ヒヤシンスの花畑8 | ナノ



酷く体が傷んで目が覚めた。まるで体中に蛆が湧いたようにざわざわと掻き立てる。次第にはっきりしてくる視界の中で、石畳の床が目に付いた。

「目が覚めた?新人クン」
頭上からの声に反射的に体を起こそうとしても、全身が痛んで膝立ちにすらなれずその場に蹲る。
だが、こんな苦しみよりも問題がある。あれが無い。常に隣にあるはずの、無ければならないあれが。蹲る視界の中で、ぐるぐると探すが見当たらない。

「もしかして、コレを探してる?」
かちゃり。首を上げれば、相手の手の中に探してる物があった。
俺の、本体だ。

「むざむざ返すわけないでしょ。アンタ錬度高いんだし。出陣の時は渡すよ」
痛む体を抑えて上半身を起こし、後ろの壁に背をつける。そうした事でようやく今の状況が理解できた。
鉄格子の狭い部屋、蔓延る血の匂い、時々聞こえる呻き声。いい待遇は全く期待していなかった上に、必要ないと思っていたため予想通りだ。どちらかといえば、鉄格子のある本丸の方に驚いている。
カッ、とヒールを鳴らして、鉄格子の外側にいた一人の刀剣男士が少しだけ苛立ったように声をあげる。

「アンタが変な行動した瞬間に、アンタんとこの主は敵に襲われて死ぬから。余計な事は考えないようにね」
「…随分と、バカな事を言う」
半分嘲笑でそう言ってやれば、鉄格子が大きく揺れる音が響いた。相手が柵を蹴ったのだ。

「何がバカだって?」
「敵と懇意にした所で、向こうがお前らを裏切らないとは限らないだろう」
ごく正論を返してやれば、言い返せないかのように苛立つ舌打ちが聞こえた。それから響くヒールの音と扉の開く音。

静かになった牢屋の中で、静かに瞳を閉じる。未だに体に蔓延る呪いはある。この体があと何日持つかなんて知らないが。だが、それだけだ。
むしろ、ここに引っ張られる際に見たあの表情がこびりついて離れない。必死に手を伸ばしてこちらに走ってくる時の、あの泣いた顔が忘れられない。
呪いの苦しみに耐える表情が見ていられなくて自ら背負ったというのに、次は涙だ。

「…クソ…」
誰に当てるでもないイラつきは、声とともに空気に滲んだ。



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