら終わりじゃ!気をつけい!」

言葉と同時に隙間から見える禍々しい光を放つ瞳。『あれ』を敵だと自身が理解した途端、体中の血が沸騰したように熱くなる。早く姿を現せ。お前を切らせろと、これから始まる血のやり取りを想像して、ざわりと自分の周りの空気が揺れた気がした。

「きますよ!!」

それを合図にしたかのように、獲物を持った異形の者が一斉に現れる。どれも短刀の様だ。一様に口に刀を加え、言葉ともとれない何かを叫んでいる。まるで獣の様だと、たぎる頭の中でどこか冷静に思う。

「行くぞ」

刀を握り直し、異形の者どもに突っ込んだ。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -