こっちへおいでと鳥が啼く2 | ナノ



「あはははは!!!!それで?慌てて連れてきたの?うひゃーー!!面白い事もあるもんだ!!!」
ゲラゲラと笑いながら僕の方を見るのは僕よりも年上で、でもお母さんよりも何十歳も若そうで、そして何よりも綺麗な女の人だった。


長い長い階段を登り切るーといっても抱えられていたから僕は登ってないのだけれどー頃には、僕の涙も止まってて、鼻水だけになってた。けれど、あの人の背中越しにみた階段の底の方が、もう暗闇に包まれてて先が何も見えなかったのが、余りにも怖かったせいでまた泣いた。
その暗闇から、なんだかよくわからない白い手が何本も伸びてきたりしそうで、足元からぶるぶるしたのを必死に隠した。

そうして連れてこられたのは初めて見るような、テレビの中で旅行番組とかで紹介されるような所だった。なんていうんだっけ、古き良き日本?のような所。
一階建ての家なんて、初めて見た。コンクリートなんて知りませんみたいな、全部木で作ったようなその大きな家は、家の周りもたくさんのお花と緑で埋め尽くされていた。
そもそも、まず階段を登りきったところにはすごく大きな門があって、そこからまっすぐ玄関口に石畳が続いていて、その周りは芝生がある。
でも僕を抱いた男の人は、石畳の終着点である玄関口に入らずに、玄関口から向かって右側に曲がった。それから暫く歩いたところで僕を降ろした。その人が靴を脱いで廊下に上がるものだから、僕も慌てて靴を脱いで廊下に上がった。丁寧に磨かれた廊下は靴下を履いた僕はつるつる滑ってしまった。
でもその人はそんなこと気にせず、目の前の襖を勢いよく開けた。ここがこの人の部屋なのかな、って思ったけど中から女の人の声が聞こえて、違うのかって思った。

「何してる、早く来い」
言うが早いか行動が早いか、僕は首根っこ掴まれて部屋の中に投げ込まれた。言葉の通り、本当に投げ込まれた。室内は畳とはいえ、肩を打ち付けたけて結構痛かった。けれど、部屋の中の女性のぽかんとした顔の方に、僕は見惚れてしまって、涙どころではなかった。
白い素肌に、長い髪。割と茶色いその髪に、それと同色の瞳。それになんて言うだろう、神社の人に居る女の人が着ているもの、巫女装束に似ているようなものを着ている。少なくとも僕には見覚えのないものだ。
僕はまだクラスメイトの女の子の誰が好きとか、誰々がお前を好きだとか噂になった事もなく、それに僕自身は誰が好きとか考えたこともなかった。でも、この人は本当に可愛いし、すごく綺麗だと思う。無意識に頬が赤くなる。

「あぁ、ようこそ。ここは私の本丸。私がここの主です。どうぞよろしく」
驚いた表情はどこかへ行き、女の人はすぐに笑顔でこちらに言葉を向けてくれる。なんだかそれがむずがゆくて、うまく顔を見れなかった。
僕の隣にどかりとさっきの男の人が座った。それだけでびくっと肩がはねて、更にそれのせいでさっき打ち付けた肩が痛んで、僕は知らない間に掌を強く握っていた。
目の前の女の人が「で?どうしたの?」と隣の男の人に説明を求める。
それを深いため息で返しながら、男の人はさっきあったことを全て説明し出した。
そして、さっきに戻る。話してる内に段々と女の人が何かを堪えるように震えだしたのはわかったけど、それが話の終わりと同時に吹き出したのだ。

「まさか!!子供を泣かせた挙句、対応がわからず、ここに、駆け込んでくる、とは…!!」
ひぃひぃ言いながら遂に涙を流すほどに笑ってしまう女の人に、隣の人は終始イライラしている。僕はどちらかというとそちらの方が怖くて、涙目になってしまう。

「後で覚えてろよ…」
「喧嘩なら負けないよ…!いや待って、もうだめだ笑う!顔見ただけで笑う!暫く顔合わせなくてもいい!?」
「却下だ」
「鬼!」
二人はぽんぽんと言葉を交わしながら笑っている。男の人は完全に無表情だけど。
でもふと会話が途切れた瞬間、女の人がこちらを向いた。それだけで、僕は背筋をピンと正してしまう。

「ね。君、今いくつ?」
「え?えぇと、10歳…です」
てっきり名前とか住所を聞かれるものだと思っていたから、少しだけ拍子抜けした感じで答えてしまった。
でもしっかりと年齢を告げれば、隣の男の人が驚いたように目を見開いた。こうして見ていれば結構わかりやすい性格なのかもしれない。

「そっか、随分大人っぽいんだね。すごいや」
素直に褒められたことが嬉しくて笑っていれば、男の人が静かに部屋を出ていった。
なんだろう、と思ったものの、僕と女の人だけになったんだと気付いた瞬間に、僕はついドキドキしてしまった。
こんなに綺麗なのに、あんな風に笑うんだなぁってなんだか余計に心臓が変なふうになる。
でも女の人はそれをどこか勘違いしたみたいで、ごめんねと謝った。

「アイツ、今お茶汲みに行ってくれてるだけだから気にしなくていいよ。すぐ戻ってくるから」
「あ、いや、えぇーと、……はい」
僕がそうじゃないと言えずに項垂れると、女の人はこちらと改めて向き合った。

「じゃあこの本丸を案内しようか。せっかくだから色々見るのもいい勉強さ」
ほらおいで、と手を引かれて立ち上がる。まさかそんな事を言ってもらえるとは思ってもみなくて、驚いたものだから反応が遅れた。

「あ、あの!」
「うん?」
「さっきの人は、良いんですか?」
女の人は確かに「お茶を汲みに行った」と言っていた。だったら待たなくてはならないのではないか。
そう思っての意見だったが、彼女はそれを聞いてカラカラと笑うだけだった。

「大丈夫大丈夫、アイツなら心配ないよ」
それだけ言って、女の人は襖をすぱんとあけて部屋を出てしまう。手を引かれている僕は、自然とその後を追うことになった。

僕らが出た後、すぐにさっきの男の人が部屋に戻ってきたのに気づかずに。



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