君と飴玉2 | ナノ



「ほぉ、おまんが新人か!待っちょったが!ご飯できゆうよ!」
「あるじさま!はやくごはんにしましょう!あとははこぶだけなんです。ぼくおなかすいちゃってたいへんでした!」
「ごめんなさい!すぐ手伝いますから!あ、大倶利伽羅さんはそこの座布団に座っててください!」

うるさい。ひたすらにうるさい。三者三様に喋るものだから、どれが自分に向けられているものかわからなくなる。
連れてこられた部屋は、一つ一つが大きく広い和室を、襖を全て取り外してさらに大きくした所だった。風通しの良くなった部屋の一つに、大きい座卓が置かれている。そこに所狭しと置かれた料理を見て、腹のあたりによくわからない感覚が湧いてきて咄嗟に腹をさすった。

「おなかがすいたんですか?」

いつの間に来ていたのか。敷居を跨ず、廊下に立っていた俺の目の前に小さな子供が見上げていた。

「おなか、すきましたよね。ぼくもすきました!さ、こっちですよ!」

再び手を繋がれて、無理矢理座卓の方へ連れていかれる。振り払う事も出来たが、この腹にくすぶる感覚が何なのか、そちらの方が問題だった。

「これは、飯で治るのか」
「なおります!それどころか、あるじさまのおしょくじはぜっぴんですから、やみつきになっちゃいますよ!」

与えられた座布団に座り、改めて座卓の上に並べられた食事を見る。白米に、野菜と肉をふんだんに使われたもの、それから湯気をもくもくと上げる汁物。刀であった頃も幾度となく人が食べているのを見たことはあったが、こんなにも喉が鳴った事は無かった。

「おいしそうですよね。きっとゆうげはもっとごうかですよ!あ、ぼくがおはしのつかいかたはおしえてあげますからね!」

当たり前のように俺の隣に座った子供は、聞いていないがぽんぽんと料理の名前を指さしながら言っていく。白米、肉野菜炒め、味噌汁。意外とそのままの名前が多い。
そうして、隣の声を聞きながら、意味もなく食事を見つめているうちに審神者とむつ、と呼ばれた男が戻ってきた。
男は審神者よりも先に子供の前に座り、結果として審神者は俺の向かいにしか座る所が無く、当たり前のように俺の向かいに座った。

「お待たせしました!ご飯にしましょう。あの、ところで大倶利伽羅さん、お箸の使い方は…」
「…コイツが」
「こいつじゃなくて今剣です!ぼくがおしえますからだいじょうぶですよ、あるじさま!」

濁された部分の言いたい意味がわかり、先を紡ぐように言えばぱっと華やぐように表情が変わった。

「あぁ、よかった。もし食べ方よくわからないのあったら遠慮なく聞いて下さいね。それでは皆さん手を出して下さい、いただきます!」

両手を合わせて、声に合わせていただきますが上がる。人間が食事の前によくやっているのを見たことがあったが、まさか自分がやる事になるとは思ってもいなかった。

箸を持ち、野菜炒めをそれで挟む。何かの調味料であろうものでコテコテに光る肉と野菜。味など、想像できるわけもなく、少しの緊張を持ちながらぱくりと食べる。
途端、肉の旨みと野菜のさっぱりさが口の中で弾けだした。噛めば、シャキリと野菜がなり、肉も同時に柔らかくその存在を主張してくる。味など全くわからなかった調味料は、どこか酸味を持ちながらも野菜と肉をうまく絡ませてくる。
白くキラキラと光る白米も共に食べれば、肉と調味料の油っこさがかなり緩和され、いくらでも食べれる気がした。
ただひたすらに無心になって肉と野菜、白米を食べる。たまに味噌汁もすする。これもまた、そこまで濃い味というわけでもないのに、しっかりと喉を通りそのまま腹を満たしていく。

「いい食いっぷりじゃのぉ!これでこそ腕によりをかけた甲斐があるってもんじゃ!」
チラリと視線だけをそちらに寄越して、もくもくと箸をすすめるも、笑い声は絶えなかった。

「今日の夕餉は何なが?こじゃんと豪華なんじゃろうな!」
「色々作る予定ではいますけど、今から要望があったら聞きますよ」
「あ!じゃあぼくこないだつくってくれたあの、きいろいあれがたべたいです!えぇーと、ぷるぷるしたあまいものです!」
「えっ、なんでしょうプリンかな…」
「おぉ!わしも食べたいぜよ、ありゃあ絶品だったのぉ!」
「あ!それよりもぼくこんばんあれがみたいんです、あおいたぬき!」
「あぁ!こないだ途中で映画終わっちゃいましたもんね。じゃあ今日の夜はあれを見ましょうか」
「ええのお!つまみ買ってきてもええがか?」

本当に騒がしい事だ。逆によくここまで会話が続く。今はまた別の話題に移り変わっている。ツマミは何がうまいかについて、俺が知るわけが無い。全く途切れる事のない会話が、ぽんぽんと続いていく。
その間もただひたすらに食事を続ければ、もう食べ終わることに気付く。名残惜しいような気もしたが、それでも腹へのくすぶりが無くなった事に対する満足感の方が上回った。どうやら他の奴等も食べ終わったらしく、立ち上がって部屋を出て行った。

「あ、大倶利伽羅さん、食器とかもろもろ全部置いたままで構いませんからね。戦支度の方ををお願い致します」

ほかの奴等も戦支度をしに行ったのだという。確かにあいつら武装していなかったな。

「…あ、あの!」

立ち上がって部屋を出ようとしたところで、声をかけられる。振り返れば、審神者が立ち上がりつつ、下を向いて酷く言いづらそうにしているのが見えた。なんだ、と首を傾げれば意を決したように顔を上げた。

「お昼、何かお口に合うのありましたか!?」

何を言ってるのか、というよりもその勢いに驚いた。その一瞬の驚きの間を、何かおかしい方向に勘違いしたのか、更に言葉を続けてくる。

「あっ、いや、あの、初めてのご飯だったじゃないですか。これからもっと好きなもの増えてくといいなぁって思うんですけど、食事に関しては何が好きかって知っておきたいんです。食事は私の担当なので、皆さんの好きなものを作りたいんです。だから…その、さっきの中で何か好きなものがあったら、教えていただきたくて。あっ!もし無かったら全然いいんですけど!」

一気にまくし立てている間に、顔がどんどん赤くなるのがわかる。なぜ赤くなるのかはわからないが、相手の言いたい事はわかった。
先程食べた食事を思い出す。当然、全て初めて食べたがどれも上手いと感じた。だが、恐らくコイツが欲しい答えはそれではない。
黒曜石の様な瞳の中に、俺が写る。その瞳が、ゆらりと炎の様に揺れたのを俺は見逃さなかった。

「………味噌汁」
「えっ、」
「味噌汁だ」

それだけ伝えて、すぐに踵を返して部屋を出る。らしくないことを言ったとは思っている。あんなもの馴れ合いでしかない。早足で歩くうちに、じわじわと腹元から溢れてくる熱を無くす方法を俺はまだ知らない。



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